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スプラトゥーン3に学ぶコミュニティデザイン

どうも、エンジニアのgamiです。

相変わらずスプラトゥーン3をやっています。ウデマエもS+まで上がりました。めでたい。

さて、前回のnoteではスプラトゥーン3のプレイヤー体験を良くする仕組みについて紹介しました。ゲーム以外の分野でもUX改善の参考になるはずです。

今回は、スプラトゥーンの要素の中でも「コミュニティ」に焦点を当てて考えます。もちろんコミュニティといっても大会などオフラインイベントに参加する人から、ゆるくオンラインプレイを楽しむ人まで、人によって関わり方は様々です。ここではその下支えとなる、スプラトゥーン3というゲームのデザインの中に組み込まれた「プレイヤーコミュニティを盛り上げるための仕掛け」について紹介します。

スプラトゥーン3では、その仕掛けによってプレイヤー同士の仲間意識が醸成されやすくなっています。結果、スプラトゥーンには熱狂的なファンが多くなり、口コミでゲームが広まったりグッズの売れ行きが伸びたりといったビジネス的な成功につながっています。こうした仕掛けはゲーム以外の事業の参考にもなります。


新規ユーザーを大切に

コミュニティマネジメントで最も重要な考え方の1つが、「新しく参加したメンバーを大切にする」ということです。コミュニティを持続可能にするためには、新規のメンバーと既存のメンバーとの人数バランスがとても重要です。古参メンバーが幅を利かせて新規メンバーの肩身が狭いコミュニティは、組織の自浄作用が衰えすぐに衰退します。

スプラトゥーン3では、「セーブデータの引き継ぎ」という仕組みによって初期に初心者と上級者がマッチングしないような工夫がされていました。

https://gamewith.jp/splatoon3/article/show/362755

スプラトゥーンにおいて多くのプレイヤーはバンカラマッチ(前作ではガチマッチ)と呼ばれる4対4のバトルに勝ってウデマエを上げていくことを目指します。ウデマエはC-からS+まであり、ウデマエが近い人同士がマッチングしやすいようになっています。普通であれば全員がC-からのスタートになるため、新しくスプラトゥーンを始めた人が前作をやり込んだ猛者とマッチングしてしまうこともありえます。しかしスプラトゥーン3では、Switchにスプラトゥーン2のセーブデータがある場合、そのときのウデマエがある程度高い人はB-からスタートできる仕組みが導入されていました。これにより、スプラトゥーン3発売直後に意気揚々とバトルを始めた初心者が上級者にボコボコにされて萎えてしまう、というリスクを軽減しています

他にも、初心者向けのチュートリアルがしっかり作られていたり、様々なブキの練習ができる一人プレイモード(ヒーローモード)が用意されていたり、新規プレイヤーが効率よくプレイ経験を積めるようになっています。

また、スプラトゥーン3にはバトルでウデマエを上げる以外の遊び方がたくさんあります。

  • ウデマエと関係なくバトルができる「ナワバリバトル」

  • 4人で協力して敵CPUからイクラを回収する「サーモンラン」

  • 今作から追加された陣取りカードゲームの「ナワバトラー」

これだけ色々な遊びが用意されていれば、ガチのバトルに興味がないプレイヤーでも自分なりの遊び方を見つけられます。スプラトゥーン3は、ゆるく遊びたい人からガチゲーマーまでプレイヤーの裾野が広いゲームタイトルになっています。

自己表現から生まれるつながり

場があってそこに人が集まっていたとしても、それだけでコミュニティは形成されません。人の集まりをコミュニティと呼ぶには、そこにメンバー同士の交流やつながりが必要です

スプラトゥーン3では、ただの対戦ゲームとしては異常なほど自己表現の手段が用意されています

まず特徴的なのは、「ギア」と呼ばれるファッションアイテムです。アタマ・フク・クツの3つのカテゴリに分かれるギアは、前作では400種類近い数が存在していました。ギアにはバトル中の一部能力を高める効果がありますが、それはそれとして自キャラを着せ替えながらファッションコーディネートを楽しむこともできます。

お気に入りのファッションを身にまとったら、バンカラ街を歩き回って写真撮影します。街にはたくさんのイカが歩いていますが、これらは実在のプレイヤーが設定した名前やコーディネートが反映されています。プレイヤーは他のプレイヤーのコーディネートを見て「このフク最高!」とか「この組み合わせ素敵!」など思いを馳せることになります。そんな中で、他のプレイヤーの存在を自然と意識させられます

自己表現の手段はファッション以外にもあります。たとえばバンカラ街にはイラストを投稿するポストがあります。投稿したイラストは、他のプレイヤーに表示されるようになります。

そもそもプレイヤーは自分の名前を自由に付けることができます。さらに今作では自分のロッカーを自由にデコったり、ネームプレートに掲載するバッジや二つ名を選んだりできます。これらも単なる自己満足ではなく、ロッカーは他のプレイヤーに表示されるし、バトルでキルを取られたときには倒された相手のネームプレートが画面に表示されるようになっています。

