【意味が分かると笑える話】修学旅行(前日)

梅雨に差し掛かるかどうかの今日この頃、淳はの気持ちは今日の天気と同じ暗転模様であった。いや、淳に限らず海南高校の1年の大半が同じ気持ちだっただろう。今日は待ちに待った修学日より、しかし天気は曇り空、この時期の朝なのに外は暗く、今にも大雨が降りそうなのである。なんなら少し小雨が降っている。晴れていれば、京都の街並みの堪能したり、綺麗な景色を楽しめたり、異性の着物姿を拝めたりできたものを雨が降ってしまうとその楽しみも半減されてしまう。特に着物を着ての映画村での撮影体験は雨が降ったら中止と言われていたこともあり、それを楽しみにしていた生徒たちは程度の差ことそあれ落胆している。
ただ、淳の気分がすぐれないのは少し異なる理由である。話は3日前に遡る。淳たちが所属する文化研究会に1件の相談がきたのだ。

茜「おねがいします!何とか協力してくれませんか?」
陽奈「うーん、確かに私は知ってるけど...」
茜「私、こんな気持ちになったの初めてなんです。毎日学校行くのもすごい楽しみになったし、寝る前とかもやっぱり考えちゃうし。でもやっぱりこの気持ちを伝えたいなって思うんです。修学旅行のチャンスを逃したくない!」

依頼人の福井 茜(ふくい あかね)さんの勢いに陽奈は圧倒されていた。
今部室に来た淳には、今どういう状況なのかが分かっていない。淳は依頼人に配慮して、陽奈の耳元に小声で話しかける。

淳「なんの相談?」

陽奈は「ひゃっ!」といつもより高い声を上げて、耳を赤く染めた。

陽奈「な、、、、何するの!」
淳「いや、一体なんの相談がきているのか聞いただけだけど。一応同じ部員同士だし...」

陽奈はため息を混じえてこたえる。そして、目の前の依頼人と目を合わせた。依頼人は、少し照れながらもうなずくことで回答した。

陽奈「はぁー、だったら普通に聞いてよ。もお、びっくりしたな。えーっと、どこから話そうか?彼女、1年B組の福井 茜さん。彼女が同じクラスの南野 和成君のことが、その、好きなんだって。だから修学旅行で告白したいっていう相談なんだ」

陽奈がそういうと依頼人の茜さんは少し顔を赤らめた。

陽奈「で、その告白に協力して欲しいってこと」
淳「ふーん、でもどうして結城さん?」

淳は素直に疑問を尋ねるた。まさかそれが、いや、もっと前に陽奈に話かけたあたりから淳にとって既に悲劇が始まっていたことなど知る由もなく...。淳の質問に陽奈も同じように依頼人に聞き返した。

陽奈「でもどうして私に?あんまり恋愛とか分からないし、相談するにしても、もっといい人いそうだけど?例えば美月とか。同じ委員会だから彼の好みとか知ってるんじゃない?」

それに対して茜さんのは首を振りながら、

茜「いやいや、無理ですって!だって、北川さんって一番のライバルですよ?南野君って、女子からすごい人気なんですよ。サッカー部の期待の新人でイケメン、勉強もできるし修学旅行委員としてみんなを引っ張っていける人徳もある。そりゃー、B組女子からは大人気な訳ですよ。そうなると、同じ委員会でしかもサッカー部のマネージャーである一花さんは最大のライバルなわけで!そんな相手に相談なんてできないし、もっというとB組の人に相談なんてできないです!」
陽奈「ああ、何となく分かったわ。だから同じ委員会の私に相談しにきたのね...」

陽奈は困った時の癖である、右のこめかみを指でグリグリする動作を見せる。淳は、美月さんという名前を聞いて修学旅行費盗難事件のことを思い出していた。確かあの時に結城さんと一番やりあっていた生徒だったと思うが、結城さんとはその後仲直りをしたとのこと。結城さんが名前でよんでいることからも関係は良好なのだろうと淳は勝手に解釈をした。

淳「ふーん、まあ、引き受けたらいいんじゃない?結城さん、そういうの得意なんじゃない?」

この発言を淳は後々後悔することになる。いや、ヒントは隠されていた。基本的にポジティブで人のためなら何でもやろうとする彼女がこの相談を渋っていることについて、もっと深く考えていれば気がつけたかもしれないが、この時の淳は自分に恋愛相談なんてされるはずがないだろうと高を括っていたのである。

