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行政と一緒にボードゲームを作りました

ゲームのプレイ風景

2023年某日

2023年某日、我々「ちゃがちゃがゲームズ」に、福井県から依頼が舞い込みました。

曰く「SDGsをテーマにしたボードゲームを作りたいのですが、可能でしょうか」というものです。

個人的に、企業や行政とのコラボレーションでのボードゲーム制作を一度やってみたかったこともあり、お引き受けすることになりました。

ターゲットは誰?

最初に考えたのは、「ターゲットはどこだろう」という事でした。

福井県の方の話では、このゲームは「県がSDGsの啓蒙活動をするイベント等で使えるツールとして作って頂きたい」とのことで、対象者は広ければ広いほど良いが、小学校高学年~中校生を中心として、子どもから大人までをターゲットとしたい、ということでした。

少なくともはっきりしているのは、普段ボードゲームを遊ぶようなゲーマー向けではなく、一度もゲームを遊んだことのないノンゲーマーにも遊べるような内容にする必要がある、ということでした。

また、制作するゲームは「子どもたちだけでも遊べる面白いゲーム(=司会者が不要であること)」であることを求められました。

巷にあふれる「SDGsゲーム」とは違うものを

巷には、SDGsをテーマとした学習系のゲームが割といろいろあります。
それらの多くは「インストラクター」や「司会者」を必要とし、グループワークのような形で与えられた役割に沿った「ロールプレイ」のようなことを行いつつ、みんなで「ゲームのようなもの」を行った上で、最後に「振り返り」のようなことをします。

そこにはある意味、「テーマ」だけがあり、それを感じるために「ゲーム」という体裁を取っている、とも言えます。

そういうゲームにももちろん需要があり、様々な場面で有効に活用されているわけですが、今回作りたいゲームはそうではなく、司会者は不要で、プレイヤーだけでゲームが完結している、「普通のボードゲーム」を作りましょう、ということになりました。だからこそ、ちゃがちゃがゲームズにお声がかかった、ということでしょう。

最初の案は「神経衰弱」

最初は割と気楽に考えており、「誰でも遊べるということであれば、神経衰弱のような簡単なものが良いのではないか」と思い、いくつか案を出して自分で動かしてみました。もちろん、単純な神経衰弱ではなく、海外を含む様々な「面白い」ボードゲームのエッセンスを取り入れ、オリジナリティのあるルールを採用したものです。

しかし、実際に動かしてみると、面白くはあるものの、シンプルなルールのカードゲームでは、思った以上に「テーマ性」を表現するのが難しいと気が付きました。

シンプルなルールでは、何かゲームを遊んだ気にはなれるのですが、そこから「気づき」や「学び」のようなものを感じられるためには、テーマを表現するための、もう少し複雑な何かが必要ではないかと思い始めました。
「面白い」だけではダメだ、ということです。

ゲームのゴールを明確にする

先ほど挙げた学習系のゲームの多くは、プレイヤーに「ロール(役割)」を与え、ロールプレイによる会話を促すことで、プレイヤーに「テーマ」を体感してもらう構造になっています。

例えば、SDGsがテーマであれば「あなたの企業はCO2の削減をするための対策を打たねばならなくなりました。そのために出来ることはなんでしょうか」のように考えさせるわけです。そのためにはゲームを進行させるための司会者が不可欠ですが、今回作るゲームはそのようなロールプレイゲームではない「普通のボードゲーム」ですし、司会者がなくても成立しなくてはなりません。

今回のゲームは、SDGsの中でも特に「地球温暖化」に絞ったテーマとなっています。そのために必要な「行動」や「課題」について、専門家の方や福井県未来戦略課によって結成された、県内若手の有志によるチーム(ふくい未来人材育成プロジェクトメンバー)にいろいろと調べてもらい、挙げて頂くと、それらは大きく次の5つに絞ることができることがわかりました。

