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花ざかりの校庭 第二部『神に誓って』

一旦気分が高まると、かえってどうしたらいいのかわからなくなる。

『つまり、小寺は田畑のことが好きなんだろ』

……ごめん。

『むしがよすぎるよ。俺は答えるいわれはない』

……田畑の電話番号くらい自分で聞けよ。


たしかにそうだ。

麻里は「わかった」と一言言って、電話をきった。

三年間、一緒の部にいながらあ、福山のアプローチをかわしていた。

『俺だって、傷つくんだぜ』

麻里は言葉を失っていた。

「……」

彼女は電話をきった。


しばらくして、玄関のベルが鳴った。

見ると、しおんが立っている。

「どうしたの?」

デジカメの袋の中に学生証がはさまっていたという。

「……ヤバい」

麻里は持っていた財布を点検した。

幸い落とし物はなかった。

「よかった、ありがとう」

しおんは、小さく頷くと、マンションの奥の部屋に興味しんしんである。

「……どういう話をするかな?」

「えっ?」

「彼と」

麻里は天井を見た。

急に考えても思い付くもんでなし。

エッチな話?

麻里はポツリと言った。

「こっちからきりだせる?」

しおんは恥ずかしそうに笑っている。

「……ムリ」

変な女だって思われるし。

しおんは言った、

「……思われてもいいって開き直るとか?」

「……それは」

麻里は赤くなる。

「……私、岡倉先生と一緒に……」

しおんは、小さな声で囁いた。

ふいに、麻里は仰天した。

「……嘘っ!」

すると、彼女は白い歯を見せて笑っている。

「いいじゃん」

「いつ?」

今年の春かな。

ほら、私来年は比良に戻るでしょう?

そしたらもう会えないと思って……。

好きだったから、彼の自宅に押しかけたの。

「顔に似合わず積極的な……」

しおんは笑っている。

彼女は眼鏡をずりあげた。

どちらかと言うと、清楚ないでたちの彼女がそこまで積極的とは……。

「男子は大抵、逆を想像するわけですよ」

しおんはさりげなく言う。

麻里は浅子を思い出していた。

あの猥雑な雰囲気、そして対照的なしおんの清楚な仕草。

「キスの話してた私、バカみたいじゃない?」

すると、しおんは首をふった。

「……経験ある人がいいじゃん」

極めて現実的だった。

中学生の時から計三人つきあっていたという。

しばらくして、また携帯が鳴った。

福山からである。

メールである。

「……何?」

しおんはすり寄ってきた。

麻里はメールを見て、「伝言だって、田畑に」。

……自分で連絡すればいいのに……!

麻里は言った。

だからね……、

「……意味深じゃない?」

と、しおんが言う。

「え?」

チッ、としおんは舌打ち。

自分でリングにタオル投げてやんの、あのバカ……。

しおんが毒づいた。

「えっ?」と麻里。

「つまり、麻里に口実ができるわけなんじゃない?」

しおんは両手をあげてWHY…ホワーィ、みたいなポーズ。

「……アーッ、ダメダメっ!」

彼女は麻里の携帯を放り出した。

「おおっと!」

麻里は携帯を凝視する。

「し、しおん、エンテツのこと?」

麻里は怪訝な顔になった。

福山に興味があるの?

「まさか」

しおんはギャハハと笑っていた。

「冷めつづける覚悟ならあります……神に誓って」

しおんは両手をくんでアーメン、と呟く。

月面で朝顔の観察日記をつけるぐらい無意味なことですよ麻里さん。

「よっぽどの物好きの類いよ」

ならば、姉思いの小寺智恵はつまり物好きなのだろうか。

麻里は?(はてなマーク)を抱きつつ、メールの詳細をチェック。

秋のコンテストの写真について、となっている。

「……来週の水曜日の午後5時、学校の講堂で待ち合わせ……」

麻里はメールを読み上げた。

「福山らしいかな?」

しおんが呟く。

「いや、アイツは智恵がいるから」

「……え?ヤバっ」

しおんは言った。

ふいに、小さなくぐもった音がした。

雷の音。

しおんは眉をひそめた。

「……雨ですか」


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淳一
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