公正な貿易
中国の習近平がフォンデアライエンEU大統領やマクロン仏大統領と会談したらしい。貿易ルールに関することが話し合われた模様。国境炭素調整やバッテリーなどを始めとするEU域内生産やもしかしたら蒸し返し的だがウイグルなどの労働生産における人権問題なども取り上げられたのかもしれない。
EUの主張はかねてから透明性のある公正な貿易の推進ということに尽きるのだろう。政府上げてのダンピング価格設定やそれによる市場の席巻の阻止が目的だ。そうしないと安い中国製品がどんどん入ってきてしまい、EU域内生産やその雇用環境が崩壊してしまう。
ブロック経済を標榜して、域内の保護主義、保護貿易をしてきたのは今に始まったことではない。というか日本だってアメリカだってどの国であっても関税という手法で国内産業と雇用を保護しているし、確かにトレンドとしてはFTAやEPA、TPPのように自由貿易にして関税障壁を撤廃して相互に経済発展させる流れはあるのだけど、そもそもの風土の違いによるあるいは文化や産業の違いによる国ごとの強み弱みがあるから、そんな理想的な話ですむはずもない。特に農産物などは、それこそ気候や文化を含めた地域の特性に合わせて特徴ある商品があるわけだから、長い道のりだろう。EUとの間では日本酒とワインが相互に関税撤廃されたのは記憶にあたらしいし、その恩恵を被ってる感じもしないわけでもないけど、チーズはまだだし、あとアメリカとの牛肉交渉もいつも大統領が変わるたびに話題になる。
そんなことより、中国が世界の製造業として君臨しているこの現実を、EUはどう捉えるか、そこに興味がある。温暖化をなるべく加速させないようにということでパリ協定を発行させ環境政策をぐいぐいい推し進めるEUだが、そのためには安い太陽光発電技術、安い電池技術、安い風力発電という「モノ」が必要だ。理念だけじゃ社会は変わらない。そしてそれを供給可能にしてくれているのが正に中国だからだ。
石炭をたくさん使っているからけしからんというのは簡単だが、 生産設備があるのだからトランジションには時間がかかる。中国から太陽電池や風力発電の輸入をやめるわけにもいかないだろう。そもそもこれほどまでに安く作る技術がEUには存在しないからだ。単なる人件費の問題ではなく、生産技術の革新はすでに中国では自立循環するまでになっていて、米国とも肩を並べるイノベーション力も備えている。再エネの導入量だってダントツの世界一だろう。かつての日本が謳歌したものづくり技術がそのままスケールして世界市場を席巻しているとみるのがおそらく正しいと思われる。EUもプライドがあるから域内に工場誘致することでなんとか中国の技術を自分たちに取り込みつつ雇用問題に道を見出したいのだろうけれど、次第に先進国の覇権が衰退し途上国経済が発展する現在においては、中国としては別に欧州を相手にしなくても市場は確保できるのではないか?などの考えも浮かんでくる。炭素国境調整はパリ協定の理念を実現するために必要と強く主張できる発明品なのだとは思うし、すでに一部実施に移っていると思われるが、そもそも自然エネルギーは国土がある気候区分によりポテンシャルが異なるし、地球上に公平に分配されているものではない。足りない分は日本のように海外から地下資源由来のエネルギーを輸入しなければならない。日本も再エネ100%を実現できると主張する人はいるだろうけど、夢物語だ。
地球の気候変動の抑制という人類共通の目標に向かってどのように公平に努力するのかがCOPなどでは毎回議論されるが、そもそもの公平という意味では、時間軸と空間軸を入れるとかなり複雑だ。中国の石炭などやり玉にあがってはいるものの、時間軸をいれると欧米各国がそれこそ温暖化の元凶だった時期が長いし、数世紀にわたり植民地政策を推し進めてきた欧州各国も人権問題でもとやかく中国を指摘できる立場でもない。だがそんなことを言い出したらきりがないので、時間軸はとりあえずやめて、建設的に未来の話だけをするのだろうけど、その場合においても、時間と空間はかなり問題だ。本来であれば、地球という全人類の財産の利用についても、様々な分布をもつ自然エネルギー利用や地下資源利用のその方法についても議論されるのが本来あるべき姿であろう。国境という政治的な線引により国や地域の既得権益を主張したのでは、気候変動の問題は解決しない。また豊かな資源や豊かな経済を持つ国に人が魅力を感じるのはごく普通のことなので、移民という形での地球上での人の移動も本来であれば自由であるべきなのだろう。ツバルが温暖化で沈んでしまうのであれば、その前に移民すればよい。抵抗するならベネチアの人口堤防のようにとことんやれば良いけど。とにかく全地球的な課題の解決を目標として掲げているわけなので、全地球的に取り組むべきだと思う中で、新しい国境調整や障壁の設定は、単純に既得権益のロックオンをしようとしているように見えてしまう。欧州の環境原理主義的な指導者達がどこまで純粋に将来世代の地球環境を心配して物事を主張しているのかよくわからないが、排他的思考が内在する妥協の産物が、今のトレンドなのだと思われる。
トレンドはあくまでもトレンドであり、ひょんなきっかけで潮目が変わることもあるだろう。そして21世紀の技術覇権国は間違いなく中国になるであろう。そういう意味で、中国が今回のEU訪問で、何を話して、何に共通の理解を得たのかは大変興味深い。
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