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ブロックチェーンと考えるバズワードとの向き合い方

どうも、エンジニアのgamiです。

最近は、「ブロックチェーンすごそうだけど全然わからん」という気持ちになりブロックチェーンの入門書を読んでいます。

ブロックチェーンに限らず、Tech界隈から新しい技術や概念が登場し話題になるということはしばしばあります。最近では、5Gやメタバースなど。そしてこうした用語の一部はバズワード化し実態とズレた扱われ方がされることもあります。

今回は、僕がブロックチェーンについて学び始めたケースを題材に、Tech界隈のバズワードとの向き合い方について考えます。


玉石混交でカオスなTech用語

デジタル技術を取り巻く企業、投資家、中央省庁、学者たちは、日々新しい技術や概念を提唱する用語を生み出しています。ここ数年でよく聞く言葉をいくつか例に挙げてみます。

クラウド / ビッグデータ / AI / IoT / NoCode / DX / 5G / メタバース

こうした用語の中には、純粋に情報技術の話だけではなく、ビジネスモデル、組織論、社会観などをスコープに含むものもあります。単に特定の技術を振りかざすだけでは、社会はなかなか変わりません。現代のTech用語が技術の社会実装も加味した概念まで含むのは、半ば必然とも言えます。たとえば「DX」が指す概念は、もちろんクラウドサービスの普及など技術的潮流が背景にはありますが、どちらかというとデジタル企業の市場破壊という経済的な事象に対する対抗策という向きが強いです。概念の抽象度が上がり様々な要素を含むようになることで、用語の理解が難しくなっているという側面も強くあります。

また、デジタル技術が絡む用語が流行することで関連する多くのプレイヤーにとっては経済的チャンスが増えるという事情もあります。具体的には、コンサルやシステム構築の提案が通りやすくなったり、関連銘柄の株価が上がったり、研究予算が下りやすくなったりします。

こうした事情があると、ある用語が曖昧にしか理解されていない状況に意図的に付け入って解釈をズラし用語の指す対象を肥大化させていくような力学が働きやすくなります。たとえば、本質的にはあまり関係がない自社事業を指して「AI」と呼んだり「メタバース」と名付けたりするケースがあります。

対象が肥大化しバズワードへ

バズワードに対するポジションの取り方

ただでさえ抽象的な用語が様々なプレイヤーの思惑で繰り返し誤用されるような状況下で、一人の生活者としてそのバズワードと建設的に向き合うのは容易ではありません。われわれはこうしたバズワードに対して、どんな態度を取ればいいんでしょうか?

一つの取りうる態度は、「よくわからない新しい技術や概念は全て無視する」というものです。ブロックチェーンについては、よくわからないので考えない。メタバースは所詮はVRのことだと見なして切り捨てる。

対して、それと真逆の態度が「全てのバズワードに反応して噂まで鵜呑みにする」というものです。5Gは人体に影響を及ぼすし、シンギュラリティで数年以内に人間は働かなくても良くなる。

こうした2つの態度は、「何も考えなくていい」という意味ではどちらも楽チンな選択肢です。何も信じないか、全てを信じるか。

しかしお察しの通り、こうした自動機械のようなムーブを続けていると損をすることも多いです。具体的には、大きな社会変化の予兆を見逃したり、悪意のあるプレイヤーに騙されたりします

たとえばパソコンやスマートフォンが登場した当初は、それらが今ほど広く普及し日々の生活や仕事でヘビーに使われるようになるとは多くの人は考えていませんでした。その可能性に素早く気付きベットした企業や個人は、経済的に大きく成功しました。いまは想像できなくても20年後には、誰もがARデバイスを装着し、取引の半数以上がブロックチェーンを使ったものに変わっているかもしれません。

また、たとえば5Gに関しては陰謀論やデマが広がり、それを利用した詐欺まがいの商品も公然と販売されています。

新しいテクノロジーの影響を過信するのも、それはそれで悪意のあるプレイヤーに付け入る隙きを与えることになります。

技術や社会の現状を正しく捉えて妥当な未来予想をするには、こうした「全てを無視する」と「噂まで鵜呑みにする」という両極端の態度の間で、妥当なポジションを取る必要があります。そのためにはそれぞれのバズワードにベタベタと貼り付いた余分な贅肉を削ぎ落として、妥当な解釈を自分なりに見つけていくことになります。

それの何が新しいのか?

