映画LAMB/ラム感想・考察~犬は○される、猫は見てるだけ
LAMB/ラムは2021年のアイスランド・スウェーデン・ポーランド合作のホラーファンタジー映画です。ミッドサマーなどの配給会社A24が北米配給権を獲得したことでも話題になりました。
前半はセリフも少なく、ほぼ定点カメラで雄大な山々のなか、羊たちを世話する夫婦の生活がたんたんと描かれます。日本人にとってはアルプスの少女ハイジを思い出させる光景ですし、田舎でのライフスタイルを紹介するNHK番組を見ているような癒しがあります。寂しい夫婦の生活は頭と右手は羊、胴体と左手は人間というアダちゃんの誕生で一変します。
キリスト教圏の人にとっては子供のいない夫婦、妻の名前がマリア、羊飼い、といった要素から聖書を思い出さずにはいられないでしょう。そうなるとアダはイエス・キリストの暗喩なのか?その割には人間のようで人間じゃなくて気持ち悪い、とか考えているうちに異教の神のような化け物が出てきて人間は殺され、アダは連れていかれてしまいます。日本人からしたらちょっと怖い不思議な絵本みたいな話でも、キリスト教圏の人が見たらすごい違和感と恐怖を感じられるのだと思います。一神教の人には異教徒への嫌悪が遺伝子レベルで刷り込まれているのでしょう。
冒頭から馬、羊、犬、猫とたくさんかわいい動物が出てくるのもこの映画の魅力です。重大なネタバレになりますが、犬が殺されるシーンがあるので犬を飼っている人は見ないほうがいいかもしれなません。犬は人間によく従って懐いてついてくるのに、アダに対しては怯えています。猫(キジトラ)は人間にご飯をもらっていますがあまり人間を気にしている様子はなく、アダのこともじっと見ているだけです。何が2匹の運命を分けたのか、犬はラムマン(羊の怪物)に殺されてしまいます。猫は草むらに隠れてやりすごします。その後、猫はアダに抱かれてゴロゴロとのどを鳴らしていました。猫のちゃっかりとした世渡り上手っぷりが出ていましたね。
寂しい人間が異形の生き物をかわいがって家族にするけれど、結局は住む世界が違う、いっしょにはいられない、というストーリーは日本の「つるの恩返し」や「かぐや姫」にもあります。不思議な生き物に接触してみたい気持ちと人ならざるものへの恐怖、人の世界と人外の越えられない壁、といったモチーフはどこの国でも共通のおとぎ話になるのかもしれません。