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「AndroidかiPhoneか」という2択の何がおかしいか?

どうも、エンジニアのgamiです。

僕はスマートフォンが普及してからずっと、iPhoneではなくAndroidを使っています。スマートフォンが売られ始めた当時は単にiPhoneの取扱いキャリアが少なかったからという消極的な理由でAndroidを選びました。しかし、国内でiPhoneのシェアがAndroidを抜いた後も、その「オープンさ」に惹かれてAndroidを積極的に選び続けています。

最近の我々は日常的な選択として「AndroidかiPhoneか」という2択を選ばされています。この他愛もない選択の背景には、GoogleとAppleという二大プラットフォーマーのビジネスモデルやカルチャーの違いが存在します。そしてGoogleとAppleが築いたプラットフォームの違いを知ることが、Webなどのデジタル領域が絡むビジネスにおいて必要不可欠になってきています

今回は、「AndroidかiPhoneか」という2択から、この二大プラットフォーマーの違いについて考えます。


ソフトウェア企業かハードウェア企業か

少し技術に明るい人はすぐ気付くと思いますが、そもそも「AndroidかiPhoneか」という比較表現はおかしいはずです。この一見するとおかしい「AndroidかiPhoneか」という表現が自然に受け入れられている状況にこそ、GoogleとAppleの違いが色濃く出ています

「AndroidかiPhoneか」という表現がおかしいのは、AndroidはOSであり、iPhoneはハードウェアを指すからです。ご存知の通り、iPhoneにインストールされているOSはiOSです。OS間の選択を言葉で表すなら「AndroidかiOSか」となるはずです。しかし「AndroidかiPhoneか」という表現に違和感が無いのは、iOSがiPhoneというハードウェアにしかインストールできないようになっているためです。iOSとiPhoneが密結合しているが故に、日常的なレベルではそれらを区別することにあまり意味がありません。他方、Androidは様々な会社の色々なハードウェアにインストールできます。

前述のように、「AndroidかiPhoneか」という表現はGoogleとAppleの最も大きな違いを端的に表しています。それは、Googleはソフトウェア企業だがAppleはハードウェア企業であるということです。もちろんGoogleもたくさんのハードウェアを販売していますし、AppleもApple製品の上で動く様々なソフトウェアを開発しています。しかしながら、創業期から続くカルチャーやビジネスモデルは容易には塗り替えられません。

Appleの最初のヒット商品はApple IIというコンピュータです。そしてAppleは現代でも、世界で二番目にスマートフォンを出荷している会社です。もちろんハードウェアだけがあってもOSが無ければ一般ユーザーがコンピュータを使うことはできません。そのためAppleはMac OSやiOSなどのOSを開発してきました。しかしAppleにとっての主役はあくまでもハードウェアであり、それらOSはApple製のハードウェア上で動かすことを前提に作られています。

他方、Googleの歴史は検索エンジンの開発からスタートしています。検索エンジンとはソフトウェアであり、Googleの事業の根幹をなすgoogle.comや広告配信システムもソフトウェアです。もちろんGoogleもNexusやPixelといった自社ブランドでスマートフォンを販売してきました。しかしGoogle NexusはHTCやサムスンのスマートフォンのOEMブランドで、Googleが自社で工場を持つといったことはありませんでした。Pixelについても、当初はHTCが開発を担当しており、Googleが開発を直接担当するのは2017年にHTCのPixel開発部門を買収してからです。

AndroidとiOSの違いにも、こうした両企業の違いが色濃く出ています。

GoogleはAndroid社を2005年に買収して以来、Androidの開発を担ってきました。しかしAndroid自体はオープンソースソフトウェアとして無償でソースコードが公開されており、あらゆるスマートフォンベンダーが自由に自社製品にインストールすることができます。Googleとしては、Android自体で儲けるのではなく、Androidで利用されるGoogle製アプリやGoogle Play Storeの利用料金から収益を上げるというエコシステム重視のビジネスモデルになっています。

