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モノのカタチ、ココロのカタチ(その2)
前回の続きということでモノのカタチとココロのカタチの話なのですが、その前に一点。
モノつくりの話をする際、毎回問題になるのが「デザイン」という言葉の示す意味が人によって異なるということです。
なので、ここでは
「デザイン」=モノの機能、仕様
「フォルム」=モノの外観
「グラフィック」=モノの色、意匠
と分けて考えるようにします。
モノというのはこれらの重なりあった結果なのですが、さて自転車作りにおいて「デザイン」とは何か?と考えると要求仕様に照らし合わせて最適化された機能を実装する事だと自分は思っています。
今回作成した二号計画機「Снегурочкаスネグーラチカ」を制作するときに考え出した要求は以下の通り
・雪の日に楽しく乗れる!→ファットタイヤを装着できる自転車
・雪の降らない日でも楽しく乗れる!→29erPlusタイヤの運用が可能。
・ジオメトリーは身長163㎝の自分が乗ることだけを考えて決める。
・ドロップバー/フラットバーで乗車可能なジオメトリーである。
・ハブの幅はホイール資産を生かす為、前110㎜,後148㎜とする。
・主要パーツは勤め先の扱い製品であるシマノ製品を使用すること。
ということで、二号計画機におけるデザイン要素は
「標準的なMTB規格でファットバイク/29er plusとして乗れるマルチロール運用可能な仕様を実装すること」
だったと言えます。
それを実現するため、ドロップバー/フラットバーどちらでも乗れるジオメトリーはSALSAの「FARGO ファーゴ」のXSサイズから拝借し、26×4.0(80㎜幅リム)、27.5×4.0(40㎜幅リム)に対応させるべくチェーンステー、シートステーを拡幅、BB幅はシマノ製品の中で最も広い83㎜で実装しました。
▼タイヤ、クランク、チェーンステーの関係が滅茶苦茶タイトな設計
そんな要求仕様を満たした二号計画機の基礎図面は下のような感じ▼
この仕様でも標準的なトライアングル形状のMTBのフォルムを実装可能だし、なによりデータがあるので乗り味も想像しやすいし工数も少ない。
それなのになぜ二号計画機はダブルトップチューブやシートステーの曲げといった色々面倒ごとの多く、乗り味も未知数というリスクばかりのフォルムに拘って制作を開始したのか?
なぜ?
正直作り始めの頃は、なぜ自分がそんなに一生懸命になってフォルムを欲するのか判っていませんでした。
「素人がプロと同じフォルムの自転車作ってもしょうがないしなあ…」
ぐらいの気持ちで
「どうせ作るなら自分が美しいと思うフォルムの自転車を造ろう」
と思い、機能を達成する範囲で自分のサイズの自転車で美しくまとまるフォルムを探っていった結果がこの形だった…という感じです。
この気持ちはなんなのか?と造った後で考えると自分がやっていたことというのは「良く走る」「軽い」「乗ってて疲れない」といった自転車の機能からやってくる価値観とはちょっと外れたところにある
「キレイな形を探り出して手にしたい」
という彫刻、彫塑の制作目的に近い気持ちを発端としたモノつくりだったのだと思います。
自分が卒業した美術学校の学科では
「最適化された機能とふるまいこそが優れたデザイン」
とされ、フォルムは二の次、三の次とされていたのですが、まさかここにきて自分が、よりによって非力な人間を動力とするが故に無駄の許されない自転車を制作する中で、ファイン(純粋芸術)中のファインである「自分が願うフォルムの追求」に手を染めるとは思わなかったです。
造った本人が一番驚いてます。
でもね。
自分が知るとっておきの風景の中に、自分が願った美しいカタチ、走る彫塑がその中にいるのを見る時、最高に幸せな気持ちになるのは確かなのです。
コレが不合理というのも知っててやってるから困ったなー。