オープンイヤー型イヤホンとARと体験のレイヤリング
どうも、エンジニアのgamiです。
ここ1年、Bluetooth接続型のイヤホンを色々と買って試しています。
元々は耳を塞ぐタイプのカナル型イヤホンを使っていました。その後、骨伝導イヤホンに興味を持ってイヤホンを買い替えたことがきっかけで、装着中にも外の音が聞こえる「オープンイヤー型イヤホン」の魅力に気付きました。
ある日ふと、耳を塞ぐタイプのイヤホンとオープンイヤー型イヤホンの違いは、VRとARの違いに近いなと思いました。今回はその直感を深堀りしつつ、映像や音声を体験するためのハードウェアとその体験設計についてゆるく考えます。
なぜオープンイヤー型イヤホンを買うのか?
オープンイヤー型イヤホンが欲しいと思った理由は、家でカナル型イヤホンを日常的に使うのが難しくなったからでした。
僕は家でYouTubeやシラスの長時間番組やポッドキャストを聴きながら家事やゲームをしています。一方で、配偶者と同居をしていると音声を聞いているときにふと話しかけられることがよくあります。そのときカナル型イヤホンを付けていると、話しかけられたこと自体に気付けないこともありました。その申し訳無さから、家に配偶者がいるときはイヤホンを使わないようになりました。さらに今年は子供が生まれたので、耳を塞ぐタイプのイヤホンをしていると子供が泣いたり咳き込んだりしているのに気付けないリスクもありました。
もちろんイヤホンを付けずにスマートフォンから直接音声を流すということもできます。しかし、配偶者もよくラジオを聞いたりYouTubeを見たりしているので、それはそれで音声が渋滞して聞き取りにくくなってしまいます。
とはいえ、家族が増えたことで家事や育児のタスクも増え、ポッドキャストなどを「ながら聴き」したいことも多くなりました。
そんな課題を解決したのがオープンイヤー型イヤホンでした。オープンイヤー型イヤホンは、現実世界の音声を遮断せずにスマートフォンやPCから出力される音声を聴くことができます。僕にとっては、家族の声を遮断せずに自分の耳だけに音声を届けることができる、まさに望ましいハードウェアでした。
オープンイヤー型イヤホンが便利なのは、家の中だけではありません。たとえば駅で電車遅延のアナウンスを聞き逃しにくくなりました。職場でも、リモートワークが増えたことで、ミーティングでオンラインの人とその場にいる人の声を混ぜて聞きたいことも増えました。現実世界の音を遮断しないことのメリットは、思いの外たくさんあります。
もちろん、耳を塞ぐタイプのカナル型イヤホンやオーバーイヤーヘッドホンを使いたい状況もあります。周りの音を遮断して作業に集中したいときや、リモートワークをしていて家から会議に参加するときなどは、僕も外部の音を遮断する類のイヤホンやヘッドホンを使っています。
VRは現実を遮断し、ARは現実と共存する
オープンイヤー型イヤホンを使っていると、「現実世界の音声空間にデジタルのそれを重ね合わせている」という感覚になります。あるときふと、それを映像の分野でやっているのがAR (Augmented Reality) なんだなと思いました。
ここでは、カナル型イヤホンとオープンイヤー型イヤホンの違いが、たとえばVRヘッドセットとARヘッドセットの違いに対応します。
カナル型イヤホンやオーバーイヤー型ヘッドホンは、耳の穴を覆うことで現実世界の音を遮断します。同様に、Meta QuestなどのVRヘッドセットは目の前を覆うことで現実世界の映像を遮断します。細かいことを言えば、Meta Questなど最近のVRヘッドセットにはカメラが付いており、壁にぶつかりそうになったときなどは必要に応じて周囲の映像をディスプレイに表示してくれます。しかし、基本的にVRヘッドセットは「VR世界の映像だけを見ること」を強要します。
一方で、オープンイヤー型イヤホンが現実世界の音にデジタルの音声を重ねるように、ARヘッドセットは現実世界の映像にデジタルのそれを重ね合わせます。
ARヘッドセットはまだまだ一般家庭までは普及していないですが、ARが目指すのは人間が現実世界とデジタル世界の両方を同時に見るのが当たり前になる世界です。
このように、人間が音声や映像を体験するためのハードウェアには、大きく「現実世界から人間の感覚を切り離して別の世界に没入させるもの」と「人間の感覚上で現実世界とデジタル世界の両方を重ね合わせるもの」の2つがあるといえます。