他方、先に述べたようにiOSはiPhoneというハードウェアにしかインストールできず、iOS自体のソースコードも公開されていません。逆に言えば、iOSとしてはiPhone上で動かすことだけを考えて開発すればいいので、ユーザー体験の向上や開発の効率性という観点では有利です。

Web主導かネイティブ主導か

出自がソフトウェア企業かハードウェア企業かという違いは、アプリケーションレイヤーの違いにも影響しています。それは、Web主導かネイティブ主導かという点です。

Googleは元々、「Webページを検索可能にする技術」と「Google検索結果ページの広告枠」の販売を主要な武器にビジネスを立ち上げてきました。GoogleはまさにWebのテクノロジーと共に生まれてきた企業です。自社が開発するGoogleマップやGmailなどのアプリケーションにおいても、Webブラウザで動くものをまず作って、必要に応じて後からネイティブアプリ対応を行うというのが常です。

対するAppleはハードウェア企業であり、「なるべくハードウェアと密結合したソフトウェアを作って体験を良くする」というのがAppleの考え方です。Appleが作るアプリケーションの多くはAppleデバイスでしか動かないネイティブアプリです。

実際、GoogleとAppleの両方で似たようなアプリケーションが提供される場合でも、GoogleはWebアプリケーションとして、Appleはネイティブアプリとして提供を開始するケースがとても多いです。たとえば次の通り。

  • プレゼンテーションソフト(Googleスライド v.s. Keynote)

  • マップアプリ(Googleマップ v.s. Appleマップ)

  • 音楽再生アプリ(YouTube Music v.s. iTunes)

Webアプリとネイティブアプリでは、ハードウェアとの距離感が違います。Webアプリの方が、Webブラウザというソフトウェアを間に介している分ハードウェアとの距離が遠くなります。言い方を変えれば、デバイスの違いをWebブラウザが吸収してくれるので、1つの同じWebアプリケーションを様々なデバイスで動かすことができます。その意味で、Webアプリの方がよりオープンであると言えます。

一方、ネイティブアプリの方がハードウェアの機能をフルで活かすことができ、Webでは実現できないことができたりユーザー体験がより良くなったりするメリットがあります。

Webアプリとネイティブアプリのレイヤー

ちなみにGoogle ChromebookはGoogleがWebを中心に世界を考えていることを示す面白いハードウェアでした。ChromebookのOSであるChromeOSはWebを中心に据えたOSであり、基本的には全てのアプリケーションをWebアプリケーションとしてChromeブラウザ上で利用するという設計思想で作られています。まさにOSとWebブラウザを一体化させたOSであり、Web主導で考えるGoogleの思想が出たプロダクトといえます。

もちろんGoogleはAndroid OSを開発しネイティブアプリのマーケットプレイスであるGoogle Play Storeを運営していますし、AppleもSafariブラウザを開発しWebのユーザー体験向上のための投資をしています。Webとネイティブの世界はどちらか一方を無視できるようなものでもありません。とはいえどちらを中心に考えてきたかという点で、GoogleとAppleの間にはカルチャーの違いが伺えます。

広告依存か直接課金か

ここまで説明したようなGoogleとAppleの違いは、そのビジネスモデルの違いにも現れています。

2018年のデータを見ても、Googleの親会社であるAlphabetの売上高の80%以上が広告ビジネス経由である一方、Appleでは80%以上がiPhoneを中心とするハードウェアの売上となっています。

https://finders.me/articles.php?id=866

この違いは、抽象的に言えば広告依存かエンドユーザーからの直接課金かの違いです。Appleの場合は基本的にエンドユーザーの強い支持を得つづけられればビジネスの根幹は揺るぎません。その分、話はシンプルです。他方、Googleの場合は広告主の意向も無視できません。広告の配信先となるGoogle検索やYouTubeなどの媒体にユーザーを惹きつけつつ、広告主にもビジネス上の価値を提供する必要があります。もちろん、Googleはエンドユーザーの体験と広告主の成功の両立を目指して様々な策を講じています。しかし、例えばYouTubeにコンプレックスを煽る動画広告が多く流され一部のユーザーから批判が上がっているように、どこかでユーザー体験を犠牲にしてでも広告主の収益最大化を目指さないといけないという辛さがあります。

