見出し画像

Porter Robinson & Madeon - Shelter

去年、英国メディア『FACT』が”EDM is dead”なる記事をアップし、大きな物議を醸した。それは米メディア『Page Six』が取り上げた”Vegas turns up nose at superstar DJs”への明確な要約であるとともに、EDMとは何なのかを世に問いかける議題として、非常に興味深いテキストであった。

現状としてエレクトロ・ダンス・ミュージック自体の消滅はありえないと言えるが、Page Sixの記事の通り、人気DJにかかる莫大なブッキングマネーが大きな負担となっているショービジネス面でのEDMは、少しばかり下り坂になりつつあると言っていいだろう。ただ、これは3〜4年前のアメリカや北欧におけるショーアップも含めたイベント面と音楽面でのEDMを総合し比較した話である。〈ULTRA JAPAN〉が順調にフェス事業の1つとして根付いてきた日本、そして他アジア各国においては、未だそのコンテンツは発展の余地を残していると言える(「EDM終わりか?バブル崩壊?」:EDM PRESSの内容が過去の近況と現在を詳細に考察していて、一度目を通しておくことをお勧めする)。

ここで「EDMとは?」とつらつら書き綴るつもりは毛頭ないが(そこまでEDMというカルチャーに詳しいわけではないので)、少なくとも、今年ライブ活動から引退したAvicii, そして今回取り上げるPorter RobinsonMadeonについて言えば、上記にある大枠のEDMカルチャーに飲み込まれることなく、音楽家/クリエイターとしての未来を補完するため、的確な選択をしたと言えるのではないだろうか。

ド派手な特攻やライティングによる視覚的なギミックも含め、EDMはレイヴィーなパーティーフェスとして機能し、それは今も継続した流れにある。出演するDJやトラックメイカーの面々は既存の曲を料理しながら、トラックメイカーたる才を発揮したオリジナルチューンを作ったりと、あの手この手でビジュアルに見合う音楽を生成してきた。EDMとは音楽と演出、どちらかのイニシアチブが崩れても評価されない、意外とシビアなエンターテイメントカルチャーでもあることを数年間の繁栄を眺めて感じている。

だが、Porter RobinsonとMadeonによる共作曲「Shelter」は、音楽、演出、全てがフラットな立場で結晶化している。見栄えするためのエレクトロミュージックをEDMと位置付けるならば、全く反対のアプローチを経て、別次元の同じ地平に立っているのが「Shelter」でなのかもしれない。

「Shelter」Short Film with A-1 Pictures & Crunchyroll

Porterの熱烈な要望から『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』や『アイドルマスター シンデレラガールズ』などを手掛けてきたことでも知られるアニメ制作スタジオ:A-1 Picturesが、Porter自身の着想を下にクリエイトしたこのMV。ストーリーの起承転結と「Shelter」のトラック展開がリンクする点において、アニメとその主題歌の概念に近い、視覚的アートミュージックの魅せ方を見事に掲示している。

これまでもDaft Punkインターステラ 5555』やGorillazなど、アニメーションと音楽を1セットでアート化してきた例は数多くあるが、そのどれもが多様なアニメーションで溢れる日本のエッセンスをインプットしているという共通点がある。

ーーーーーーーーーーーーーーー

松本零士が手掛けた「インターステラ 5555」は実際アルバム『Discovery』収録曲全てで構成されている
ブラーのデーモンがコミッククリエイターのジェイミー・ヒューイットと作り上げた仮想バンドがGorillazであり、Gt.Vo.Keyなどを担当する紅一点Noodleは大阪生まれの日本人という設定

ーーーーーーーーーーーーーーー

Portor自身が”最後には悲劇的で心が痛むような話にする”ことを前提で脚本を書いているだけに(ポーター・ロビンソン×A-1 Pictures マデオン共作のアニメMV「SHELTER」インタビューKAI-YOU)、MVのラストで明かされる喪失感の強い真実はアニメを見慣れた日本人には耐性があっても、バッドエンドを良しとしないアメリカなどではそれなりにショッキングなMVとして受け取られそうだ。

アニメーションにばかり目がいってしまうが(それはそれで正しくもある)、何より「Shelter」自体が素晴らしいエレクトロ・ソングであることを忘れてはならない。ソングと言ったのはこの曲が歌モノと意識して制作された経緯があるからで、歌におけるエフェクトやそれらを活かすためのトラックメイクは、まさに中田ヤスタカを参照しているようでもある(Madeonは中田ヤスタカファンとしても知られている〜マデオン×中田ヤスタカ(CAPSULE)対談音楽ナタリー

そんな新曲「Shelter」は2人のスプリットツアー"Shelter Live Tour"のテーマソングでもあり、現在は9月から続くツアーの真っ最中だ。すでにライブでも披露され、ステージ演出も花火やスモークなどの類よりもアニメーションを軸にしたビジュアルメイクが中心となっている。それはライブという現実世界でも、明らかに2人がEDMカルチャーから意図的に乖離しつつあることを表している。

今後このA-1 PicturesのMVを使用したライブパフォーマンスが期待されるだろうが、実際、複数枚の大型LEDビジョンとステージライティングも含めた表現が海外のリスナーにどう受け取られるのか、とても興味深々である。先述したGorillazもそれに近いライブパフォーマンスをするが、それもここ最近はライブ活動自体を行っていないだけにリスナーも変化しているはず。日本ではBUMP OF CHICKEN初音ミクといった実例もあるだけに、もし難しいならここ日本ではコラボレートして欲しいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?