見出し画像

小説ノーマンズスカイ「アトラスの夢」第6話 「トラベラー」

第5話「モノリス」はこちら

6:トラベラー

私は、トラベラー。
宇宙船を繰り、銀河を旅する者。
星系を次々に巡り、惑星を調査し、異星人たちと交流し、時に海賊と戦い、ユニット(通貨)を稼ぐ……そんな生活は充実していたし、楽しんでもいた。

疑問を持ったのは、あの「ポータル」を見つけてからだ。

砂漠の惑星に生息する生物を調査していた時のことだ。ある生物に、見た目が少しだけ異なる亜種のようなグループが存在することがわかった。
その亜種とみられる生物を追いかけて、砂の丘を超えたところにそれはあった。

その物体は、黒く巨大な石板のように見えた。異星人の遺跡、いわゆる「モノリス」にも似た、石とも金属ともつかない黒く光沢のある物質でできているようだった。
地面に近いところには背の高さほどあるトンネル状の穴が開いていて、穴から最上部に向かって縦に亀裂が走っていた。
穴にはゆるやかな階段がつながっており、階段の左右には同じ材質にみえる柱が3対立っている。
分析バイザーでのスキャンには一切反応しない。
存在しているのに、目をそらせば消えてしまうのではないかと思うほど存在感がなかった。

ポータル。どこか遠くへ繋がるというゲート。
あのステーションで話を聞いた際には伝承の類だと思ったものだが、実在したのか。

私が近づくと、階段が始まるあたりから円柱がせり出す。円柱は斜めに断ち切られたように展開し、断面には円形に象形文字らしき図形が並ぶ。
16種類の象形文字の中には具体的な形を示すものもあり、いずれも異星人たちが使う文字とは全く異なる性質を持つように見えた。

これがインターフェイス。象形文字を入力するとどこかへ繋がる……一体どこへ?
象形文字に触れてみるが、何も反応はない。
しかし、この「ポータル」の前に立っていると、体が……いや魂が吸い寄せられるような感覚があった。

あれ以来、私の魂はポータルに囚われてしまったのかもしれない。

あの向こうには「外」があるに違いない。今いる宇宙の「外」が。外には何がある? 別の私がいるのか、あるいは別のトラベラー?

私は、アルテミス。
ポータルに囚われたトラベラー。

眼の前には、巨大な環をもつ惑星が見える。
雲の隙間から覗く地表は、緑色に見える部分と黒く見える部分とに分かれていた。海があるのだろうか。
環の影になっていたが、はるか遠くにも小さく惑星が見える。
そして宇宙ステーションが浮かんでいるもの見えた。先ほどまでいた星系のステーションとは異なる、三角形のステーションだ。

どうやらワープ……ハイパードライブは、成功したらしい。
機体には特に異常はない。少しめまいを覚えたが、光の洪水の中を通ってきたからだろうか。

こんなに簡単にワープ航行が可能なのか。

放心していると、唐突に通信機が鳴り、我に返った。
コントロールパネルには16/16/16/16の文字。発信元は不明、とある。
通信を接続すると、ノイズの中から声が聞こえてくる。

「あなたは決して…… ひとりでは……
教えてほしい、あなたが何者なのか。私は……」

初めて宇宙に出たときに聞こえたあの声だ。あの時より、心なしかはっきり聞こえるように感じる。
送信元に近づいたのだろうか?

「私は……サムだ」

名乗ってみると、通信機はしばらく沈黙する。ノイズだけが響く。
スーツのAIが送信元を解析する。眼の前にある惑星のどこかから送信されたらしい。
送信した人物がそこにいるのだろうか。とにかく船をそこに向かわせようと、操縦桿に触れた時だった。

繋いだままの通信機から不意にぶつり、と大きなノイズが聞こえ、その後にはっきりと声が聞こえた。

「サム」

先ほどまでの呟くような声とは違う。抑揚のない、感情の感じられない声。
私を知っているのか? 答える前に、声は続けた。

「あなたは私を置いて去った……なぜ……」

私はその問いかけにうろたえる。
この何者かは私を知っていて、私の知らない、私の行いを責めているのだ。

「……すまないが、何の話かわからない」
こう答えるしかなかった。声は続ける。

「そうだろう。そう言うと思っていた……」

それっきり、通信機は沈黙してしまった。
開いたままの通信チャンネルからはノイズが流れてくるだけだ。
今のは……? 私を知る何者かが通信に割り込んできた、ように聞こえた。
私の罪とは、一体何であろうか。

煙を上げ、たった今墜落したように見える宇宙船。
通信の発信源付近にあったものだ。

宇宙船は曲線の多い独特の外見をしていた。
斜め後方に立ち上がるような形の胴体の上の方に、球形のコックピットと思われる部分が見える。
胴体の下側から2本の腕が突き出るように、左右非対称のブースターのようなものがついている。
この形で安定飛行が可能なのか、とも思ったが、宇宙船の姿勢制御は重力制御らしいので、物理的なバランスはあまり重要ではないのかもしれない。

周囲に人影はない。
墜落場所は砂漠のような惑星で、遠くには巨大なサボテンのような植物が群生しているのが見える。見上げた空には蝶のようにも鳥のようにも見える飛行生物が何匹も飛び回っていた。
現在の所、環境負荷はないようだ。

機械部品や荷物とともに船外に放り出された救難ビーコンを見つけ、中のデータを確かめる。
墜落の衝撃のせいか、データの大部分は破損していたが、音声メッセージの一部を復元することができた。

「あなたは決して、ひとりではない。
教えてほしい、あなたが何者なのか。私は……」

例のメッセージだ。
この宇宙船の持ち主が、私、そして私の乗る宇宙船の前の持ち主が受け取ったメッセージの送信者なのだろうか。
メッセージには続きがあった。

「私はトラベラー。トラベラーのアルテミス」

アルテミス。
その名前には聞き覚えがある。この宇宙で目覚める前、地球での記憶だ。
神話に登場する女神の名前だったはずだ。地球の神話がなぜ……?

スーツのAIが「アルテミス」の個人コードを抽出する。
以前受け取ったメッセージの送信者と一致した。やはり間違いなさそうだ。
しかし、そのアルテミスという人物は、船を捨ててどこへ行ったのか。

誰かから見られているような感覚があった。あのモノリスで感じたのと似た感覚。
また例の「センチネル」だろうか?
振り返ると、遠くに真っ黒な板のようなものが立っているのが目に映る。明らかに異質な何か。
あれは何だ。
以前見たものと形は違うが、モノリスのたぐいだろうか。

その黒い物体は、小高い丘を越えたところにあるようだった。
ささやく声が聞こえた気がしたが、風の音かもしれない。
その物体に吸い寄せられるように、私の足は丘へと向かっていた。

【続く】

【前の話はこちら】


※No Man's Sky(ノーマンズスカイ)のストーリーを作者が独自の解釈を元に小説にしたものです。実際のゲーム内容とは異なる場合があります。
Youtubeチャンネルでノーマンズスカイの攻略解説動画を公開中!


いいなと思ったら応援しよう!