漫画アプリのUIについてDMをもらった例の大学生と再び会って会話してみた(前編)
こんにちは。少年ジャンプ+編集部のモミーです。
先月、僕のTwitterに見知らぬ大学1年生から漫画アプリのUIについてDMが届きました。ツイートしたところ、大きな反響がありました。
先日、その大学生と再び会ってみました。
漫画アプリの中の人である私・モミーと、約20歳下の現役読者である大学1年生・三宅利史くん。
世代と立場の異なる二人で、漫画の未来についてじっくり会話してみました。文字起こししたので、よろしければご覧ください(たぶん面白いです)!
大学生1年生の感じた〝漫画アプリ2つの違和感〟
三宅くん:この間は、ありがとうございました。
モミー:こちらこそです。まず、先月TwitterのDMでもらった漫画アプリUIに関する提案内容がどんな内容だったか、話してもらっていいですか?
三宅くん:わかりました。僕は〝漫画アプリのあり方〟と〝若年層がアプリに求めていること〟が離れているんじゃないか、というのをずっと感じていて。そこには二つのポイントがあると考えていました。
モミー:はい。
三宅くん:ひとつは若者がアプリを使うとき〝短い時間で自分の心に刺さるものじゃないとすぐ離脱してしまう〟というのが特徴としてあると思います。
モミー:うん、なるほど。
三宅くん:で、もうひとつが、〝選択したくない〟という若者の欲求があるとすごく感じていて。そもそも選ぶのすら面倒くさい、というのがあると思います。選んでタップする、その行為自体に対してすごいストレスを感じていると。
モミー:たとえばTikTokみたいな感じですかね。自動で流れてくるみたいな。
三宅くん:はい。レコメンドによって漫画のコマが自動で流れてくるTikTokのような形が理想かなと思っていました、そういう二つの面で今の漫画アプリっていうのは若年層の欲求と解離があるのかなと思いました。
モミー:で、突然すごい長文で「初めまして、大学一年生の三宅です」みたいなDMをもらって。まず内容がすごくまっとうで、同意できる部分が多かった。それで、大学一年生でこんな内容をわかりやすくDMで送ってくる人は一体どんな人なのかなと興味が湧いたので、一度実際にお会いしたんですよね。
三宅くん:はい。
モミー:その後、「こんなDMもらいました」みたいなことをツイートしたら、めちゃめちゃバズりました。
三宅くん:今までは漫画に限らずいろんなことを自分で頭の中で考えたことはあっても、人に話したり自分から発信することはほとんどありませんでした。自分の感じていることに多くの人が関心があるとは全く思っていなかったので、びっくりしました。
モミー:リプライが盛り上がっていたんですが「若年層は選択するのがストレス」ということに対して意見がいろいろ上がっていましたね。
三宅くん:そうですね。僕自身は賛否両論が起こるような問題だと思っていなかったので、人によって感性は全然違うんだなと驚きました。
どうして漫画編集者へDMを
モミー:そもそも突然DMを送った理由やきっかけは何だったんですか?
三宅くん:僕自身すごく漫画が好きで、漫画アプリをいつも触っていたんです。その中で自分が漫画アプリに対して持っている課題感があったので、じゃあその自分の課題感を解決するような漫画アプリを新たに作れば需要があるんじゃないかと。でも実際に漫画アプリを作っている人、最前線に携わっている人はどんな考え方をしているんだろう。そして僕の持っている課題感に対してどう思うんだろう、ということがすごく気になったのでDMさせていただきました。
モミー:ちなみに今回のDMって色んな人に送ったんですか?
三宅くん:漫画アプリに関わっていそうな方に5人ほど送りました。そのうち何人かにオンラインで会ったんですけど、直接会えたのはモミーさんだけでした。
編集者の意見を聞いた三宅くんは…
モミー:そうだったんですね。
三宅くん:はい。
モミー:で、実際に初めて会ったときに僕からはこんな話をしたんですよね。同意できるところも多いけど、まず「コマが流れてくる」という部分に関して。漫画は一コマの力ってすごく大きいので、実際にコマを押し出したバナー広告もたくさんあります。でも、その漫画の面白さを読者にわかってもらうための最適解として、じゃあアプリ内で一コマを見せればそれでオッケーかというと、それは疑問だなと思いました。
たとえばTikTokみたいな動画であれば、最初の数秒で「面白そうだな」と判断ができる。でも今の漫画の面白さがそれで伝わるかというと、むしろわからないことも多い。いつか漫画表現がスマホに最適化して、最初の数コマで面白さが伝わるような漫画が増えればまた別ですが、これまでの漫画はそうなっていないと思いました。
三宅くん:はい。
モミー:そしてもうひとつがレコメンド。すごく大事だと思っているんですけど、漫画アプリの目指す方向性によるかなと感じました。『ジャンプ+』の場合、読者に楽しんでもらえると自信をもっている新作を厳選して連載しています。『週刊少年ジャンプ』も同様です。同じコンテンツが日本中で同時に読まれるからこそのメディアの価値もあると思います。ジャンルは変わりますがおそらく人が介在して編集している『Yahoo!トピックス』も同じだと思います。
一方でこれが電子書店だったら漫画の数も読者の需要も多種多様なので、ユーザーそれぞれにパーソナライズされてレコメンドしてくれる仕組みと相性がいいと思います。
なので、『ジャンプ+』は、レコメンドやパーソナライズも大事だけど、そっちに完全に振り切ることはせずにバランスを取ったほうが方がいいのかな、と個人的に思ったりしています。
三宅くん:はい。
モミー:そんなことを最初会った時に話しました。三宅くんはどう感じましたか?
