歴史小説の醍醐味 【歴史奉行通信】第十七号
こんばんは。
伊東潤メールマガジン
「第十七回 歴史奉行通信」を
お届けいたします。
〓〓今週の歴史奉行通信目次〓〓〓〓〓〓〓
1. はじめに
2. 『歴史小説の醍醐味』
3. おわりに/ 海道氏とのエピソード・出典
4.伊東潤よりお願い
5.お知らせ奉行通信
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
━━━━━━━━━━━━━━━
1. はじめに
━━━━━━━━━━━━━━━
さて、いよいよGWですね。
寒くもなく暑くもなく、
どこかに出掛けるなら最適な季節ですね。
私は明日5/3(木)に
「北條五代まつり」のパレードに参加します。
いつも先頭付近を市長と一緒に歩くのですが、
ほとんど誰も気づいてくれません(笑)。
この祭りには
高嶋政伸氏や合田雅吏氏も参加し、
昨年などは25万人も集まり、
凄い盛り上がりです。
高嶋氏とは以前に
対談でご一緒したこともあり、
また合田氏とご一緒するのは
今回で三度目になりますので、
二人とも親しくさせていただいております。
********************
さて話は変わりますが先日、友人から
「文庫本の解説は書いていないのですか」
と問われ、
「これまで8作ほど書いてきました」
と答えたところ、
「ぜひ読みたいので、書名を教えて下さい」
と言われました。
新聞書評などは頻繁に頼まれるのですが、
文庫解説は1年に1回くらいのペースですね。
たいていは作者からのご指名なので、
とても栄誉なことです。
私の解説を読むために
本を買っていただくのは心苦しいのですが、
依頼された作品は
どれも心からお勧めできるものばかりです。
実は、あまり好みでない作品は
(昭和の作家の再版ですが)、
解説を頼まれてもお断りしています。
つまり私は、納得のいく作品しか解説をお引き受けしていません。
これから定期的に、
このメルマガで解説の短縮版
(約3分の2バージョン)を掲載します。
それで面白そうだなと思ったら、
ぜひ作品をお求め下さい。
まずトップバッターは、
海道龍一朗氏の『早雲立志伝』からです。
この作品の解説が、
私の解説デビューになります。
━━━━━━━━━━━━━━━
2. 『歴史小説の醍醐味』
(海道龍一朗氏『早雲立志伝』解説より)
━━━━━━━━━━━━━━━
ルネッサンスの巨匠の一人・
彫刻家のドナテッロは、
「叫べ、叫べ」と声を上げつつ、
像を彫ったという。
それは、単なる大理石の塊にすぎない像に魂を吹き込む行為であり、
これによって像は躍動し、
多くの人を感動させる芸術に昇華される。
海道龍一朗氏の作品を読んでいると、
ドナテッロのことを思い出す。
氏にとって執筆とは、
ペンを持つことではなく
鑿(のみ)を握ることであり、
大きな大理石の中から
像を削り出す作業である。
最初の一字を刻んだ瞬間、
氏は大理石の中に眠る像を見ているのだ。
執筆という行為を、
そこまで昇華し得た作家は、
数えるほどしかいない。
氏は、まさにそのうちの一人であろう。
(中略)
その海道氏が、満を持して送り出した作品こそ
『早雲立志伝』である。
氏が北条早雲という題材を取り上げたのは、
必然のような気がする。
「武者は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つことが本にて候」
(『朝倉宗滴話記』)という戦国の世にあって、
早雲は、その志操の高潔さと生き様の清廉さから、希有な人格者として近年、
とみに評価の高い人物である。
早雲の人間性と
氏の文体が見事な一致を見せたこの作品は、
まさにドナテッロの彫像のように
躍動している。
最初の一行目から、
その文体のごつごつした肌触りが
五感を刺激する。
次第にそれは緩やかな稜線を成し、
物語の世界へと読者を誘っていく。
一見、説明過多に思える
大徳寺での修行の日々の描写も、
実は中世という時代背景と、
