「診療スタイル」と「収益面」から考える機器導入
○失敗できない機器導入では「目配りの効いた計画」と「手順」がかなめ
開業医にとって、医療機器の選択は悩みどころの一つです。「どれを置くべきか」「どのランクのものを選ぶべきか」「購入するかリースにするか」など、どの検討点も、診療と経営に大きな影響が及びます。
導入する医療機器によって、ある程度、提供する医療の範囲・質が決まりるため、臨床の視点で検討すれば、「あれも欲しい」「これも揃えておきたい」と際限なく候補が増えてしまいます。しかし、それでは経営が成り立ちません。「診療方針」と「経営方針」、双方の視点から最善の選択をすることが求められます。この記事では導入機器をどう決めるかについて手順と判断基準をお伝えいたします。
・開業準備時の機器導入の手順
診療スタイルを決定し、それを実現するのに必要な医療機器をピックアップし、優先順位をつける。同時に医事システムについて検討する。
事業計画の予算とすり合わせて、機器の種類とランク、購入するかリースにするか方針を計画する。
開業地の候補物件が挙がったら、診療圏の人口特性や競合の診療スタイルを調べ、医療ニーズを見極めた上で、「自院の診療スタイル」と「導入を計画している機器」の競争力は充分であるか確認する。
候補物件について、計画している機器の導入が可能であるか、電気容量・給排水設備・搬入経路などを確認する。
予算を経営計画に反映し、各メーカーからの見積書を添えた「事業計画書」を完成させ、融資の相談に使用する。
融資の目処が立ち、開業物件が決定したら、最終的に機器を決定する。機器の設置、院内LAN、電源など、各メーカーと詳細な計画を詰める。
以上になります。
尚、開業準備には立地選定、資金調達、機器の導入計画などいくつもの領域がありますが、決してそれぞれが独立しているわけではありません。機器の導入も、診療コンセプトの設定、資金調達、建築レイアウトなどに深く関わりがあり、その関係性を意識していないと追加工事が発生したり、開業物件に機器が設置できず、診療領域が縮小されてしまうなどの損害が生じます。包括的な視点を持ち検討するよう心がけましょう。
○迷ったときに頼りになる「医療機器導入の基本的な考え方」
導入する医療機器は、規模も種類も診療科目によりますが、ここでは共通した基本的な考え方をお伝えいたします。
・「診療スタイル」の視点で検討する
医療機器の導入計画には、前述のように「診療スタイル」が前提となります。例えば「地域の中で消化器内科として専門性の強みを発揮し、競合と差別化を図っていきたい」という場合もあれば、「総合診療、家庭医的な機能を持つとともに、訪問診療を行って地域包括ケアに貢献したい」という場合もあるでしょう。
前者の場合、医療機器はクリニックの競争力となる「戦略的重要度が高いもの」と、そうでないものを分け、かけるお金の配分をコントロールします。つまり「この検査、この治療ができれば自院の強みになる」という診療に要する医療機器については最新の高性能なものを導入し、その他は信頼できる中古機器で間に合わせるなど、できるだけお金をかけないようメリハリをつけます。
後者であれば、重装備は必要ありませんから、機器類の導入は最小限に絞り込んでフットワークを軽くしておく方法を推奨します。この場合、近隣に提携するクリニックや病院を確保しておき、必要があればそちらを紹介します。
診療スタイルには様々あり、どのようなケースでも最新の機器を豊富に取り揃えることがベストとは限らないのです。
・収益面の視点から検討する
機器は診療に要するものであると同時に、診療報酬点数による収入源という側面があります。
そのため、機器の初期費用、ランニングコスト(保守管理費、消耗品費など)、稼働率を考慮して「採算が取れるのか?」「投資効果はあるのか?」をあらかじめ評価することも大切です。
例えばCTやMRIのリース導入を検討する場合などは、「月額リース料+月額保守管理費」を「1例あたりの診療報酬」で割れば、ひと月に何回撮影すれば赤字にならないかという損益分岐点を明確にすることができます。ただし点数を生まない機器については、それ自体の費用対効果を出すことが難しいのも事実です。
そのような場合、開業時にはリースを積極的に検討するのもひとつの方法です。特にパソコンのOSに依存するソフトや機器は、定期的な買い替えが必要になります。また最新機器を用いることが習慣や診療のクオリティに重要な意味を持つ場合もあります。それらのケースでは、リースが向いているといえるでしょう。
○開業時は費用を抑え、導入機器は最小限がセオリー!ただし、どうしても導入したい医療機器がある場合は・・・
開業時には費用を抑える必要があり、導入機器は最小限にするのがセオリーです。開業後、経営を安定させれば後に拡充していくことが可能です。
ただし、院長が導入を要望している医療機器を活用して「患者さんを救いたい」という強い思いを抱いているのに、機器がないために諦めざるを得ないのは、医師として苦しいものでしょう。また何より、医療機関は患者さんのために存在しています。
そのような場合、導入するメリット・デメリットを洗い出し、中長期の視点で事業計画書を見直すことを推奨いたします。
※参考までに、下記記事をご一読いただければ幸いです。
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