最先端の高速製造技術に人は勝てるのか | 新しいものづくりの未来
前回では、現在普及している加工技術と手作業の比較を行い、機械による造形速度は驚くべき速さになり、もはや手動である必要は無いように感じた。さて、最先端の研究では、高速化を目指しているのか、そこに限界はあるのか、どうなのか。やはり日々発表される研究成果でも、立体物を作る際の造形速度を向上させることはとてもホットなテーマである。
超高速3D造形
現時点での最高速造形技術は、Shusteffらの研究ではないだろうか。これは光によって硬化する液体樹脂に向けて、レーザーを三方向から照射することで、レーザ同士が重なったところが固まり立体物化する。わずか10秒ほどで立体物が作れてしまう。通常の光硬化プリンタは一層ずつ固めて積層するのが普通であるが、これは三方向から一度に照射して固めるので、(現状できる形に制約はあるが)実質的に超高速で造形物を作ることができる。
例えば面白いアプローチとしては、Stefanieらは大きさを確認するためであれば、高精細な造形物を作る必要はなく、ワイヤフレーム上の造形物を高速に出力する方法WirePrintを提案している。これは樹脂を一層ずつ積層するFDM方式ではなく、材料を射出しながら、線のみで構成される立体物(CGで言うところのワイヤフレーム構造)を作るため、非常に高速に造形することができる。
変形する素材を使った4D Printing
また従来の樹脂を固めるような立体造形手法以外のアプローチで立体を作る事例も研究されている。例えば、ある刺激によって平面板が自動的に折り曲がり立体になるといった、動く折り紙構造の研究もなされている。SkylarらのSelf-Assembly Labでは、例えば熱や水によって、棒が変形して椅子に変形するといった構造体の作り方4D Printingの提案をしている。これは刺激によって変形するという素材の持つ特性を上手く利用していて、予め変形する箇所をプリプログラムすることで実現している。
平面の板を加工するので造形時間が早いという利点以外にも、輸送時には大量に運ぶことができるので、輸送コスト的にも有用的なアイデアである。
こうした変形する素材の提案は色々な研究者が様々な素材でトライしていて、Morphing Matter LabのThermorphやMIT Media LabのTangible GroupのaeroMorphがそれにあたる。
既存の製造技術にテクノロジーを加えて高速造形
また私も、高速造形技術については研究してきた。例えば、ProtoMoldという技術は、バキュームフォーマー(真空成形法)とピンディスプレイを組み合わせた装置を使った造形法である。通常のバキュームフォームは、塩ビなどの熱可塑性プラスチックを温めて柔らかくした後、事前に作った型に押し当てながら、吸引して成形する。非常に早く作れるのが特徴で、トレーやお面、以前のプラモデルなど、色々な場所で使われている。
しかし型を削り出して作るのが結構大変である。そこで、型が変形すれば、金型を作るコストを大幅に下げて、造形自体も何度も短時間でできるのではないかと考えた。
そこで考案した装置が一つ一つのピンが上下に制御できるピンディスプレイを型として用いるアイデアである。これはMIT Media LabのTangible Media Groupでも提案されている技術に近い。ヒータで温めた熱可塑性プラスチックを軟化させて、型を変形させた後、吸引しながら押し当てて造形する。約10秒ほどでできるので、FDMなどの3D造形に比べて圧倒的な速さである。さらに再加熱すれば、何度でも形のやり直しができて、試行錯誤できる。
例えば、日常のごはんの種類や品数に応じた、トレーをその場で作って、食べ終わったら平らにして収納するなんてこともできるのである。
またBlowFabは、もう少し立体的なものを短時間で作る技術である。これは硬いインフレータブル構造体を作ることができる。インフレータブルとは、カヤックやイベント時の巨大人形、浮き輪など、膨らませて使えるゴム製品である。ただ穴が空いたりなどするので、硬い素材で作れたら、樹脂を使った立体造形の代わりになるではないかと考えた。
ちょうど近い技術としてブロー成形があり、これはペットボトルなどを作る技術で、小さい樹脂製の筒を、加熱して、中から膨らませて、外側の金型に押し当てて成形する。これも同様に金型を作る必要がある。
そこで、考えたのは、レーザー加工で、プラスチックを切って作るというアイデアである。マスキングテープをPET板に貼り付けて、レーザ加工して切削、接着部(マスキングテープ無し)と空洞部(マスキングテープあり)をつくる。2枚を重ねて加熱すると、マスキングテープが貼られてない接着部は同素材なのでくっついて、マスキングテープが残ってる箇所はくっつかないので空洞になる。軟化している間に、空気を入れて膨らませて、冷やすとかちかちに固めることができる。
これも金型作らずに、色々な形を、非常に短時間に作ることができる。しかも半立体ではなく、立体的な形をつくることができる。椅子などの人が座る家具も大体数分ほどで作れてしまう。
やはり加工は機械には勝てない?
このように色々なアプローチで早く立体物を作る技術というのは提案されている。そして立体をコンピュテーショナルに作る作業というのは、手作業で削り出していた頃に比べると圧倒的に高速化、高精細化が近づいている。もはや手作業では太刀打ちできない領域に突入しているし、紙の印刷機と同様に、圧倒的な速さ(数秒レベル)による造形が実現できるであろう。
産業革命時、大量生産を可能にする技術が発明され、ウィリアム・モリスがアーツ・アンド・クラフツを提唱して、人の手作業に注目しようとした流れもあった。しかしこれは、大量生産で作られたプロダクトが、技術的な精度が低く、粗悪品であったために起きた運動である。一方で機械で作られたものが、手作業と同等あるいはそれ以上の質であると、合理性という面では、中々手作業の良さを主張するのは難しい。
それでは加工の前段階、発想や設計といったフェーズでは、まだ人が行う作業が残されているのではないだろうか。次回は、そのあたりを深掘りしていきたい。