意味が分かるとシリーズ(閑話)_部活勧誘
陽奈「ここが、文化研究会かー」
私は資料室の一画にある椅子に座り、文化研究会の活動記録を眺めていた。
先日文化祭実行委員で盗難事件が発生したのだが、その事件の解決と引き換えに私は文化研究会に入部することになったのだ。
ほとんど活動していない部活に名前だけ貸すだけというのも気が引けるが、それで恩を返せるなら安いものと自分を納得さた。
例の盗難事件だが、その後翼さんが犯人と分かり私と美月さんに平謝りすることとなった。美月さんは委員を解任した方がいいと言っていたが、私と智春君で美月さんを説得し、翼さんはなんとか委員会に残ることができた。まあ、美月さんはどうして私が翼さんを庇うのか全く意味がわからなかったみたいだが...。翼さんは私のことを嫌っているみたいだが、できれば翼さんともこれから仲良くなっていきたい。そのためにはここで縁を切ってしまうのは勿体ないと思い、翼さんを引き止めたのだった。そんなことをしているから周りからはお人好しとか言われるのだろう。
陽奈「ふーん、思ったよりちゃんとした理念があるみたいね」
中学時代には文化研究会などなく、高校でも幽霊部員でいいから部の存続のために入ってくれと言われており、どんな部活なのか少し心配だったが活動記録を読むと思ったよりはまともな部活ということが分かり一先ずホッとした。むしろ地域の人と関わりを深くするという理念は今後生徒会選挙への参戦を考えるとプラスに働くことかもしれない。
灰崎「そんなものに興味があるなんて、今年の新入生は物好きが多いみたいだな」
陽奈「あ、勝手にすいません!」
灰崎「いやいや、気にしなくていいよ。うちの部に興味があるのかい?」
陽奈「興味があるというか、入部しようと思っていて...。丁度活動記録があったので見せていただきました。」
突然の後ろからの声に、私は驚きながら振り返った。そこには長身で眼鏡姿のとても眠そうにしている男性がいた。眠そうに見えるのは目の下の深いクマが原因だろう。すこし威圧感のある男性の登場に私は動揺を隠して普段どおりに振る舞う。というかぶっちゃけかなり怖い。
灰崎「ふーん。まだ何も調べてもないのに入部は決めているの?」
・・・なんだ、この人は。喧嘩を売っているのか?
陽奈「まあ、きっかけは友達の頼みですし。それに恩もあるので...。」
灰崎「あー。淳君からの紹介か。部員を集めるとはいっていたが、
まさか結城 陽奈を連れてくるとはな」
陽奈「私のことをご存知なんですか?」
灰崎「中等部での君の活躍は有名だったからな。高等部の方にも噂は流れていたよ。てっきり君は生徒会に入ると思っていたよ。君なら一年生からでも十分狙えるんじゃないか?」
陽奈「生徒会も目指してますよ。でもその前にどこかの部で実績作っといた方がいいと思ったので」
灰崎「それならこんな部活ではなくもっと実績作りやすい部活に入った方がいいんじゃないか?幸いうちは勉強だけではなく運動系も強い部活が多いだろ。どこかの部のマネージャでもやってチームが好成績を収める、学業ではA組を維持しておく、それだけで文武両道な生徒として十分な資質をアピールできるだろ。君は既に名前は売れているんだからな」
この人の言うことはもっともである。その方法は考えたし、実際に中学時代は弓道で県大会を優勝している。そのまま続けていればそれなりの成果は出せると思っているし、高校でも続けるつもりである。
陽奈「まあ、せっかくの高校生なんですし、中学時代はやらなかったことにも挑戦したいんです。成り行きといってもせっかくお誘い頂いた部活です。むしろ多くのことを経験できるチャンスと思って頑張っていきたいと思っています」
これは本心だ。多くのことに手を出せばそれだけ一つに関われる時間もなくなるし、全て失敗するリスクも高まるだろう。ただ学生の失敗なんてなんだかんだどうにかなるだろう。後に笑い話にでもなれば儲け物だ。それよりも行動したことによる経験の方が後の成長に繋がるし、そこで出会った人達との縁はかけがえのない財産だ。そして何よりも色んなことに挑戦する方が充実感があって面白い、そう考えるとリスクとリターンを量ってもチャンスがあるなら飛び込む方がいい、それが私の考えである。
灰崎「殊勝な心がけだな。君が周りから一目置かれるのも納得したよ。先ほどの言葉は取り下げよう。失礼した」
陽奈「いえ、お気になさらないでください。先輩としても部員のモチベーションは気になるところだと思いますし」
灰崎「お気遣いありがとう。そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前は灰崎 誠だ。一応ここでは部長をしている。よろしくな」
陽奈「あ、私の名前は結城 陽奈です。これからよろしくお願いします。」