体験のレイヤーを作る
より卑近な例で言えば、VRとARの違いは映画館とNetflixの違いにも似ています。
映画館で映画を見るとき、我々はスクリーン以外を見ることはあまりありません。一方で、家のテレビでNetflixを見るとき、仮に映画の映像を流しているとしても、家族の様子を見たり目の前の料理を取り分けたり、ときにはスマートフォンをいじったりすることさえあります。
特に近年は、家で何かをしながらNetflixで映像を流すような「ながら見」のコンテンツ視聴スタイルが増えているように感じます。たまには映画館に行くとしても、日常的には「ながら見」を許容するような状況の方が受け入れやすいといえます。実際、我々の多くは現実世界に生きながらその多くの時間をスマートフォンを眺めることにも割いています。その体験はいわば「AR的」であり、すでに現実の体験とデジタルの体験の重ね合わせが自然と行われているとも言えます。
もちろん、いわゆる「メタバース」的な世界観を支持する立場に立てばいずれはVR世界こそが我々が生きる「日常」になり、その現実の中に(つまりVRヘッドセットに投影される映像の中に)体験のレイヤーが複数生じることになるのかもしれません。
しかし、まだ現実世界の家に暮らし、現実世界の学校や職場に通い、現実世界で食事や排泄をする現代の人間にとっては、現実世界の音や光を無視して仮想世界に没入するのはまだまだ「非日常」に感じられます。
そんなわけで少なくとも僕の場合は、オープンイヤー型イヤホンをよく使うし、Meta Questは買ったけどそんなに使わなかったし、Googleグラスが一般発売されたら買うかもしれません。
2回の買い替えでたどり着いたベストなオープンイヤー型イヤホン
さて、最後に脈絡なく、僕が今まで買ったイヤホンのレビューを書いておきます。
僕がイヤホンに求める要件は次の通りです。
僕がこの要件を満たすために試したイヤホンは、次の3つでした。
AfterShokz Aeropex
ここ数年で骨伝導イヤホンブームを巻き起こしたAfterShokzのマイク無しモデルです。ちなみに現在はブランド名もShokzに変わり、Aeropexというモデル名もOPENRUNに変わっています。
Shokzは初めて買ったオーバーイヤー型イヤホンかつ初めて買った骨伝導イヤホンであり、最初に使ったときはとても感動しました。一方で、使い続けていると次のような不満も出てきました。
さらに、数ヶ月使った頃に「使用中に突然電源が落ちる」という謎の現象が頻繁に起こるようになり、別のイヤホンに乗り換えました。
boco PEACE TW-1
当時は「骨伝導こそ至高」と思っていたので、Shokz以外の骨伝導イヤホンを試してみようと色々探していました。特に後頭部を通るShokzのワイヤーが鬱陶しかったので、左右独立型イヤホンを探してboco PEACE TW-1にたどり着きました。
bocoは装着感が独特で、買ってすぐ家で試したときは「これは面白い!良い買い物をした」と上機嫌でした。しかし、いざ外で使ってみると、Shokz以上に音声が聞こえにくいという問題がありました。他にもいくつかの不満がすぐに出てきました。
SONY LinkBuds
この頃は自分のイヤホンリテラシーも上がり、「自分が求めていたものは骨伝導イヤホンではなくオープンイヤー型イヤホンである」という結論に達しました。確かに骨伝導イヤホンは面白いですが、同様の体験が実現できるなら普通のオープンイヤー型イヤホンでも何の問題もありません。
bocoの次に試して、今でも使っているイヤホンが、SONY LinkBudsです。
SONY LinkBudsの良かった点は次の通りです。
僕としてもスタートアップを応援したいのでShokzやbocoを使い続けたいし、「結局SONYかよ」という気持ちもあるのですが、やはり安心安全のSONY製品には勝てませんでした。
というわけで、僕の現状のおすすめオープンイヤー型イヤホンは、SONY LinkBudsです。細かいことを言うとイヤホン本体をタップして一時停止や曲送りをする操作に誤作動が多かったり、不満はゼロではないんですが、今のところはこれがベストでした。
買おうか迷っている人はぜひ試してみてください。また他におすすめオープンイヤー型イヤホンがあれば教えてくれると喜びます。
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