前置きが長くなりました。ここからは、ブロックチェーンへの理解を僕が深めていったケースを題材に、「新しい技術や概念の輪郭をどう捉えていけばいいのか」について考えます。「ブロックチェーン」という言葉は、他のバズワードに比べれば純粋に技術用語としての側面が強く、比較的扱いやすいといえます。

僕がよくわからない概念に対してまず自問するのは、「それの何が新しいのか?」という問いです。全く新しいもののように紹介された概念でも、実は20年前に提唱された別の概念の焼き直しである、といったことはよくあります。

ブロックチェーンと聞いて一般的にイメージされるのは、ビットコインに代表される暗号資産の売買です。しかし、単に「金融市場における投資対象が増えた」というだけでは、何ら新しいことはありません。

ブロックチェーンの新しさとは「非中央集権型のシステムでも安全な取引を実現できる」ことです。

ブロックチェーンは、P2Pプラットフォームで価値(お金だけではない!)を取引するための記録システムです。その意味するところは、信頼できる第三者機関として機能する銀行や仲買人、その他のエスクローサービスなど、信頼できる仲介者が必要ないということです。

ブロックチェーン実践入門』1.2 ブロックチェーンとは何か?

これまで、誰かとモノを売買したりするときには、常に信頼できる第三者の存在を前提としていました。たとえば全く信頼できない他人とも、アマゾンやメルカリを介することで、取引が可能になります。一方、ブロックチェーンの新規性とは、アマゾンやメルカリといった「信頼できる仲介者」を必要としない取引システムを実現してしまったところにあります。

今日では、アマゾンで何かを注文するとき、私たちは商品が配達されることに安心感を持っていて保証されていると感じています。商品の製造者としての誰かがいて、買い手として別の誰かがいます。では、このときアマゾンが担っている役割は何でしょうか?それは、信頼できる仲介者として機能し、いくらかの手数料を取りながらも取引を実現することです。
買い手は売り手を信頼しますが、その信頼関係は実際にはこのような第三者信頼期間によって与えられたものです。ブロックチェーンが提案しているのは、現代のディジタル時代において、本来、信頼を付与する第三者機関があいだに入る必要はなく、科学技術がこういったことを扱えるほどに十分に成熟しているということなのです。ブロックチェーンでは、初めから信頼がネットワークの一部として組み込まれています。

ブロックチェーン実践入門』1.5.1 中央集権型システムの制約

このように既存の技術や仕組みと比較しながらその概念の新規性を紐解いていくと、「なにがすごいのか」が理解しやすくなります。

ちなみに、信頼がない相手とも取引できるようなシステムを非中央集権型で実現するという相反する2つの要件は、暗号技術とゲーム理論を組み合わせたブロックチェーンの巧みな設計によって実現されています。ここがブロックチェーンの最も面白いところですが、長くなるので割愛します。気になる人は『ブロックチェーン実践入門』を読んでください。

それは社会をどう変えうるのか?