三宅くん:僕の出した、次々とコマを見せていくという解決案は間違いなのかなと感じました。その理由のひとつはモミーさんが言ったようにコマだけだと漫画の良さが伝わらないということと、もうひとつはコマ投稿をレコメンドで見せることで若者が感じている課題を解決しようとしていることがすごい表面的な考えだなというふうに思って。コマっていう一種の見せ方だけで解決しようとしていることが問題で、見せ方ももちろん大事ですけど、漫画っていう中身自体も解決することが大事なので、自分の考えていた解決策はすごい表面的だったなと感じました。
モミー:表面的と感じたんですね。
三宅くん:漫画の表現を変えるということでは縦読みのウェブトゥーンなどがあると思うんです。そこで思ったのは、漫画がスマホに最適化された形になったとして、じゃあ果たして人が今まで以上に漫画に深く関わるようになるのか、大きな存在として深く関わることが可能なのかなっていうふうに疑問視していて。漫画がスマホに最適化したところで、そのあらゆる面白いコンテンツの中のひとつに埋もれるんじゃないかって。
モミー:ゲーム、動画、ニュースなどあらゆるアプリがある中の一個だから、漫画の表現を変えるだけでは、存在感が出せないと。
漫画の存在感を伸ばす秘策は紙への回帰?
三宅くん:はい。存在感を大きくしていくためには、どうしたらいいんだろうと考えたとき、漫画と人々との関わり方を変える必要があるかなと思いました。たとえばTwitterやYouTubeやTikTokなど若者に大きく影響を与えるコンテンツっていうのは、視聴者側にもなるし、作り手側にもなるんですよね。つまり、ユーザーとサービスの関係性がすごく深い。一方漫画は、漫画を描くってすごい難しいことだし、ハードルが高いので、なかなか作り手側にまわることがないなと。なので、もしも漫画を作るハードルが下がって、もっと読み手側と作り手側が流動するようになって、作り手側の割合が大きくなっていくと漫画と人々との関係性が変わり、より深く関わるようになるんじゃないかなというのが、漫画がスマホ上で影響力を出し続ける方法と思いました。
モミー:たとえば、誰しもがYouTube動画をあげて誰でもYouTuberになれる、そんな風に漫画もなった方がよいということ?
三宅くん:そうです。
モミー:それってどうすると解決するんですかね?漫画って描くのはすごく大変だし、ひとつ作品を完成させるのも難しい。たとえばTwitterによく上がっているような日常だったり自分の体験をシンプルな四コマ漫画で描くようなものだと少しハードルが低いんですが、そういうイメージですか?誰でも漫画を描けるようになるためのアイディアや方法は、どんなイメージですか?
三宅くん:ひとつ簡単に思いつくのは、話を作るのがものすごくうまい人と絵を描くのがものすごくうまい人をマッチングさせれば、ハードルを下げる方法にはなるのかなと思います。ただ、やっぱりハードルを下げてしまうと今までみたいな高クオリティの漫画を作ることはかなり難しいだろうな、というかできないんだろうなと感じます。内容も日常的なものなど薄いものになってしまい、長さも四コマなどの短いものになってしまうと今までと同じクオリティを出せるのかと疑問です。そう考えると漫画をデジタル化させること自体がそもそも正しい方法ではないのかもしれないと、いまは感じてきています。
モミー:なるほど。
三宅くん:いまは、漫画をそもそもデジタル化してスマホで読んでもらうことにこだわることはないんじゃないかなって思っています。
モミー:それは、一周回ってむしろ紙がいいんじゃないかということですか?
三宅くん:はい。もっと紙の良さがあるんじゃないかと考えています。
(後編に続く)後編こちらから読めます