禅思想に裏付けられた早雲の人格を描くために必要なことだと、
読者は後から気づくはずだ。
そこから物語は一気に加速していく。
またこの作品で、
氏は従来にない新しい早雲像を提示している。
まず早雲の年齢が若い。
これは最近になって定説となったものを採用しているのだが、この新説を使ったことで、
物語の中で若き早雲が躍動している。
かつて
「伊勢の素浪人」
「下剋上の申し子」
とばかり思われてきた早雲が、
実は室町幕府の申次衆まで務めたエリートであったという新説を取り上げることで、
物語にいっそうの深みができた。
これにより、
明応二年の政変をはじめとした京の政局と、
早雲の伊豆・相模への侵攻作戦との連動が理解でき、早雲が政局の中心にいた一人であることも分かってくる。
こうした背景や状況設定を踏まえた上で、
早雲の物語では定番となっている
太田道灌との出会い、
小鹿範満の討伐、
足利茶々丸や大森一族との死闘が繰り広げられていく。
そして早雲は伊豆を平定し、
小田原への進出を果たす。
早雲の生涯を知らない読者はもとより、
よく知っているはずの私のような者まで、
胸躍る物語が展開されていく。
そうした中、
史実として明らかになっていない部分には、
氏独自の解釈が施され、
物語として昇華されているのだが、
それがまた的を射ている。
氏の歴史に対する洞察力が類まれな証左である。
********************
中盤からトップギアに入った海道節は、
さらなる加速を見せ、一気に終盤に突き進む。
これは吟味して書かれた文章ではなく、
一筆書きの勢いがある。
おそらく一気に書き上げた後、
推敲段階で語彙の選択をし、
文章のリズムを
整えていくのではないだろうか。
さらにエンディングに至る最後の加速と、
読了後のカタルシスは孤高の域に達している。
読者は心地よい読了満足感と、
万感の思いを抱きつつ本書を閉じることになるだろう。
これこそが歴史小説の醍醐味である。
氏は後説「史実と虚構の恵方へ」で、
こう書いている。
「史実と虚構の間には、
深くて見えない峡谷がある。
しかし、
そこには確かに清流が流れているはずだ。
それを見つけなければならない。
そして、物語に縦横無尽の外連を与え、
読者には心地よい夢想を……」
さらにこうも言っている。
「共に進みゆく史実と虚構の恵方にしか、
新しい物語はあるまい」
こうした言葉からは、
史実を丹念に調べ、
不明な部分には合理的な虚構を組み上げるという、氏の誠実な作風が垣間見られる。
氏や私のような歴史とその裏に眠る虚構を扱う者は、歴史に対して常に真摯に向き合わねばならない。
そこから新しい物語が生まれる。
それを氏は体得しているのだ。
また後説で、氏は
「されど、それとて、まだ道半ば」
と記しているが、
実は、この物語は未完である。
この後、早雲は三浦一族を滅ぼし、
相模一国を平定、
さらに房総半島に進出するわけだが、
氏の構想によると、
この後の話も『早雲立国伝』といったタイトルで執筆する予定だという。
その作品が完成した時、
この後に続く物語を描いた『北條龍虎伝』(講談社文庫)へとつながり、
早雲、氏綱、氏康三代にわたる北条家の物語は、
巨大なサーガとして完結する。
その日が待ち遠しいのは、
私だけではないだろう。(以上)
━━━━━━━━━━━━━━━
3.おわりに /
海道氏とのエピソード・出典
━━━━━━━━━━━━━━━
さて今回はいかがでしたか。
これが解説デビューということもあり、
まだ拙い面もありますが、
解説の機会をいただいた海道さんに深く感謝しております。
海道さんとは洋楽仲間で、
カラオケでマイナーな洋楽を歌い合ったこともあります。
オールマンブラザースの
「ステイツボロブルース」を、
海道さんの歌と私のエア・スライド・ギターで演じた時は盛り上がりました。
そうしたやんちゃな一面はあるものの、
海道さんご本人はソフィスケートされたジェントルマンで、とても人当たりのいい方です。
海道氏の北条サーガも、ぜひお楽しみに!