その概念や技術がどんなに新しくても、社会的なインパクトが小さければ無視しても大して影響ありません。ブロックチェーンも、単に既存の金融投資やキャッシュレス決済の代替にしか使われなければ、社会を大きく変えるほどのインパクトは無いように見えます。長期的なインパクトを判断するために、「それは社会をどう変えうるのか?」という問いを立ててみましょう。

ブロックチェーンの持つ社会変革のポテンシャルを理解するためには、それが徹底的に非中央集権な仕組みでありあらゆる前提を取っ払ってしまう可能性があることを理解するのが重要だと思いました。

たとえば米ドルを使った取引は、大元をたどれば米国政府への信用を前提にしています。ブロックチェーンを使った取引システムが一般化すれば、こうした現在の通貨システムすら破壊してしまうかもしれません。実際、中米のエルサルバドルでは2021年9月、米ドルと同様にビットコインも法定通貨化されました。(実際には弊害の方が多く、時期尚早だったという意見が多いみたいですが。)

またブロックチェーンによって、これまでは売買の対象とならなかったようなデジタルデータの所有権が売買され始めています。これまでも、企業が運営するプラットフォーム上ではデジタルデータの売買が普通に行われてきました。しかしそれはあくまでも、デジタルデータの利用権の売買であったり、そのプラットフォーム内でしか価値を持たない権利だったりしました。NFTアートがときに数十億円もの莫大な金額で売買されているところからもわかるように、ブロックチェーン上で取引される所有権は、特定の企業が倒産すると無くなってしまうような脆いものではありません。昨今のNFTアート界隈はかなりバブルの様相を呈しているみたいですが、リアルワールドで物や土地を売買するように、これまでは所有権を証明しにくかったデジタル資産が日常的に売買される世界が来つつあります。

さらにブロックチェーンについて調べてて面白いと思ったのは、DAO(Decentralized Autonomous Organization)と呼ばれる新しい組織形態です。これまで多くの営利組織は、株式の仕組みを前提に株式会社として運営されてきました。それに対して、ブロックチェーン上のトークンを元に議決権が分配され、純粋にコミュニティベースで運営される組織が生まれつつあります。たとえばビットコインというシステムの運営もDAOによって担われています。

DAO(自律分散組織)と株式会社の構造比較と、 それぞれが得意とすることを理解する | HashHub Research

このように、ブロックチェーンを使えば既存の面倒な前提を取っ払ってあらゆる取引を実現するシステムを構築できます。こうしたシンプルな取引システムが普及すれば、複雑なルールに縛られる既存の仕組みの優位性が下がる可能性があります。極端な言い方をすれば、通貨や金融や株式会社などあらゆる取引の仕組みがブロックチェーンで実装されたコミュニティベースのシステムに置き換えられる可能性があるわけです。やばいですね。

それにはどんな制約があるのか?

新しい技術にどんなポテンシャルがあっても、その社会実装には様々な制約があります。テクノロジーの社会実装の難しさについては、以前にもnoteに書きました。

ブロックチェーンも万能ではなく、様々な課題があります。

技術的には、たとえばスケーラビリティの問題があります。ブロックチェーンはそもそも参加者全員が過去全ての取引が記録された台帳のコピーを保持するような仕組みです。そのため、参加者数や取引数が増えるほど1つの取引に時間がかかるという問題があります。

また、仮にいずれ既存の法律で管理されているような取引までブロックチェーンが置き換えるようになるとしても、それにはそれなりの年月がかかるはずです。法改正には時間がかかりますし、ブロックチェーンが社会的信頼を勝ち取って多くの人の日々の生活に関わる取引まで担うためにはブロックチェーンが十分に安全である理由を多くの人が理解する必要があります。ブロックチェーンの複雑な仕組みは、その理解を難しくしています。

新しい技術が現実的にどのくらいのスピードで社会実装されるのかについては、冷静に判断する必要があります。


というわけで、今回はブロックチェーンを題材に新しい概念との向き合い方について考えました。

新しいデジタル技術にまつわる概念の実態やインパクトを正確に理解することに慣れることができれば、余計な情報に惑わされなくなります。また、人生を投資できるだけの魅力的な技術が見つかれば、そっちの方に仕事やキャリアを寄せていくこともできるでしょう。たとえば僕はSaaSが好きでSaaSを仕事にしているといえます。

というわけで2022年は、よくわかっていない言葉について自分で調べてみるところから始めてみてはいかがでしょうか??そこから新しい仕事が拓けてくるかもしれません。

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