「CO2吸収源をふやす」「ごみを減らす」「使用する電気を減らす」「使用する化石燃料を減らす」「使用する水を減らす」

5種類の行動シンボル

これらの行動(アクション)をゲームに組み込み、例えば「CO2ゲージ」を上下させたり、「環境美化値」を上限させたり、「あなたの会社の使用電力量」を減らしたり・・・などといった複雑なゲームを作ることも、あるいは可能でしょう。

しかし、今回のターゲットは「小学校高学年以上」であり、ノンゲーマーです。ノンゲーマーに、そのような複雑なステータス管理が可能だとはとても思えず、何かしらのシンプル化が必要と考えました。

ゴールを「温暖化進行ゲージ」に統一

そこで、このゲームで管理すべきステータスを、「CO2」や「環境美化」などの個々のステータスではなく、「温暖化進行ゲージ」1本へと統一しました。すべての「行動」をこの温暖化進行ゲージの増減へと集約させることで、以下の効果を期待することができます。

  1. 目的をシンプルにし、考えることを減らす

  2. 「ごみを出さない」や「水を大切にする」ことが、最終的に「温暖化進行を食い止める」という目的につながっていることを表現できる

  3. 危機感を演出できる

具体的には、「行動」を5種類のアイコンとしてシンボル化し、各プレイヤーがそれらのアイコンを「集める=セットコレクション」ことで、温暖化進行を食い止める、という構図に単純化させました。

「マップ」の導入

福井県を模したマップ

最初、このゲームはカードのみで遊べるゲームとして制作する予定でした。
しかし前述の通り、カードのみで構成しようとすると、どうしてもテーマ性が希薄になる、と感じました。

日本人になじみの深い「すごろく」の利点の一つは、すごろくのマスの上を自分の駒が動くという体験が、強い没入感を生み出すという点です。
強いテーマ性を表現するには「マップ」と「プレイヤー自身を表す駒」の存在は強い味方になる、と考えました。

最初、マップをコンピュータRPGのように格子状のマス目の上を移動する形にすることも考えましたが、分かりやすさとテーマ性を優先した結果、マスとマスを線でつないだ、「福井県」そのものをマップとすることに落ち着きました。

これは「わかりやすさ」を最優先しようという考えからくるものでしたが、実際にいろんな方に遊んでもらうと、「私は県外出身者だが、おおい町がどこにあるか初めて知った」とか「池田町って福井市から割と離れているんだね」といったポジティブなフィードバックが得られ、福井県マップにして正解だったと感じています。

恐らく、福井県に旅行にくる予定がある人が事前に遊んで土地勘を掴んだり、福井県に旅行に行った後に遊んだりすると、また違った面白さを感じてもらえるように思います。

「協力」をもう一つのテーマとする

試練に協力して立ち向かうプレイヤー達

今回作成するゲームを「協力型のゲーム」とすることは、早い段階で決めていました。

SDGsというテーマにおいて、各々のプレイヤーが相反する目的をもって自己の利益を追求するというのは、ある意味リアルではありますが、それよりもシンプルに「みんなで協力しましょう」の方が盛り上がりますし、ノンゲーマー向けでもある、と考えました。協力型ゲームが必ずしもノンゲーマー向けではないという考えもあるとは思いますが、少なくともガチガチの対戦ゲームよりはとっつきやすいでしょう。

みんなで一つの目的に向かって協力し、クリアした後ハイタッチできるようなゲームを目指しました。

さて、協力型ゲームなので、協力してもらうようなルールにする必要があります。それでは、「協力することでよりゲームクリアに近づく」ようにするためには、どうすれば良いでしょうか。

私は今回、それをルール自体によって(言い方は悪いのですが)「強制」することにしました。

「協力」をルールによって創り出す

「みんなで一つの目的を達成するために協力しましょう」と言う時、例えば「AさんとBさんはよく話し合って結論を出しましょう」みたいな方向性も、学習型ゲームではありうると思います。しかしそれはあくまでも「個々人の話し合い」の範疇であり、ルールとして強制されたものではない為、ある意味「協力」は必須ではありません。

