自由に形の変わる流体、磁性流体 - マテリアルとデザイン
慶応大学KMDの山岡です。専任講師としてFuture Craftsというグループを主宰し、新しいものづくりのテクノロジーの研究開発やメディアアートに取り組んでます。このnoteでは、世の中にある色々な素材の面白い性質や使い方などを解説してます。
磁性流体
磁性流体は、磁性のある流体です。磁石に吸い寄せられるような振る舞いをする液体ですね。作品の素材としても利用されるので見たことある方もいるのではないでしょうか。これは児玉幸子さんが制作したMorpho Towersです。磁力線の流れに沿って角のような形に磁性流体が変形するスパイク現象を利用しています。
もともと1960年代にNASAが開発したのが初めで、産業用途だと、例えば磁性流体シールなどに応用されています。これは真空部分に空気を入れないかつ、回転軸の回転を伝達するために、流体のシールとして使用する方法です(すごい賢い)。あとは磁性流体スピーカーなど、磁性流体を使うことで歪みを減らして音質を向上させるなどに利用されています。
磁性流体シールの特性: 理学メカトロニクス
この磁性流体、強磁性の粒子と界面活性剤とベース液(水や油)で出来ているそうです。ということは、自作も可能、、?自作の事例はいくつかありました。本格的に作ろうと思うと、塩酸やアンモニア水が必要なレシピや、アセトンとテープを使って安価に作るレシピなどがありますが、シンプルに作るならトナーとサラダ油でできるそうです。作るのが面倒であれば購入すると良いでしょう。また磁性流体をインクとしたペンもあるそうです。
スライムにトナーなどの磁性体(購入できるなら鉄粉)を混ぜることで、磁性スライムを自作することも出来ます。私も以前、磁性スライムと自然物を組合せることで生き物らしい動きが表現できないか実験しました。
このように、何を磁性体とするか、何をその表面を覆う液体として用いるかで見た目も振る舞いも変わります。蛍光材料の回でも扱ったような、蛍光磁性体を使えば、蛍光磁性流体なども利用できるでしょう。
そして、磁性流体をそのまま使うわけではないのですから、磁性流体を作品やデザイン、プロダクトに落とし込むには、どのような環境でどのように制御するかを考える必要があります。
例えば、Zelf KoelmanのFerrolicは、磁性流体と水(おそらく純水)をプレートの隙間に入れて、後ろから電磁石で制御することで流体ディスプレイのような表現を可能にしてます。
Blob Manipulation (Akira Wakita, Akito Nakano)では、同様の磁石制御に加えて、体験者が磁性流体の形状を変更できる機能を実現してます。
またTokudaらのProgrammable Liquid Matterでは、ガリウム、インジウムなどを加えた磁性金属を用いて、動的に変更できる回路を実現してます。またジュニの作品では、磁性流体と液晶ディスプレイを重ね合わせることで生き物感を出しています。
超電導と組み合わせることで、浮遊させた磁石に磁性流体をまとわせて、形を変えるという試みもあります。
TAKT PROJECTのVisible Motionは磁性流体のプールの下をタイヤの形の磁石が走ることで、水面を見えない車が走っているかのように見せています。
磁性流体そのものの構成(磁性粉、液体、粘性)、またその流体をどのような環境(他の流体の中、空中、板の間)を変えることで様々な表現が出来ます。流体ならではの、滑らかさ、変形の面白さ不思議さを上手く引き出すような状況を想定するのが良さそうですね。ただ現状だと、触れないや常に柔らかいというのが制約にもなるので、そのあたりを改善することでまた違った表現もできそうです。