【易】意味が分かると怖い話(迷惑な隣人{前編})

淳「ふー、ようやく終わった...」
入学式が終わりようやく下校時間となる。家につく頃にはもう日も沈み始めているだろう。高校の入学式の日は普通なら午前中には終わりそうなものだが、高校の詰め込まれたスケジュールとちょっとしたトラブルのせいで下校時間が延びてしまった。
トラブルと言えば一人暮らしを始めた淳を悩ませている問題がある。
それは隣人トラブルである。淳の部屋のお隣さんは30代前半の兄さんなのだが、プロのギターリストを目指しているとのことで、夜12時頃にアルバイトから帰ってくると大音量でギターの練習をしているのだ。その音で淳はいつも起こされてしまう。そのせいで淳は一人暮らしを始めてから常に寝不足なのである。これまでは我慢することができたが、学校が始まってからもこの調子だと授業にも影響が出てしまうであろう。そう考え一度だけ話をしに行ったことがあるのだが、音が出ないピックを使っているからと、とりあってくれなかったのである。結局その後もギターの音が鳴り止むことはなく、そのせいで今日も淳は寝不足である。

淳「学校が始まってからもこの調子だと流石にきついな。管理会社に連絡
することも考えないと...」

そんなことを考えながら下校していると、アパートの前に警察がきていた。
何かあったのかとパトカーをよそ目にアパートに入ろうとすると、警察に呼び止められた。

警察官「突然すいません、警察です。もしかしてこちらのアパートに住んでいる方ですか?」
淳「はい、そうですが...。警察の方がどうかしたんですか?」

淳は提示された警察手帳を見て、今日はトラブルが続くなと思いながら答えた。

警察官「実はこのアパートに住んでいる方が一週間前から行方不明でして、ご家族の方から捜索依頼がきているんですよ。そこで、こちらのアパートに住んでいる住人に話を伺っています。」
淳「こっちの警察の方って人探しもするんですか?大人が一週間くらい連絡が取れないくらいなら事件性はないと思うんですけど。保村巡査部長でしたっけ?」

少し皮肉混じりに淳は答えた。

保村「あの一瞬で名前が読めたんですか?」

保村巡査部長は少し驚いた様子で淳を見返した。

淳「まあ、昔から目はいい方なんですよね〜。それで、行方不明の方ってどなたですか?」
保村「あっ、はい、この方です。」

話の展開が急すぎたからか、保村巡査長は少し戸惑いながらも淳に行方不明者の写真を見せた。実際のところ淳にとっては警察の職務範囲などは1ミリも興味はなく、知ってる情報を提供して直ぐに部屋で寝転がりたいという気持ちの方が強かった。だが写真を見て流石に少し驚いた。そこには、寝不足の原因となっている隣の部屋のお兄さんが写っていたからだ。

淳「この人、僕の部屋の隣に住んでいる方ですね。」
保村「お隣の部屋の方でしたか。それで最近いつ見かけましたか?」
淳「うーん、確か10日前かな? 一度話しましたよ。この方夜中に大音量で
ギターを弾くんで苦情を言いに行ったことがあるんです。でもこの人昨日も
ギターを弾いてましたよ。隣の部屋から音が聞こえてきたんで。」
保村「え?部屋に人がいる気配があったんですか?」
淳「まあ直接見たわけではないですけど...。いつも夜の12時くらいにギターの音が聞こえてきますよ。おかげで僕は寝不足ですよ。もし今日も音が聞こえたら保村さんに連絡いたしますよ」
保村「ご協力ありがとうございます。では情報提供がありましたらこちらの番号で私を呼んでいただければと思います。本日はこの近辺にいると思いますので、連絡いただければ直ぐに駆けつけられると思います」
淳「了解いたしました」

そうして、淳は保村と別れた。聞き込みが終わり、淳はこの失踪事件に対して警察の入れ込み具合が気になっていた。ただの行方不明にここまで警察が必死になるとは思えなかったからだ。淳は過去にある事件で警察に相談したことがあったが、まだ被害が出ていないという理由で動いてもらえなかったことがあり、大人が一週間連絡が取れないだけで張り込みまでする理由が思い浮かばなかった。

