乳児の子育てに学ぶエンジニアリング
どうも、エンジニアのgamiです。
私事ですが、2022年3月に第一子が生まれました。5月いっぱいは育休を取得し、人生初の子育てに苦戦しながらあれこれ設備や仕組みを整えています。
さて、乳児の子育てとはまさに不確実性と直面し続けるような活動です。乳児は親の生活リズムと無関係に、朝も夜も突然泣き出します。しかもその理由は常に不明瞭で、どう対処するのが正解かがわからない中で暗中模索することになります。
一方で、子育てにおいてエンジニアとしての経験が活きると感じる場面がたくさんありました。別にプログラミングで子育てを自動化するという話ではありません。そうではなくて、エンジニアとしての不確実性に向き合うときの考え方や工夫が、子育てをより良くするために役に立ったと感じます。
ある定義によれば「エンジニアリング」とは、「効率よく「不確実性」を減らしていくために行うすべての活動」(『エンジニアリング組織論への招待』)のことです。そうであれば、仕事に限らず日常の不確実性に対処する上でもエンジニアリングが活きるはずです。今回は、僕が子育てと格闘する中でやってきた小さな工夫を、エンジニアが普段の仕事でやっているようなエンジニアリングと比較しながら紹介します。子育てをしている人も、そうではない人も、日常の中のエンジニアリング事例としてぜひお読みください。
子どもと親の健康を両立することの難しさ
(※子育てネタは燃えやすいので早めに有料エリアにします)
子どもが生まれる前の僕は、幼い子を育てる大変さを曖昧にしか理解できていませんでした。育児歴2ヶ月の僕の視点で言語化すると、それは「子どもと親の健康を両立することの大変さ」です。
たとえば新生児の頃は、約3時間に1回のペースで授乳をする必要があります。また、おむつ替えも1日10回以上することもあります。さらに小さい子供は自分で顔の上のものを払い除けたり自由に寝返りを打ったりができないので、枕やぬいぐるみで鼻口が覆われるだけで窒息してしまうことがあります。幼い子どもは、ただ健康にすくすく育つためだけでも常時大人からのケアが必要です。
さらに昼夜を問わず子どもをケアし続けることは、特に初めて子育てをする親にとってかなりの負担になります。頼れる家族が少なければ、外出はおろか、自由にお風呂に入ったりゆっくり食事をしたりすることもままならなくなります。また理由もわからず泣き叫ぶ我が子と直面し続けると、メンタルへのダメージも蓄積します。子どもに対する十分なケアを維持しながら親が健康的に自分らしく暮らし続けることは、想像以上に難しいことでした。
特に親の睡眠時間の確保は重要です。子どもが夜頻繁に起きてしまうと、親は十分に眠ることができません。睡眠時間が削れると、心身ともに余裕が無くなっていきます。「夜に親子ともども安心して長く眠れるような状態」が、子育てにおいて目指すべき1つの理想状態です。
メトリクスで不安を軽減する
幼い子どもの健康を維持する上で難しいのは、本人は言葉を喋れないということです。子どもは自分自身の体調不良を泣く以外の手段で伝えることができないので、親としては外形的な情報から子どもの健康状態を察することしかできません。
そのために重要になるのは、子どもにまつわる情報のログを取って集計することです。我が家ではぴよログという育児記録アプリで日々の授乳や排泄のログを記録しています。
ぴよログには自動で授乳や排泄の回数を集計してくれる機能があり、子どもの体調が心配なときはこうした指標から「うんちの回数が減っていないかな?」など知ることができます。
また、定期的に体重を量ることで授乳量が足りているかどうかを把握することもできます。
このように、「子どもの健康」という直接見ることができないものを「排泄の回数」や「体重」などの定量指標で把握することも、簡単なことですがエンジニアリングの一種といえます。実際、ぴよログの集計結果は定期検診などで保健師や医師の方に子どもの状態を伝えるのに役立ちました。
ちなみにソフトウェアエンジニアリングではこうした定量指標を「メトリクス」と呼びます。たとえば次のようなケースでメトリクスが活用されることがあります。
不確実性に直面するとき、ついつい「観測できないもの」について考えて不安になりがちです。しかし観測できないものについて考えても、自分の対処が合っているかどうかを判断する役には立ちません。まずは関連する「観測できるもの」を明確にした上で、それがどんな状態にあれば問題が無いのか、何をコントロールすれば指標を改善できるのかを把握することで、不確実性に対する不安を軽減することができます。
フレームワークを使って近道する
子育てには決まりがありません。家で自ら子どもを育てるだけであれば、いつ授乳してもいつ昼寝させても、誰に指摘されるわけでもありません。一方で、子どもが泣くのに合わせて場当たり的に全ての対応をしているようだと、毎日子育てのスケジュールが変わることになり親としては予定を立てにくくなります。また夜間も子どもの夜泣きに左右されやすくなり睡眠時間が削られます。
我が家も初めての子育てで、最初は明確な正解が無い中で手探り状態でした。しかし、育休に入って会社の同僚からおすすめされた『ジーナ式』の本を読んでから、子育てスケジュールにおける型を得ることができました。
