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権利擁護と成年後見制度(社会福祉士第31回 問題79)行政訴訟の類型

問題

問題 79 事例を読んで,取消訴訟と併せて,Cさんの救済に効果的な手段として,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
〔事 例〕
重度の身体障害者であるCさんは,N市に対し,「障害者総合支援法」に基づき,1 か月 650 時間以上の重度訪問介護の支給を求める介護給付費支給申請をした。それに対してN市は, 1 年間の重度訪問介護の支給量を 1 か月 300 時間とする支給決定をした。Cさんはこの決定を不服とし,審査請求を行ったが,棄却されたため,N市の決定のうち,「 1 か月 300 時間を超える部分を支給量として算定しない」とした部分の取消訴訟を準備している。
1 無効等確認訴訟
2 義務付け訴訟
3 差止訴訟
4 機関訴訟
5 不作為の違法確認訴訟

(注)「障害者総合支援法」とは,「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」のことである。

分析

行政事件訴訟法においては、抗告訴訟、当事者訴訟、民衆訴訟、機関訴訟の4類型を行政事件訴訟として扱っている。

「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。抗告訴訟には処分の取消の訴え、無効等確認の訴え、不作為の違法確認の訴え、義務付けの訴え、差止めの訴えがある。

訴訟というのは、とても大雑把にいえば、何らかの法的な権利義務に争いのある当事者間がその相手方を訴え、裁判所にその公権的解決を求めるものである。民事訴訟であれば契約に基づく代金請求であったり、 土地の明け渡しを求めたりと、紛争の当事者は基本的には民間の私人である。これが行政訴訟の場合は、訴訟の原告は行政の公権力の行使(「行政処分」)を受けた私人であり、被告はその処分をした行政庁ということになる。

 一番典型的なのは、その行政処分を受けたものがその処分を取り消してほしいと提起する取消訴訟である。行政訴訟のほとんどがこの類型であるといってもよいだろう。例えば、「障害者総合支援法」に基づき,介護給付費支給申請をしたところ、支給しない決定が下されたとする。この場合、その支給しない決定を取り消すことを求めて取消訴訟を提起するということが考えられよう。(なお、この場合は後で述べる義務付けの訴えを併せて提起することも可能である)。

 取消訴訟は提訴期間、不服申立前置主義などの制約がある。これは、行政処分は基本的な適法、有効なものとして扱うという法的な安定を目指したものと言われている。もっとも、あまりにも行政処分に重大明白な瑕疵がある場合、そこまで行政の肩を持つことがない、ということで、この場合は取消訴訟の制約なしに無効確認の訴えを提起することができる。例えば、「障害者総合支援法」に基づき,介護給付費支給申請をしたところ、人間違いをしたり、全く調査をしていないなどの重大なミスにて支給しない決定が下されるような場合にこの無効確認訴訟を提起することが考えられよう(肢1)。事例の場合でも無効確認を起こすということも考えられなくもないが、事例にそのような事情がない以上、起こすとしても取消訴訟が無難である。

 また、行政処分が下されるにあたり、法令に基づき、申請を行い、その申請の結果行政処分が下されるという類型がある。事例の障害者総合支援法や、生活保護法など、受給を求める場合に典型的にみられる仕組みである。そして、私人が申請したにもかかわらず、行政庁がそれをそのまま放置してしまうという場合が考えられる。この場合に申請をした人は困ってしまう。そこで、「不作為の違法確認の訴え」が法定されており、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟類型が定められている。事例のように申請に対し何らかの決定(行政処分)が出されている場合は使うことはできない(肢5)。

 行政事件訴訟法では、この処分取消の訴え、無効確認の訴え、不作為の違法確認の訴えだけでなく、義務付けの訴え、差止めの訴えというものがあり、これらは2004年になって追加された新しい類型である(それ以前も判決として出された例がないわけではないが、法に定められていないため、極めて稀であった)。前者は、行政庁に対し、何らかの行政処分を出すよう義務付けることを訴える類型であり、後者は、何らかの行政処分を将来的に出さないように差止めることを訴える類型である。行政庁が未来的に何らかの処分を出す(さない)ことを裁判所が介入するため、権力分立の趣旨からも厳しめの訴訟要件が課されている。

 もっとも、法令に基づく申請をして何らかの違法と思われる処分が出された場合、従前はそれを取消すことを求める取消訴訟だけであった。しかし、仮に処分を取消したところで申請がある以上は新たな処分を出さなければならないのであるから、裁判所が審査の上、あるべき新たな処分を義務付けるということはそれなりに合理的である(法もこの場合は取消訴訟と義務付け訴訟の併用を義務付けている)。そこで申請型の処分に関してはこの義務付訴訟は今後有効に使われていくということになるのではないだろうか(肢2,3)。

 以上が抗告訴訟である。さて、最初に訴訟は権利義務に争いのある者が当事者になると述べた。その例外として行政事件訴訟には民衆訴訟と機関訴訟がある。前者の典型は選挙訴訟であり、議員定数配分規定につき毎回の選挙後に憲法訴訟が提起されている(ほかに自治体の公金支出の適正を争う順住民訴訟がある)。これらは、原告自身の権利義務が直接に侵害されているわけではないから、典型的には訴訟の要件を満たさないところであるが、行政を統制するという趣旨で例外的に設けられているものである。

後者は、国または公共団体相互の紛争に関するものである。国の処分につき都道府県がその措置を争ったり、地方議会と地方自治体の首長がその権限をめぐって争うなどの類型がある。それぞれ当事者同士の紛争ともいえなくないが、公共団体相互の争いであるので、別の類型として取り扱われている(肢4)。

 評価

細かい。行政事件訴訟の類型を知る必要があるのだろうか…。とも思わなくもない。勉強するにしても取消訴訟の基本を押さえるべきではないかと思う。

事例を見て、このCさんとして何を求めたいだろうか、ということをシンプルに考えると、24時間である以上月720時間の支給決定を裁判所が命ずるべきだ!ということになる。ここから何もわからなくても、字面から2を選んで正答にたどり着くという方法も。


※この記事は、弁護士の筆者が、社会福祉士、精神保健福祉士の国家試験問題を趣味的かつおおざっぱに分析しているものです。正確な解説については公刊されている書籍を確認したり、各種学校の先生方にご質問ください。  

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