陽奈「はあ!あなた、状況を知って、」
茜「本当ですか!引き受けてくださるんですか!?」

茜の子供のような純心な瞳で見られて陽奈は断ることができずついに引き受けることを承諾してしまった。

陽奈「まったく、余計なことをしてくれたわね...」
淳「別にたいしたことないだろう?文化研究会は学生の悩み相談も引き受けているわけだから活動実績にもなる。特にこういう人と人の縁を繋げるみたいなことは結城さんの得意分野だろ?別に告白を成功させる必要はないわけだし、シチュエーション作りくらい協力してあげなよ。僕たちもできるかぎり協力するからさ」

後述するが、最後の一言が完全に地雷だった。後に淳はこの発言を後悔することになるとは思ってもいなかった。

陽奈「あのね、恋愛となると話は変わってくるの。特に南野君は女子からモテるわけだから、一人に協力してもし失敗となったら今度は他の女子からも相談が来るわよ。例え成功したとしても、別れた後に相談がくるだろうし、周りからも「余計なことをして」って白い目で見られるんだから...。」
淳「あー、なるほど。最初はみんなが牽制しあうことでバランスがとれてたものが、僕たちが介入することでそのバランスが崩れちゃうってことか。それは、まあ余計なことをしたかもな。ただ、後続は断ってもいいんじゃないか?そもそも誰かが告白失敗したから次は自分っていう魂胆は気に入らないしな。まあ、先駆者の特権や運がよかったということで説明していけばいいだろう」

そういうと、陽奈は「君は何も分かってないよ、女子同士の恋愛っていうのは男子と違ってそんな単純なものじゃないんだ」というのを目で訴える。そして、ため息混じりに口を開く。

陽奈「はあ、女子同士の恋愛っていうのはね?基本的に根回しなんだよ。
自分が誰が好きかを明言しておいて、牽制したり、好きな人の好みとか知るためにあえて好きな人の友達と仲良くなったり、その友達を使って自分への気持ちを確かめてもらったり、時には友達から自分の評価が上がるようなことを言ってもらったり。とにかく情報戦なの。そんな時に同じ委員会に所属しているけど、絶対に自分の意中の人になびかない女子がいたらどうなると思う?」
淳「どうなるの?」
陽奈「その人の協力を仰ごうとするの。だって絶対にライバルになりえないし、その人を通じて自分のことを紹介してもらえるでしょ?友達の友達は友達理論よ」
淳「今回はその役目が結城さんだったってことでしょ?でもそういうの得意じゃん。友達の友達は友達理論。そりゃー、結城さんを味方につけたら100人力だな。僕も西川さんの立場ならこんなチャンスは絶対のがさな...」

ここまで言って淳は自分の考えの甘さに気がついた。もっというと、自分の発言の一文字が発する違和感の正体に気がついた。だが、訂正する前にその過ちを先に陽菜に指摘された。

陽菜「今回”は”じゃなくて今回”も”だよ。今日で4人目だよ。こうなると思ってたから一応他の人は断ったんだけど...。ここで協力しちゃったら他の人にどういう顔をすればいいんだか...」

だから陽菜は困っていたのだ。いくら断るのを慣れているとはいえ、陽菜は基本お人好しである。頼まれれば断れない性格だし、断れば罪悪感をもってしまう。しかも今回淳が余計なことをいってしまい依頼を受けてしまった。
そうなれば、断った人たちに対して陽菜の顔が立たない。これは申し訳ないことをしたな、と思った。一度引き受けた依頼を断るのはしゃくだが、今回は断るしかないなと淳は思ったところにまさか、さらなる追い討ちがくるとは思ってなかった。

淳「まあ、それはごめ...」
陽菜「それに問題はもう一個あるんだよね」

陽菜は淳が断ることを見越してか、あえて淳の発言を遮った。

陽菜「結構前から美月から相談を受けてるんだ。南野くんがC組の西野さんが気になってるってことを。こっちは完全に友達の相談なんだけど、南野くん、西野さんと仲がいい美月に色々相談してたんだって。そして話を聞いているうちに美月もだんだんと二人を応援したくなったらしくて、まあ修学旅行中に上手くきっかけを作ってあげてあわよくば二人をくっつけたいんだってさ」
淳「待て、どうして今そんな話をする?」
陽菜「南野君がこんなにモテるとは思ってなくてね。この話があったから今まで断っていたんだけど、まさか既に4人から想われているとは思わなかったよ」
淳「どうして話を続けるんだ?」
陽菜「いやー、こっちもどうしようか困ってたところだったんだけど、まさか淳君が手伝ってくれるとは思わなかったよ!私もなるべく親友のお願いは叶えたいと思ってたんだよね」

