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海とボンネット



映画を観ていた。恋愛の映画だった。

二人の人間が周りを巻き込んで、くっついたり離れたりを繰り返して、主人公は出ていった恋人を待って、恋人は他の人と肌を重ねながら主人公を思って泣く終わり方だった。

その映画を観ながら私は思った。ああ、まただ、と。

また「好きになる人は選べない」問題に突き当たってしまった。

私も知っている、人間が必ず一緒にいることで幸せになれる相手や、自分のことを好きになってくれる相手を好きになれるわけではないことを。

けれど私は、私のことを好きになってくれる人が好きだ。相手から寄せられる好意に吸い寄せられるようにその人のことが好きになる。

自分の気持ちに自信がないから、受け取った分を返すように相手を好きになる。


映画の中で主人公の恋人が言う。別れを決意し、最後のドライブに海へ行き、言う。

「本当はあなたみたいな人嫌いなんです」

砂浜に乗り入れた古い形の車のボンネットに2人で並んで座りながら言う。

「心底惚れるってその人だけが例外になっちゃうんですよ」

すごいなぁ、と思った。私はそこまで他人を心の中に落とし込んだことがない。

映画には綺麗な画と効果的な音楽さえあればいい。

綺麗な画と効果的な音楽でストーリーなんて押し流して、押し切ってほしい。

そして時々、ふとした言葉で、視線で、表情で、こちらを切りつけてほしい。

「ところであなたは?」と。

「ところであなたは誰?何を見て何を思って、何があなたをあなたたらしめているの?」

と。

切りつけられた傷から、どうして痛いのか、何が痛かったのか考えて落ち込みたい。

思考の海に深くふかく。

映画を観た。その映画には私が映画に求めているものがすべてあった。

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