淳「まあ、騒音さえなくなれば何でもいいか。」

そうして淳はベッドにダイブし、そのまま深い眠りについた。

「ジャカジャカジャーン!」

突然の騒音に淳は飛び起きた。
最初は一体何が起きたのか分からなかったが、徐々に目が冴え何が起きているのかを理解し時計をみた。
淳「もう12時か...。大分寝ちゃったな。というか結局今日もいるのかよ」
淳は保村の話を思い出し、もらった電話番号に連絡をする。
保村「はい。保村です。」
淳「あ、保村さん。淳です。今大丈夫ですか?」
保村「あ、淳さんですか。はい大丈夫です。もしかして帰ってこられたんですか?」
淳「そうみたいですよ。今ギターの音で起こされたところなんで」
保村「それは、大変でしたね...。分かりました。今からそちらに行きます。
5分ほどお待ちください!」
淳「よろしくお願いいたします。」
そして通話が途切れた。
淳「しかし、大分眠たな。晩ご飯も食べそびれたし、今日はこの目覚まし
に感謝だな」
そもそも寝不足の原因はこのギターなのだが淳にとってはその辺の記憶が
曖昧なくらいにまだ目が覚めていない。
そんな独り言を言っていると、玄関のチャイムがなった。
保村「淳さんですか?保村です。」
淳「早かったですね。今開けますよ」
淳は部屋の鍵を開けて淳を向かい入れた。
保村「本当にすごい音ですね...。廊下まで聞こえてきましたよ」
淳「ええ。これが毎日なので、隣で住むのも大変ですよ」
保村「他の住人からも苦情が来ないんですかね?」
淳「まあ、ここに住んでいる人も少ないですから。クレーム言う人も少ないいんじゃないですか?」
保村「そういうものなんですかね?」

このアパートは2階建てなのだが、住んでいる住人は、淳と隣のギターの人、そして向かいに若めの女性が、そしてその隣に同じ高校の同級生の4人しか住んでいない。1階は管理人さんや、その親戚の方が時々住んでいるみたいだが面識はない。廊下を挟めばそんなに音も気にならないのかもしれない。

淳「まあ、一旦チャイム鳴らしてみませんか?」

そして淳と保村は二人で隣の部屋に向かう。

淳「すいません、隣に住んでいる者です。ちょっとギターの音が大きいのでボリュームを下げてくれませんか?」
隣人「…」
淳「すいませーん!」
隣人「…」

どうやら淳の声は完全に無視されているみたいだった。

保村「すいません!警察です。少しお話しを伺いたいのですが開けてもらってもよろしいでしょうか!」
隣人「…」
保村が声をかけても反応がない。
保村「うーん、全然でてくれないですね。」
淳「そうですね。ん??」
淳がなにげなくドアノブに手を伸ばすと鍵が空いた。
淳「これ、中に入れませんか?」
保村「待って!居住者の許可なく部屋に入るのは不法侵入ですよ」
淳「でもここで待ってても埒が明きませんよ?」
保村「まあ、そうなんですが。ちょっと待ってください。」

そういうと保村はどこかに電話を始めた。そして通話が終わると

保村「代わりに僕が入ります。淳さんは扉の前で待っててください。」
淳「え、警察でも不法侵入には変わないんじゃないですか?」

淳は意味が分からなかったが、保村は淳に構わず部屋の中へ入っていった。
そして、数秒後に保村は慌てた様子で部屋から出てきた。

淳「慌ててどうしたんですか?」
保村「淳さんは自分の部屋に戻って下さい!ここからは私達の仕事です」
淳「は?いきなり出てきて意味が分からないんですが...。」

そういうと淳は開きっぱなしの扉から部屋の中身を覗いてしまった。
この時は軽い気持ちだったのが、直後に淳はその行動に後悔する。
一瞬だったが目が良い淳には、隣人がギターを持って窓に寄りかかっている光景、その隣人の首元が割かれている光景、そして床が血で真っ黒になっている光景が目に焼き付いてしまった。