とりあえずお互い自己紹介をした後に活動内容の説明をしてもらった。概ね資料と同じで地元の人に話を聞いて文化祭で地域史として発表するというものだった。もっともここ数年は出店してないみたいだが。
陽奈「そういえば、淳君遅いですね。」
灰崎「なんかやることあるから遅れると言ってたな。それで俺が呼び出されたんだ。そうじゃなきゃわざわざ部室に来なかったよ」
陽奈「部長さんですよね...?」
灰崎「ここは主体性と自由をモットーにしているからな。」
ものはいいようだ。少し呆れながら、灰崎さんと話していると
淳「すいません。遅くなりました。」
灰崎「おー。やっと来たか。」
陽奈「淳君遅いよー」
淳「ごめん、説得に少し時間がかかってな」
淳君の方に目を向けると隣にもう一人見知った顔がいた。
陽奈「智春君?どうしたの?」
智春「お、結城さんじゃないか。」
顔馴染みの登場に少し困惑していると
淳「これで、部員が全員揃いました。」
陽奈「えっ?もしかして智春君もう入部するの?」
智春「淳君に説得されてな。俺もこの部に入部することにしたよ」
陽奈「でもどうして?」
智春「淳君は同じ編入組みとして初日から仲良くしているからな。それに友人とほぼゼロから部活を立ち上げるというのも面白いだろう!」
まさかのメンバー追加だ。部員は淳君と3年の部長しかいないと聞いていたからまだ部として認められるのはハードルがあると思っていたが、これなら一先ず3年間は活動できるだろう。
淳「とりあえずこれで規定の3人は揃ったから、僕が卒業するまでは部員の問題ないですね」
灰崎「全く、本当に集めるとはな...。それも有名どころ3名とは恐れ入ったよ。これがA組クオリティかな?」
灰崎さんが感心しているのをよそに淳君はさも当然だという顔をしている。
そういうのがかっこいいと思っているのだろうか?
陽奈「ところで、今年は何をやる予定なんですか?」
淳「あぁそうだな、全員揃ったし部活の話でもしようか」
陽奈「部活の話でもって...。一応部活の時間なんだけど...」
淳「あんまり細かいことは気にするな。心配性は肌に悪いぞー」
陽奈「余計なお世話よ!」
私のツッこみにその場の全員が笑う。失礼な人達だ。しかし、普段から笑顔の多い智春君はともかく、灰崎さんや淳君も笑うことがあるのか。特に淳君はクラスは一緒だが笑ったところを見たことがない。こう、もう少し笑顔も増えればいい線いくとおもうんだけどな〜。
淳「まぁ冗談はここまでにして、本題にはいるか。といっても方針は既に決まっている」
智春「おー!そうなのか!では何をする予定なんだ?」
淳「ここ、海原地区では商業が発展しているんだが、その理由って何かわかるか?」
陽奈「うーん、農業や漁業が発展していることと地域住民同士の横の繋がりが強いってことかな?」
淳「正解!さすが、元生徒会」
智春「ん?どうしてそうなるんだ?」
淳「一言でいうと公助の意識が強いんだ。普通豊かな生活をしようとするとそれなりに金がかかるだろ?でもこの地域は生活で必要なものを周りの人が安値、というか場合によってはタダ同然でくれるんだ。」
智春「それはすごいな。だが余計わからなくなったぞ?公助が発展してるならお金が回らないから、商業は発展しないんじゃないか?」
淳「まあそうだよな。だがその文化が根付いているおかげで、最低限の生活が保証されるからそれぞれのお店も発展のための投資にお金を回せるんだよ。だから仕事が効率的に回るんだ。漁業なんてすごいぞ。センサー技術とAIの力で今どこに魚の集団がいるのかかなりの精度で分かるみたいだし、養殖だってほとんど自動化されてて人間がやることなんて時々機械がこわれていなかをチェックするくらいらしいしな。余った時間は更なる生産性の向上のための研究に充てているらしいが17時以降は仕事することはないらしい。その辺の詳細についてははそこの資料に全部書いてあるから後で読むといいよ」
智春「なるほど、公助がしっかりしているからこそ、そこで働く人たちは思い切った戦略にでることができる。その結果生産性を上げることができ、外に出荷ができる。だから商業が発展しているということか。つまり商業が発展しているというのは、海原地区の外に対してということなんだな?」
淳「ああ、説明が省けて助かるよ」
智春「しかし、淳君も結城さんもよく調べていてすごいな。俺は全然知らなかったぞ。」
智春君は淳君と私に対してキラキラした目をむけてきたため、少し照れてしまった。いや、私はそんなことは知らなかったけどね!?ただ、周りの人が仲良いから市場に活気があるとかその程度のことを思っただけで、そんな社会の仕組みまで考えてないって!むしろそこまで分析が進んでいる淳君や直ぐに話を合わせられる智春君の方がすごいと思うよ...。私は話を理解するだけで一杯だった。さすが、編入組はレベルが違うな。
そう思いながら私は精一杯の作り笑いで見栄を張ることにした。なんか、舐められたら負けの気がするから...