このゲームでは、それをシンプルなルールで解決しています。

プレイヤーの役割は、福井県の各地域のリーダーとなり、先ほど挙げた「5つのSDGsシンボル」のうち指定された2つのシンボルを集めることです。
このシンボルは県内各地に散らばっており、自分の駒を移動してそのシンボルのマスへ行けば入手することができます。

しかしこの方法で入手できるシンボルは各自「1つ」のみとなっており、もう一つは必ず「他プレイヤーから渡してもらう」必要があるルールとしました。

プレイヤーシートには必要なことが全て書かれている

このルールにより、プレイヤーは必ず他プレイヤーとの連携を取る必要が生じます。「とりあえず自分が必要とするシンボルを取りに行こう」と、話し合いもなく行動すると、「あれ? これすごく非効率なのでは?」と気づくように、ルールが構成されています。

ルール自体はシンプルで、単に福井県を模したマップ上を自由に動いてシンボルを2つ集めるだけです。しかしそこに上記のルールが追加されたことにより、濃密な協力ゲームとしての側面が浮かび上がるようになっています。

ノンゲーマーでも把握できるルール量と、濃密な「協力」ルールを、シンプルなルールの中でうまく表現できたと自負しています。

二律相反

プレイヤーが達成すべき課題を表すシンボル

面白いゲームを作るための手法として、「2つのことを同時にさせる」というのがあります。例えば「お金を稼ぎつつ、勉強もする」というようなことです。お金を稼ぐだけなら働けば良い、勉強をするだけなら単に勉強すればよい、しかしそれら2つを同時に成り立たせようとすると、そこにジレンマが生じ、「うまくやるために考える」必要が出てきます。

このゲームでは、既に「SDGsシンボルを2つ集める」という目的が存在しますが、そのためには実は、シンボルが足りません。というのも、「ごみを減らす」シンボルを得るためには、場に「ごみを減らす」カードが出ている必要があるのです。

場に出ているSDGsアクションカードは、初期では5枚しかありません。この5枚が、現在、県内に存在する「温暖化を止めるためのアイデア」ということになっています。まずはこのアイデアを増やさないと、そもそもクリアはできません

SDGsイベント会場

3つのSDGsイベント会場

マップ上では、常に3か所で「SDGsイベント」が開催されています。この会場へ移動(SDGsイベントに参加)することで、場に新たに2枚のカードを表向きで追加することができるようになっています。

このルールは、「SDGsイベントに参加することで新しいアイデアを得る」というテーマの表現だけではなく、先ほどの「2つのことを同時にさせる」のもう一つの目的となっています。

シンボルを集めたいが、場に新しいシンボルも出さなくてはならない」という二律相反が、ゲームを立体的に面白くしています。

温暖化進行ゲージ

ここまで読んで、ゲーム勘の鋭い人であればこう思ったかもしれません。
「まずはSDGsイベントに参加しまくって、場に必要なシンボルが集まってから、シンボル集めをすれば良いのでは? 二律相反になっていないのでは?」
仰る通りです。

しかし、そうできないルールがあり、それが「温暖化進行ゲージ」です。

プレイヤーは手番で「移動」したり「シンボルを獲得」したり「他プレイヤーにシンボルを渡し」たり、「課題を達成」したり「SDGsイベントに参加」したりします。

そして、次の手番に移る前に、「温暖化進行サイコロ」を必ず振ってもらいます。
このサイコロは、最初は6か5が出ると、ゲージが1つ上がるようになっています。1~4が出た場合は何も起こりません。

このゲージが規定値まで上がるとゲームオーバーなので、プレイヤーはそれまでにクリアしなければならないのですが、なんとこのゲージ、サイコロで「6」の目が出るたびに「ゲージが上がりやすくなる」ようになっています。

6の目が出る度に状況は悪化する

具体的には、「6」が出ると、「4」の数字の下に赤いキューブを置き、今後は「4」が出た時にもゲージが上がることになります。さらにまた「6」が出ると、今度は「3」の数字の下にも赤いキューブを置きます。そうしていくと、どんどんゲージが上がりやすくなっていくのです。

