ポートスタンレー(死の渓谷の戦い)

【シーハリアーのドグファイト】


資料の関係上、歴史的な公平性の飢えには成り立ってません。
あくまで当時の西側の報道として。

1982年、サンカルロス上陸の後、
アルゼンチン空軍は超低空飛行で惨劇に転じる。



『ポートスタンレー』抜粋
冒険家サスビー・テイラー




三月二十二日のこと……フォークランド諸島から一三〇〇キロ西に位置する『南ジョージア島』が、アルゼンチン海兵隊によっておとされた。
 この時、かねてより懸念していた、ガルチェリの侵攻は現実のものとなったのである。
       *
プリマスにある海兵隊第三コマンド旅団はトムソン准将の声がかかり、一斉に集結した。
 「フォークランド諸島の西がやられた」
 つまり、南ジョージア島のことである。
 その月の二十二日のことだ。
 この南ジョージア島自体は、フォークランド諸島とは距離を絶妙に隔てている。
 「これは侵略です」
 夜半、サッチャーはベルギーのブリュッセルにいた。欧州委員会の会議の最中だった。
 彼女は凍てつく飛行場の中で、はっきりとした口調で言ったという。
 「絶対に例外は認めません。ガルチェリ軍部の独走に対しては、目にモノを言わせてやりなさい」
 彼女はすぐさま、軍事行動を発令している。       *    
 同島に駐留していたのは、ミルズ中尉以下、二十三人の英海兵隊員のみ。
 ここに早朝、ガルチェリたち軍部の命令で、アルゼンチン海軍がコルベット艦『ゲリコ』に乗ったアルゼンチン部隊が制圧にかかった。
 ゲリコに乗った兵士たちは、瞬く間にリース港(南ジョージア島)を制圧。
 英海兵隊員は多勢に無勢で、そこから東にあるグリトビーゲンに撤退。
 そこで、アルゼンチン部隊から降伏勧告を伝えられる。
 この時のやり取りを実は英海兵隊は『高周波帯』の無線でやり取りしている。
 これが、付近を航行中だった、イギリスの流氷哨戒艇エンデュアランスが傍受した。
これが、ベルギーにいたサッチャーの耳にすぐさま入ってきたのだった。
       *
南ジョージア島という南極観測に使われる拠点そのものが、軍部では『なるほど』と納得せさせるを得ない地点だったという。
 この島はフォークランド諸島より更にアフリカよりにある……ということから、かなり本格的な攻勢が始まることが分かった。
 プリマスにいた英国コマンド部隊のムーア司令官はこの時、サスビー・テイラー少佐の協力を要請している。
 ブリュッセルの空港でイギリス国防相から電話で彼女に連絡が入っていた。
 ことこまかな現状をサッチャーはすばやくメモしていた。
 「サスビー・テイラー少佐?」
 サッチャーはジョン・ノットからその名前を聞いた。
 「彼をノースウッドの中央指揮所は特別顧問としてスタッフに入れることにしたようです」
「つまり、どういうことかしら?」
 サッチャーは詳しく聞いた。
 「フォークランド諸島一帯の気候と土地勘ですよ」
 「ああ……」
 「このテイラー少佐ですが……元フォークランド駐在の士官で、かたやヨットマンとして名を馳せている人物です」
 「つまり……正確に言うと『冒険家』に近いわけ?」
 「彼は単独で、南極に近いこの島の正確な測量を彼は以前行ってます。ヨット……でらしいですが」
 「なるほど」
 「この一帯は海岸線そのものが非常に入り組んでいます……更にですがフォークランド海岸線に関する論文を提出しています」
 「アテになりそうね」
 「私もそれを読んだのですが、この一帯は風が強い」
 「ところで、南ジョージア島の方はほとんど不意打ちだったわね」
 「ええ、この調子では西フォークランド島のスタンレーが陥ちるのは週末辺りかと……」
 更にジョン・ノット国防相は続けた。
 「わかったわ。今すぐ機動部隊に発動命令を出して下さい」
 「マギー、本当にやるのですか」
 サッチャーは断言した。
 「これは『国際法』を踏みにじる行為です。断じて後には引くつもりはないわ」
 ノットは言った。
 「ロンドンで詳しい状況をテレンス・ルーインが説明することになってます」
 「今から戻るから」
 サッチャーは闇に包まれた基地の滑走路を急いだ。
 「サスビー・テイラー少佐ね……」
 彼女は闇の中で独りごちた。

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淳一
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