陽奈「じゃあ、私達のテーマはどうやって公助が成り立ったかってことを調べるの?」
淳「いや。その辺のことは過去の先輩方が調べているからわざわざ僕達がやる必要もないだろう」
智春「うむ、そうなのか?では何を知らべるんだ?」
淳「海原地区の裏側だよ。」
智春・陽奈「裏側??」
二人で目をキョトンとさせて淳君を見た。ここまでいい話をしていたよね?
淳「地域コミュニティが強い社会ってのはいろんな噂話が伝わりやすいんだ?ほとんどは尾びれや背びれがついてて当てにならないんだが、中には考察しのある噂話しがあったりするんだよ」
陽奈「例えば?」
淳「分かりやすいものだと口裂け女とかだな。色々な考察があるが、その中の一つに子供が夜遅くまで外で遊ばないように戒めるための作り話っていう説があるだろ?そういう、噂話の背景を調査して報告するんだ」
なるほど、まあ噂話とか好きな人も多いしある程度興味を引く分野だろう。女子同士でも噂話はやっぱりよく話題になる。まあ好きなアイドルの熱愛だとか、誰が誰を好きだとかそういう話だけど。それに文化祭という名目にも全く外れているわけではない。私の出し物でなければ、方針として有りだと思うけど...
智春「だがそれを文化祭でやる、というのはどうなんだ?噂の理由が秩序を守るためのものなのであるなら、それを暴くことは秩序を乱すことにならないか?」
私が言いたいことを智春君が代弁してくれた。そうだ、口裂け女の件にしてみれば危機感の薄れた子供達が夜外にでるようになって結果予期せぬ犯罪に巻き込まれることもあるんじゃないか?それは結果として世の中を危険に晒しているのではないか?
淳「まぁそういう意見もあると思ったよ。だから発表のパターンはいくつか分けようと思う。例えば時代的にもう古く意味のない噂は笑い話と先人達の知恵の歴史として公表する、意味はあるけど時代に合わなくなったものは僕達で現在また新しい噂話を作る、そしてまだ効果のある噂話はそのまま発表する、みたいな感じでやればいいと思う。まあ、この辺りの基準は周囲の意見を聞きながら最終的には僕たちの価値観で決めていくことになると思うけど、そこは学生の活動として大目に見てもらえるだろう」
陽奈「なるほど、確かにそれなら社会秩序と競合はしないだろうけど...。
二つ目の案ってどういう意味?あんまり理解できなかったんだけど」
淳「ああ、例えば口裂け女の例で言えば、もともとは夜中に出歩かないことを忠告していたが、最近の犯罪発生率は夜よりむしろ昼の方が多くなってきている。それに口裂け女が苦手なべっこう飴なんてもうほとんど手に入らないだろう。だから噂話を少し改変して口裂け女は昼に出るもの、対策としてべっこう飴ではなく普通に周りの大人に声をかけるとか2人以上で行動すれば寄り付かないとか、そんな感じにするんだ。
そうすれば昼の行動にも注意がいくし、地域コミュニティ活性化にも少しは役に立つだろう。そんな感じに現代版にアレンジした噂話を僕たちで作るんだ」
陽奈「なるほど...。思ったよりちゃんと考えていてびっくりした。もっと適当なものを想像していたよ」
淳「失礼なやつだな」
あ、つい本音が出てしまった。
智春「俺は淳君の案に賛成だな。海原地区はなぜか奇妙な話も多いからな。それを俺たちで調べていくと言うのも面白そうじゃないか」
淳「ああ、そうだろ?自分の将来が見える鏡とか、死者に会える場所とか、時空が歪む家とか、色々あるからネタには困らないだろう」
淳君と智春君はのりのりだ。男の子ってこういう話が好きなのだろうか?女子の私にはよく分からないが、せっかく考えてくれたのに理由も対案もないのに断るのもおかしいだろう。
陽奈「分かったわ。じゃあ次回までにそれぞれ興味のある噂話をもってくるでいい?」
淳・智春「ああ、そうだな!」
息ぴったりじゃん...