このようにスプラトゥーン3は、プレイヤーに対して常に他のプレイヤーの存在を意識させるゲームデザインになっています。スプラトゥーンを遊び倒している他のプレイヤーの自己表現を日常的に目にすることで、プレイヤーは「みんながスプラトゥーンを思い思いに楽しんでいるんだ」という物語を自然と信じるようになります。

またSwitchにはスクリーンショット機能とSNS連携機能があり、ゲーム内の写真はTwitterで簡単にシェアすることができます。レアアイテムやお気に入りのコーディネートの画像は、つい誰かにシェアしたくなるものです。プレイヤー同士のつながりはゲーム世界に閉じるものではなく、SNSにまで広がっていきます。

コミュニケーション手段の制限と「半匿名性」

オープンなコミュニティは、悪意のある一部の個人に荒らされるリスクを常に抱えています。健全で治安の良いコミュニティを維持する方法は、大きく2つあります。

  • コミュニティをなるべくクローズドにし、新規参加にハードルを設ける

  • 参加メンバー同士のコミュニケーションを一部制限する

スプラトゥーンの場合は、後者の方法でコミュニティの治安を守っています。

スプラトゥーンで特にリスクがあるのは、バトルで味方となったチームメイトへの誹謗中傷です。スプラトゥーンではオンラインでマッチングしたメンバーで即席のチームを組んで4対4でバトルをします。特にウデマエがかかっているバンカラマッチでは、味方のミスによって負けそうになることもあります。そんなときは誰しもそのチームメイトに悪態をつきたくなります。もしスプラトゥーンで自由にテキストチャットができる機能があったら、実際に罵詈雑言が飛び交うでしょう

一応、スプラトゥーンではバトル中に味方とコミュニケーションを取ることができる機能があります。しかし発言内容は強く制限されており、具体的には次の3つの言葉しか発することができません

  • ナイス

  • カモン

  • やられた

https://skilltown.jp/community/note/72

たとえば「ウデマエアップがかかった重要な試合で不用意に前に出てキルされるの本当に辞めてもらっていいですか?」などと思ってもそれを味方に伝えることはできないようになっています。プレイヤーにできるのは、良いプレイをすることと、味方の良いプレイに「ナイス」を送ることくらいです。ポジティブですね。

さらに重要なのは、プレイヤーの匿名性が担保されていることです。仮にゲーム内のコミュニケーションが制限されていても、プレイヤー毎にTwitterアカウントのような一意のIDが表示されていれば、SNS上で名指しして叩くことができます。しかしスプラトゥーンやスマブラなどのオンライン対戦ゲームでは、他の人と同じプレイヤー名も付けられるようになっています。実際同じ名前のプレイヤーも多く、名前を後から変更することもできるため、他のプレイヤーが実際には誰なのか特定できないようになっています。名前は付いているが個人特定はできないという状態にすることで、自己表現を可能にしつつ匿名性を担保しています。ここのバランスは絶妙といえます。

ちなみに、前述のようにスプラトゥーン3では自分で設定したプレイヤー名や自分で描いたイラストを他のプレイヤーに表示させることができます。となると下品な名前や卑猥なイラストが蔓延るリスクがあります。ここに対しても、プレイヤー名に利用規約に反する名前を登録した場合に罰則があったり、他のプレイヤーのイラストを通報したりする仕組みが用意されています。こうした工夫によって、スプラトゥーン3のクリーンな世界観が維持されています。

https://game8.jp/splatoon3/480000

なお、コミュニケーション手段を強く制限するような設計はゲームに限らずデジタルサービスでよくあります。たとえばTwitterスペースなどの音声配信機能では、配信を聞く参加者にできることがかなり制限されています。せいぜい絵文字リアクションを送るくらいです。一方で、ホストは自ら音声で発言するだけでなく、参加者に発言権を付与することができます。誰でも参加できるオープンなコミュニティにおいては、性悪説に立ってデフォルトのコミュニケーション手段を強く制限することで、治安の悪化を未然に防ぐことができます。

「みんなで同じゲームを遊んでいる」という感覚

実際にスプラトゥーン3をプレイしている僕としても、ついゲーム画面のスクショをTwitterでシェアしたり、会社の同僚にソフトの購入を勧めたり、自然とスプラトゥーンコミュニティを広げる活動に参加させられています。僕はいわば自覚的に任天堂やスプラトゥーン3というゲームシステムとの共犯関係を結んでいるといえます。(このnote記事もその活動の一部ですね。)

ここまで説明したようなゲームデザインによって、プレイヤーは知らない他人に対しても「みんなで同じゲームを楽しく遊んでいるよね」という仲間意識を持つように仕組まれています。そもそもスプラトゥーン3自体が、「バンカラ街という地区にイカした若者が集まってバトルやファッションを楽しんでいる」という世界観をベースにしています。我々プレイヤーは、こうしたイカたちの物語を自然と体現するように操作されているわけです。よくできている。

スプラトゥーン3をしていると、コミュニティ醸成を後押しするデザインの力を強く感じます。繰り返すようですが、これはゲームの世界に閉じた話ではありません。良いコミュニティを作り育むことが事業を成長させる局面があれば、事前にコミュニティの設計を十分しておくことで、事業の成功確率を高めることができそうです。

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