淳「!?」

保村はしまった、という顔をした。ただもう誤魔化すことは不可能と思い

保村「今から警察に連絡して現場検証をします。淳さんはもう部屋に戻ってください。そしてこのことは誰にも口外しないことを約束できませんか?」
淳「分かりました。ただ、この件って僕にも事情聴取がありますよね?」
保村「そうですね。その時はご協力をお願いします。ただ今日はもう部屋にお戻りください」
淳「分かりました...。」

そうして淳は自分の部屋に戻った。いつの間にか、ギターの音も消えている。実は淳には映像記憶能力がある。一度見たものを映像として一生記憶に残しておくことができるのだ。

淳「あの死体は明らかに死後時間が経過している。死体はかなり腐敗していたし、血痕も黒く床にこびり付いていた。僕たちが突入する前には亡くなっているはずだ。だったら今まで聞こえていたギターの音は?というか凶器は?あの場にはそれらしきものは落ちてなかったようにに思えるが...。」

関係こそ良くなかったが知っている人が亡くなったという現実に結局一睡もできず、食べそびれた夕食ももう喉は通らなかった。

次の日に現場検証と死体の回収までは行われたみたいだ。
淳は普通に高校に登校し、学校の授業を終わらせて家に帰ってきた。
昨日の疲れが残ってたのか、この日もすぐにベッドにダイブしてそのまま眠りについた。この日はこの部屋に入居して初めてギターの音がなかっため、次の日の朝までぐっすりと眠ることができた。

【回答】
死体の状況は明らかに即死ではなかったとすると、死体発見時には誰がギターを弾いていたのだろうか?
また、死体がなくなった日の夜はギターの音が聞こえなくなったとのことである。
死体がギターを持っていた点も踏まえると以下のことが想像される。

ギターを弾いていたのは隣人の死体であった。ギターを弾いた理由は、生きていた頃の習慣からか、殺した人への恨みか、もしくは自分が死んでいることを誰かに伝えるためか、理由は色々想像できるがこの世に未練が残っていた死体が自己主張をしたのだろう。
死体が回収されてからは弾く人がいなくなったので、騒音がなくなったのである。


【作者から】
長い文章になりましたが、今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回の話ですが、ホラーでは定番の「ポルターガイスト現象」と「不審な警察」という2つテーマに物語を作ってみました。
その結果として、読み手の皆様にはまだ腑に落ちない点もあるのではないでしょうか?
例えば、「なぜ被害者は殺されたのか?」「小さな事件に警察はなぜ張り込みまでして動いていたのか」などが気になるポイントだと思います。
今回の話の制作にあたり、考えていたことは意味が分かると怖い話を前編と後編に分けることはできないか?でした。前後編を書きたくなった理由としては、この「意味が分かるとシリーズ」を書くにあたって【回答】の項目を登場人物が答えていない、作者で提示していることに違和感を覚えたためです。このままでは、主人公は問題解決のための行動を何もしていない人になってしまうなと思い、今回は「違和感の正体にしっかり気づいている主人公」と「身に起こった問題に対して行動する主人公」という二つの側面をこの「意味が分かるとシリーズ」の構成を崩さずに描くことを目標として本作品を執筆しております。
そして題目の都合上に問題と回答を1セットにするのが普通で1話完結になりやすい構成の中でどうやったら前後編で話を作れるかを考えた結果、一つのシナリオに二つに問いを入れるというのが私の出した結論でした。

そのため、今回のシナリオについては、別途後編を制作する予定です。
本作品は物語の時系列毎に投稿しているため、1話空けての制作になる予定ですが、是非それまでの間に「被害者が殺された理由」や「不審な警察の動き」などを読者の皆様も妄想して楽しんで頂ければと思います。






 

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