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ポートスタンレー『死闘』1982年(死の谷の戦い)

「み、見えるっ!」

 戦闘爆撃機が肉眼で捉えられた。

 驚くべきことにミラージュとスカイホーク機は海面すれすれ<三メートル>の高度でフォークランド海峡に侵入してきた。

 「レーダーサイトにうつらなかったのは、このせいだ……」

 第一防御線のフリゲート艦のクルーは叫んだ。

 同時に第一防御線の艦艇は弾幕を張り始めた。

 タイガーキャット、シーダートミサイルが朝日の中で風をきって飛んでいく。


 敵のミラージュが回避運動に入った。


 その後からスカイホークが低空からフリゲート艦のレーダーをかすめるように横切った。

 一〇〇〇ポンド爆弾の水柱が上がった。

 「ハリアーはまだか!」

 ウッドワード司令長官は叫んだ。

 彼が最も案じていたのは、全く武装していない『キャンベラ』のことだ。

 これに一発でも爆弾を食らうと、上陸作戦はすべて失敗になる。

 アルゼンチン空軍のスカイホークがまた後から飛来して爆弾を落としていく。

 また水柱が上がった。

 その一瞬の後、ハリアーが一機のスカイホークの後ろを取った。



 スッという音がした。

 サイドワインダーである。

 熱源にロックするこの短距離戦用ミサイルはやがて……スカイホークの尾翼に突き刺さった。

 ドッと白い煙が上がった。

 スカイホークは火災を起こしたまま海面に墜落していた。

       *

 この時、上陸部隊は先に潜入していたSASとSBSの協力で上陸をなんとか無事に果たしている。

 第四〇大隊はサンカルロスにすぐさま移動した。 



 実はこの時、サンカルロスそのものは既にもぬけの殻だったという。

 略奪に次ぐ略奪が繰り返された後で、住民のみが取り残されていたという。

 この間、橋頭保<きょうとうほ>の確保が行われている。

 しかし、アルゼンチン空軍の猛攻の前に、困難を極めた。

 予定より遅れた形で丘の対空陣地は完成した。

 ここからレイピアミサイルが対空防御を始める。

 一方で、アルゼンチン空軍は第一波から第二波を繰り出していた。

 七二機余りの戦闘機がペブル島<空母「ハーミーズ」「インヴィンシヴル」のいる海域>方面とフォークランド海峡に分かれて侵入している。


 数の上ではアルゼンチン軍は圧倒的だったが、補給の問題があった。リオ・ガジェコス空港から空中給油で一旦にフォークランドに侵入。つまり滞空時間には制限があったのだ。

 この時、空母『ベインティシンコ・デ・マヨ』はどういうわけかアルゼンチン沖から動こうとはしていなかった。

 「何故空母は動かん?」

 テイラー少佐はスカイホークの猛攻の中で全く別のことを考えていた。

 「アルゼンチン海軍はイギリス軍機動部隊を分断する手立てをもっていることは分かっている……」

 スカイホークそしてシュペル・エタンダール機……この二つは空母艦載可能だ。



 敵は空母という持ち駒を東に動かすだけで、イギリス機動豚をせん滅することが可能なのだ。

 そこからエグゾゼでイギリス海軍の空母『ハーミーズ』『インヴィンシブル』を攻撃すれば、敵はハリアーすら沈黙させることが出来る筈だ。

 テイラー少佐は戦慄の中でこの『不可解な状況』に面していた。

実はこの時、アルゼンチン海軍と空軍が信じられない状況に陥っていたのだ。

 『内部分裂』

 である。

 彼ら上陸部隊はこの時、サッチャーがとった別の手段を知らない。

 総ては外交だった。

       *

 フランソワ・ミッテランがペルー経由でエグゾゼを『陸路』でアルゼンチンに送り込もうとしたのは先に触れたが……。



 『イタリアは政略で陥とすのが上策』



 つまり、思いもよらぬ封じ手をロンドンにいるサッチャーは打っていた。

 チリの独裁者『エルンスト・ピノチェト』である。

彼にサッチャーは『基地の使用願い』を要請したのだ。

 一瞬にしてペルー南部からアルゼンチンの東側、そして『ビーグル海峡』一帯が戦慄した。

 ピノチェト……。

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淳一
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