『ジーナ式』は、300を超える家庭で乳母をしたジーナ・フォードさんがその経験やその後の子育てコンサルタントとしての活動をベースに子育てナレッジをまとめた本です。最も核となるのは、「月齢に合ったスケジュールに沿って子育てすることで夜長く寝る子どもに育てる」という考え方です。
『ジーナ式』のスケジュールを守ることのメリットはいくつかあります。
もちろん自分の日々の子育て経験から学習することも重要ですが、同時に1人の子育てしか経験できない以上は学習スピードを上げることには限界があります。その点、多くの親子によって検証された『ジーナ式』という型をまず踏襲してみることで、より良い子育てのプロセスに最短で近付くことができます。
ソフトウェアエンジニアリングにおいても、開発業務のプロセスに対して既存のフレームワークをまず当てはめるということがよくあります。代表的なのは「スクラム」と呼ばれるフレームワークで、多くのソフトウェア開発の現場で「スクラム」をベースにした開発プロセスが採用されています。
「巨人の肩の上に乗る」という言葉があるように、多くの人が経験したり研究した結果がすでにあるのであれば、それに乗っからない手はありません。誰かが決めた型をそのまま真似するのは自分の頭で考えていないようで抵抗があるかもしれませんが、1人の人間が経験し学習できることには限界があります。武道や将棋なども、まず型や定石を覚えることから研鑽が始まります。自分の事情に合わせたり個性を出したりするのは、その型に慣れてからでも遅くはありません。
タスクを効率化して余裕をつくり出す
子育てが始まると、親は大量のタスクに忙殺されるようになります。
まず『ジーナ式』にあるようなスケジュールを守るだけでも、授乳や寝かしつけなどの定常タスクが1〜3時間おきに発生します。それに加えて、排泄、泣き、吐き戻しなどのスケジュール外の事象に対してその都度対処する割り込みタスクが大量に発生します。もちろん料理や掃除や洗濯なども通常の家事タスクもあります。個々のタスクを効率化しないと、親は常に何らかのタスクに追われている状況になります。
たとえば我が家ではSwitchBotのカメラを買って、寝ている子どもの様子をいつでも確認できるようにしました。
乳児の窒息による死亡事例などを見ると、子どもを安全なベビーベッドに寝かせていても安心できるとは限りません。とはいえベビーベッドのある寝室に常に親が居続けるわけにもいきません。
SwitchBotのカメラをベビーベッドに置いてWi-Fiに接続しておくと、スマートフォンでいつでもその映像をリアルタイムに確認できるようになります。我が家ではリビングにあるGoogle Nest Hubでカメラ映像を常に確認できるようにしています。「OK Google カメラを見せて」と言うだけでいつでもカメラ映像を表示できるので、定期的に寝室を見に行くタスクが無くなりました。
体動センサーもベビーベッドに設置しました。体動センサーは体の動きが無くなるとアラート音で知らせてくれる優れもので、実際に産婦人科でも使われています。これにより、夜間など親がカメラ映像を確認できないときでも子どもの安全を機械がチェックしてくれるようになりました。
自動監視の仕組みは、ソフトウェア開発の現場でもよく導入されます。たとえばサーバーのヘルスチェックのためのメトリクスを取得していても、それを人力で定期的に確認するのはコストが高く、またチェック漏れのリスクも上がります。そのため、メトリクスが異常値になった場合に自動でアラートが飛ぶようにしているケースが多いです。こうした監視の仕組みを作っておくことで、エンジニアはSlackや電話でアラートを受け取ったときだけサーバーの様子を見にいけばよくなり、新機能の開発等に集中しやすくなります。
さて、その他にも我が家の子育ては自動化や効率化の余地があれば積極的に投資をしてきました。具体的には、おむつ替え専用の台を設置したり、哺乳瓶を電子レンジですぐ除菌できる消毒ケースを買ったりしました。また、そもそもの家事負担を軽減するために、ドラム式洗濯機、食洗機、ロボット掃除機、ハンドブレンダーなどの家電に惜しみなくお金を注いできました。こうした投資の結果、子育てタスクが増えてもある程度の自由時間を確保できる状態を維持しています。
日本社会には何となく「苦労することを推奨する」ような空気があります。しかし、親の余裕が無ければ子どもと向き合う時間を確保するのも難しくなります。特に仕事と子育ての両立を目指すのであれば、子育てという不確実な課題に対してエンジニアリング的アプローチで真剣に対処し楽をすることが重要だと思いました。
今回のnoteでは、子育てという事例においてエンジニアリングの考え方が活きた事例を紹介しました。個々のケースはそこまで大した内容ではないですが、「これは解くべき課題ではないか」とか「もっとうまく対処できるのではないか」といった視点で現状を見る癖が付いたのは、エンジニアとしての経験が活かされていると感じます。
今回紹介したような工夫はエンジニアにしかできないものでは全くありません。日常生活の中には、誰でもできるエンジニアリングの種はそこかしこにあります。子育てに限らず、ぜひ現状の課題を見つけてうまく対処するトライをしてみてください。きっとそれはより良い仕事やより楽しい仕事の実現にもきっとつながるはずです。
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