たとえばWebブラウザにおける3rd. party cookie廃止へのスタンスの違いにも、両社のビジネスモデルが反映されています。

GoogleはGoogleChromeにおける3rd. party cookie廃止を2回も延長しています。この背景には、3rd. party cookieが主にWebのリターゲティング(リマーケティング)広告で使われているという事情があります。Google自信の調査結果によれば、「3rd. party cookie を廃止するとパブリッシャーの広告収益が52%減少する」 とも言われています。よりクリックされる広告を出すには、ユーザーの情報を多く取得する必要があります。3rd. party cookieという当初のWebブラウザが意図していなかったcookieの使い方にWeb広告の多くが依存した結果、Googleとしても3rd. party cookieを容易には廃止できなくなっています。

一方、ここ数年のAppleはプライバシー関連の施策や機能追加を一段と強めています。Safariにおいても、3rd. party cookie廃止を含む行動トラッキング制限機能(ITP, Intelligent Tracking Prevention)をいち早く導入してWeb業界のプライバシー強化の動きを牽引してきました。

https://www.apple.com/jp/privacy/features/

見方を変えれば、Appleはプライバシー強化に踏み切れないGoogleの事情を逆手に取ったマーケティング戦略を取っているとも言えます。

二大プラットフォーマーのパワーバランス

ここまで、GoogleとAppleの考え方やビジネスモデルの違いについて述べてきました。

たとえば現代におけるWebやスマートフォンアプリに対する規制は、この2社の意向が大きく反映されたものになります。これらのプラットフォームに依存して事業を展開する何万社もの企業は、GoogleやAppleの決定一つで利益が大きく増えたり減ったりするリスクを抱えています。プラットフォームの未来を予測し自社への悪影響を抑えるためには、GoogleやAppleの意思決定の背景にある事情を理解することが役に立ちます

GoogleやAppleによる規制やルール変更によって特定の業界や企業が大きなダメージを受けた例は、これまでにもたくさんあります。

たとえばSafariの3rd. party cookie廃止は、Web広告業界に大打撃を与えました。リターゲティング広告プラットフォームとして名高いCriteo社の株価は、ITPの適用が開始され始めた2017年9月頃から暴落しています。

出典

また、AppleのApp Storeではアプリ内で購入されるアイテムの売上に対して最大30%の手数料が発生します。Google Play Storeでも2022年6月1日からポリシー変更され、同様の手数料が課金されるようになりました。こうしたスマートフォンアプリプラットフォーム側が手数料の強制や値上げの決定権を一方的に持っていることで、スマートフォンアプリ経由の売上が大きい企業はビジネスの首根っこを握られた状態になっています。実際、AmazonはKindleでこの手数料を回避するためにKindle本のアプリ内購入をできなくしています。これは非常に大きな仕様変更であり、ユーザー体験も悪いしAmazonとしても大きな機会損失を被っています。

「その規制の上でビジネスをするしかない」という意味で、GoogleやAppleが作るプラットフォームはもはや国家に近い存在になりつつあります。国家を無視して仕事ができないように、デジタルプラットフォーマーの思考回路を理解してうまく折り合いをつけていくことのビジネス上の必要性が大きく高まっています。Web3.0の先にこうした状況が変革される未来もあるかもしれませんが、結局はGoogleもAppleなどの一企業が作るプラットフォームに乗っかるしかありません。

一方、そのプラットフォーム運営の裏にはビジネスの成長とユーザー体験の向上を両立させようとするGoogleやAppleの思惑があります。そしてその思惑には、GoogleとAppleの文化やビジネスモデルの違いが反映されます。こうした違いを理解してうまく立ち回ることが、少なくとも今は求められています。

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