この赤いキューブは、プレイヤーが自分の課題を達成(必要なシンボルを2個集めて自分の地域へと持ち帰る)時に除去することができます。

つまり、プレイヤーは一刻も早く課題を達成しなくてはならず、悠長に「すべての必要なシンボルが出るまではSDGsイベントに参加していればよい」という事はできないようになっています。

課題達成を最優先としつつ、SDGsイベントに参加し、他プレイヤーの為に行動しなければなりません。

シンプルなルールですが、クリアの為には十分な思考が求められるでしょう。

紆余曲折あった

ここまで読むと、すんなりルールが決まったように思われるかもしれませんが、ここにたどり着くまでには紆余曲折がありました。

例えば「SDGsイベント参加」というルールはかなり後になって出てきたもので、初期では「移動する代わりに新しいアイデアを考える」という別のアクションでした。その手番に移動しないことを選択することで、場に新しいカードを2枚、出すことができるというものです。

移動したい、でも新しいアイデアも必要」というジレンマを感じてもらいたかったのですが、そのルールは単純にプレイの足かせとしか感じられず、プレイ感を阻害していました。「移動」というのは、プレイヤーの手番で行う行動としてはとても重要な「プレイ感」であり、それをさせないルールは良いルールではなかったのです。

「SDGsイベント参加」というルールにより、プレイヤーは「おっ、ちょうど近くでイベントやってるぞ。ここへ移動すればアイデアを増やせる!」という、前向きなプレイ感を得ることができるとともに、「移動する または 移動しない代わりにアイデアを増やす」のようなややこしいルールを減らすことができました。

このようなルールのそぎ落としや整理には、福井県未来戦略課・ふくい未来人材育成プロジェクトメンバーの方々の「ノンゲーマーの視点」からのフィードバックがとても重要でした。私一人では、ノンゲーマーには難しすぎるゲームとなっていたことでしょう。

ゲームとしての「面白さ」と「教育効果」

2024年3月某日、福井県内の中学校にて、このゲームを使った初のイベントが開催されました。有志による丁寧な説明の下、中学生の皆さんに実際にゲームを体験してもらいました。

結果は大成功

盛り上がる中学生の皆さん


ゲームは大いに盛り上がり、終わった後も、地球温暖化について自分たちができることを考えるきっかけとなってくれたようです。

1年近くかけ、多くの人が制作に協力してくれたゲームだったので、この結果に安堵しつつ、作ってよかったなぁ、としみじみと感じました。

この場を借りまして、ゲーム制作に協力してくださった皆様に深く感謝いたします。

完成したゲームの詳細情報

詳細はこちらのページをどうぞ。

Amazonや福井県内のボードゲームショップで購入できます。

今後について

このゲームは、今後福井県がイベントで活用してくださる事が決まっていますが、具体的にどうするかという部分についてはこれからの課題となっています。

私個人としては、普通に面白い協力型ボードゲームとして作ったつもりですので、ボードゲームファンの方にも遊んでもらえると良いなと思っています。

せっかくノンゲーマにも楽しめるゲームとして作っているので、ボードゲームの裾野を広げるお手伝いもできたらうれしいです。

SDGs啓蒙活動のツールとしての使い道も、これから模索していこうと思っていますが、私自身はただのゲームデザイナーですので、あまりそういったアイデアは思いつかず…。

そういう活用方法についてアイデアをお持ちの方は、ぜひご連絡頂ければ幸いです。

直近のイベント参加予定

以下のボードゲームイベントに参加予定です。どうかお気軽にお声がけください。

3/23-24 BGBE JAPAN 参加

「E-62 偽ハレルヤロックボーイ」様にて委託させて頂きます。

4/14 フォアシュピール 参加

ゲームを体験できるスペースを用意して参加致します。

4/27-28 ゲームマーケット2024春 参加

「ちゃがちゃがゲームズ」として参加致します。

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