<海道龍一朗氏 解説内 出典一覧>
・『早雲立志伝』
https://amzn.to/2rc7swA
・『北條龍虎伝』
https://amzn.to/2HNBVat
━━━━━━━━━━━━━━━
4.伊東潤よりお願い
━━━━━━━━━━━━━━━
伊東潤メルマガ「歴史奉行通信」を
お読みいただき有難うございます。
当メルマガの感想等は是非ツイッター等のSNSでツイートください。
ハッシュタグを
「#伊東潤メルマガ」「#歴史奉行通信」
と付けていただければ幸いです。
いつも目を通しております。
有難うございます。
また、インタラクティブを心がけている、
伊東潤のメルマガでは
皆様のお悩みを、
歴史上のエピソードになぞらえてお答えしていきます。
今後、こちらのコーナーもより活性させていきたいと思いますので、
是非お気軽に以下のリンクよりお送りください。
https://goo.gl/forms/QC0Pu5E4B76NjAyg2
━━━━━━━━━━━━━━━
5.お知らせ奉行通信
新刊情報 / 読書会 / その他
━━━━━━━━━━━━━━━
【新刊情報】
☆文庫版『池田屋乱刃』(講談社)
5月15日発売予定
「あの暑い夜に何があったのか」
世に名高い新選組の池田屋事件。
しかしそれは、これまで新選組サイドから語られてきたものばかりで、
志士の側から描いたものはありませんでした。
それを伊東潤が、最新の研究成果を元に描き出します。
しかも同一事件綿視点から描くという多視点群像劇+連作短編という構成的にも面白い作品になっています。
https://amzn.to/2rdZWkJ
☆『ライト・マイ・ファイア』
(『アンフィニッシュト』改題)
(毎日新聞出版)6月20日発売予定
「サンデー毎日」誌に、
一年余にわたって連載していた『アンフィニッシュト』が、『ライト・マイ・ファイア』と改題され、装いも新たに
単行本(ソフトカバー)として発売されます。
伊東潤の全知全能を傾けた
社会派ミステリー超大作です。
詳細は6/6発行のメルマガでお知らせします。
【読書会情報】
次回の読書会の開催は6/9(土)となります。
今回は第一回ファン・ミーティングとして
『ファンベース』(ちくま新書)を
課題図書として、「読書をもっと面白くする」を話し合います。
お申し込みはPeatixからですが、
すでに満席御礼となっています。
https://peatix.com/event/375014
【テレビ出演情報】
それぞれの番組のHPで、内容や出演者がオープンになるのは一週間前です。
それゆえ情報はメルマガ会員様だけのものとし、SNSなどでの拡散はお控え下さい。
5/10(木)
「英雄たちの選択」(NHK) 日本刀
5/12(土)
「諸説あり」(BS-TBS)小牧・長久手の戦い(前編)
5/19(土)
「諸説あり」(BS-TBS)小牧・長久手の戦い(後編)
【ラジオ出演情報】
NHKラジオのレギュラー放送は、いつも通りあります。
この番組は「マイあさラジオ」といって、
NHK第一放送で毎日やっているものです。
私の担当は土曜日で隔週です。
だいたい朝の7:30から始まります。
今は第二と第四土曜になります。
http://www4.nhk.or.jp/r-asa/
【オープンセミナー・サイン会情報】
☆5/3(木) 「小田原北條五代まつり」に参陣
市長と一緒に行列に加わります。
https://goo.gl/eKiECm
☆5/19(土)「くまざわ書店南千住店」
サイン会参上
このサイン会は、誉田龍一氏の呼び掛けに応じた作家が二十人余も集まってサイン会を開催するという一大企画です。
リアルタイムの情報は以下よりご確認ください。
5/19(土) 15:00~17:00
https://twitter.com/ash1208kmzw
【メルマガバックナンバー】
伊東潤の魅力がたっぷり詰まったメルマガ「歴史奉行通信」。
途中からご登録いただいた方や「読み逃した!」という方に向けて、バックナンバーが読める仕組みを作りました。
以下の伊東潤のnoteのサイトよりバックナンバーの購読が可能になります(*一部有料)。
一回ずつアップしていきますので、お楽しみに。
https://note.mu/jun_ito_info/m/ma2f23f41e9b5
−−−−−−−− 最新情報はこちら −−−−−−−−−
Twitter:https://twitter.com/jun_ito_info
Facebook:https://www.facebook.com/itojun.info/
note : https://note.mu/jun_ito_info
■メールマガジンを友人に教える場合
下記URLをお伝え下さい
http://itojun.corkagency.com/mailmag/
ここから先は
伊東潤メールマガジン【人間発電所日誌】
歴史小説家 伊東潤が毎月第一・第三水曜日に配信しているメールマガジン【人間発電所日誌】。 歴史に関する情報や作品制作秘話、伊東潤が読者のお…
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?