灰崎「すごいな。これがAクラスか。こんなに話が直ぐに纏まるとは思わなかったよ」
陽奈「まあ、淳君がしっかりとテーマを考えてくれたからですね」
淳「二人が理解してくれたからだよ。本当に助かる。ありがとう」
智春「いいさ、それにこんな面白いことに巻き込んでくれて嬉しいぞ。俺たちいいチームになれるんじゃないか?」
陽奈「そうかもね。じゃあこれからよろしくね」
淳・智春「よろしく!」
なんか、こういうのこそばゆいw。ちょっと青春しちゃっててにやけてしまう。何にしたってやるからにはいいものに仕上げたいな!
そんなことを思いながら次回集まる日ややることを整理して本日は解散となった。振り返ってみると思ったよりもいい一日だった。今まであまり話してなかった淳君とも話せたし、恩も返せた。智春君も普段とは違いテンションが高かったように見えたが、それは相手が淳君だからこそ引き出せるのだろう。もしかしたら二人は似た者同士なのかもしれない。そんなクラスメート、ううん、今日から友達の普段見せない顔が見れてちょっと楽しかった。
陽奈「これからどんな一年がまってるんだろ!」
少しウキウキしながら校舎を後にした。
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灰崎「いいのか、二人とも楽しそうに出て行ったぞ?」
淳「楽しそうならいいんじゃないですか?」
灰崎「しかし、自分の目的を隠すためにあの二人利用するなんて君も性格が悪いな」
淳「友達を危ない目に合わせるわけにはいかないですし、僕も活動実績がほしいんですよ。目立つ訳にはいきませんからね」
灰崎「君があの二人を友達だと思っているとは意外だよ。というか入部させる時点で巻き込んでいるようなものだろう」
淳「二人を危ない目に合わせませんよ。あくまでこれは僕がやるべきことです。二人を巻き込むことはしませんよ。灰崎さんは関係者なので別ですが」
灰崎「ふん、まあいいさ。だが忘れるなよ。僕と君はあくまで共闘関係だ。目的が一致しているから協力する、ただそれだけだ。僕は自分の目的のためには君を裏切るし僕も君を全面的に信頼していないからな。」
淳「それでいいですよ。それにその方が都合がいいです。いざという時に簡単に切り捨てられますし、仲間に守ってもらおうなんて危機感ではやっていけないので。自分の身は自分で守る、それが大前提です」
二人はお互い目を合わせる。剣の達人が同士が相手の隙を見逃さないように、少しでも隙をみせた方が相手に斬りかかられる、そんな異様な緊張感が醸し出されていた。そこに先に口火を切ったのは、
淳「まあこんなところでやり合っても仕方ないでしょ。とりあえず今は協力しましょう。お互い持っている情報も違うでしょうし、目的が一緒でも目標は違うんですから。ここで消耗しても意味がないですよ」
灰崎「はっ、その通りだな。じゃあこれからよろしく。じゅんくん?」
そうして二人の部員は部室を後にした。
【作者から】
ここまでの長文を読んでいただきありがとうございました。閑話2話目になります。ストーリ編として書いているこのシリーズですが、主人公達が部活を結成する話になっております。こういう世界観?を先に作っておくと今後物語を作る上での基盤にもなるので閑話以外のシリーズにも応用が効きやすいかなと思って色々設定を練っております。
また個人的にキャラクター達の人間関係とか書いてて普通に面白いのでこのシリーズもどんどん続けていきたいと思っております。
是非読んでいる皆様も今後の展開を楽しみにしていただけると嬉しいです。
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