ここで先述で踏でいた地雷が爆発し、音が頭で鳴り響いた。

淳「ちょっと待て!それは僕に関係ないだろ!確かに茜さんの件は僕が悪いと思う。断りの連絡を入れるのも仕方ないだろう。だけど美月さんの話は関係ないじゃないか。どうして僕が手伝う必要になるんだよ!」
陽菜「あらー?文化研究会の活動には生徒の悩み相談も含まれるんじゃなかったっけ?それをやるっていっておいて少し難しいと分かったらすぐ手をひいちゃうの??それって、活動としてどうなのかしら??活動実績としてもマイナスになるんじゃないの?」
淳「くっ!」

陽菜は日頃の恨みとばかりに淳のことを煽り始めた。もちろん淳が断らないとなると陽菜の負担も増えるわけだが、そんなことはどうでもいい。今は相手の弱みを思う存分ほじくることにする。

淳「いや、100歩譲って茜さんの依頼はまだいい。だけど美月さんは関係ないじゃないか?」
陽菜「そりゃー、直接は関係ないよ?でも当事者が同じ人なわけだし、どうやったって弊害はでるでしょ?だったら二つ纏めて解決した方が効率的じゃない?」
淳「それは、、、まあそうかもしれないが...。」
陽菜「それに協力するっていったのはだれだっけ?まさか自分が言ったことについても反故する気はないよね?」

陽菜の最後の言葉に淳は言葉を詰まらせた。

淳「分かった、だが、協力するだけだからな!メインはあくまで結城さんだってことは忘れないように!」
結城「もちろん、それは分かってるよ。じゃあそういうことで、淳君、これからよろしく?」

こうして、淳と陽菜の同盟が結ばれたのであった?ただ淳もこのまま一方的には終われないと思ったか最後の悪あがきに打ってでた。
淳「そういえば、さっきふと思ったんだけど」
陽菜「ん?何かな?恋愛のことなら何でも聞いて」

陽菜は淳から一本とったことにご満悦なようで、とても上機嫌だった。

淳「耳弱いの?」
陽奈「弱くない!今すぐその記憶を消しなさい!」

その一言で上機嫌だった気分は一瞬で吹き飛んだ。

??「あのー?今いいですか?」
陽菜「ああ、ごめんなさい。って一花ちゃん?」
一花「はい、なんか私の名前が聞こえたような気がしてたんですが、気のせいでしょうか?」
陽菜「あー、何か聞こえていた?」
一花「ちゃんとは聞こえてなかったんですけど私の名前がでているなって...。何かありましたか?」

淳に最後いじられて結城さんも落ち着いていなかったのであろう。陽菜はとっさに

陽菜「ああ、そう!修学旅行委員会の人たちの話をしてたんだよ!もうすぐ修学旅行当日でしょ?高校入って初めての委員会だったから絶対成功させたいな、って話をしてたんだ」
一花「あ、そうですね!やっぱりみんなで一生懸命考えたから、思い出に残る修学旅行にしたいですね。でもやっぱりちょっと不安があって...。」

陽菜は少し驚いていた。陽奈目線で一花さんは、どちらかというと楽観的な性格だと思っていたが、案外心配性の部分もあるんだなと、仲間の新たな一面を見て思わず言ってしまった一言をだれが責められようか?

陽菜「大丈夫だよ!みんなでいっぱい考えたんだから!でももし何か不安なことがあったら相談して!一花のためなら何でも引き受けるよ!」
一花「本当ですか?」
陽奈「本当だよ!友達に嘘はつかない!」

この瞬間、淳の全身に悪寒が走った。

一花「あ、えっと、こんなこと結城さんに頼むのも申し訳ないんだけど、実はこの前から気になる人がいて、もしよかったら修学旅行中に仲をとりもってくれないかな?本当は委員会中に距離を詰めたかったんだけど、上手く行かなくて...。」
陽奈「え?同じ委員会の人なの?」

もしここで、一花さんが南野くんと言ってくれていればどんなに助かったことだろう。まさに地獄に下された蜘蛛の糸のように一気に抱えてた問題が解決する。しかし現実はそう都合良くはなかった。

一花「うん、そうなんだけど...。結城さん、青野くん(智春)と部活も同じでしょう?だから青野くんのこと色々知ってるかなと思って、お願い!協力して!」

差し伸べされた糸は天国ではなくどうやらもっと深い地獄に繋がっていた。
その瞬間、淳と陽奈は修学旅行なんて来なければいいのにと本気で思った。敵が大きくなっただけではなく、こういうときに一番頼りになる、ある意味最後の砦だった智春という戦力を削ぎ落とされてしまったことに絶望をした。この日の活動はお互いに身が入らず、気づいたら終わっていたことは言うまでもなかった。




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