わたしの秘密基地が、彼の秘密基地でもあったりしたら。なんて。
「んー、今日もう終わりでいいな。お風呂入って寝るか。」
お昼時に目が覚めて、おやつの時間にすらなっていない14:30。わたしは既に今日を生きることに飽きていた。
シャカイから切り離されたわたしは1日を24時間という単位で考えることはなくて、お風呂に入れば「今日」を終わらせられると思っているところがある。
本当にもう「今日」を終わらせてしまおうか、どうしようか。みんなよりも遅くに生活を始めるわたしはソファーに沈みながら、今日をとっくに始めているみんなの更新されたSNSを眺める。
Instagramを覗けば、好きなひとは海にいるらしくて、Twitterを覗けば、好きなひとはお散歩をしているらしかった。
好きなひとが、今わたしのすぐ近くにいるかもしれないような気がした。
彼が今までこぼすように話していたあれこれが、わたしの中で全て繋がって、彼は今そこにいるって、そう言っているような気がして仕方なかった。
わたしが日常を生きる部屋の中に野球の試合をする声が聞こえて来て、その重なる声の中に1つ、聞き覚えのある声があるような気がして玄関を飛び出したあの時みたいに。
ドキドキして。びっくりして。うれしくて。でも、どこか必然だった気がするあの瞬間みたいに。わたしの日常に彼が突然現れて、わたしたちの生きてる世界が交わる。どうしても、そんな気がした。
いつもと変わらないお散歩道。
どこかに交わる場所がある。
あの時一度交わったように、もう一度。
人の目が怖くて、いつも出来るだけ周りを見ないように歩いているわたしが、行き通う人の髪や横顔、背丈、服装を見ながら海を探し歩く。
あと数ミリ。あと数ミリで、わたしたちの生きる世界が交わる気がする。
ぽつりと一人で歩いている彼のような人を見つけては、「わあ!あれだ!!!」と思って、誰かと二人で歩く彼のような人を見つけては、「えぇ..あれなのか??」と思って、大勢といる彼のような人を見つけては、「んー..あれなことあるか??」と思った。
背の高い彼。姿勢のいい彼。襟足の短い彼。日焼けしてる彼。ムキッとした彼。
彼じゃない、彼のような誰かがたくさんいた。
脳が、あれは彼だと思いたがっていた。
「彼かもしれない彼のような人」が、「彼じゃない彼のような人」になるまでの時間ずっと、わたしはドキドキした。
わたしは、彼の歪な線を知らない。
頭でははっきりと彼のことが見えているのに、拡大しようとすれば途端にぼやけてしまうものだから、わたしは彼を、こんな背で、こんな髪で、こんな目の。そういう、言葉で簡単に言い表せてしまうような、分かりやすく特徴的な線でしか認識できていない。
彼を歪な線一つ一つで感じていられていたら、探さなくても、もっとこう、ぴかーん!と光るように分かるはずで。分かるよりも先に、感じるはずで。
そう気づいて、ちょっと悔しい。
彼なのかなってドキドキと、彼だ!じゃないモヤモヤ。
それでも、彼の心の歪な線は少しだけ知っているつもり。
彼の向かう先、向かった先での彼の様子までもが、わたしには分かる気がした。
昼寝にぴったりな石段。
すっかりみんなのものになってしまった海のはずれ。
いない。
逆に、あそこか!
いない。
まさかの、あっち?
いない。どこにもいない。
目的地まで徒歩1分になってから迷子になるGoogleマップのように、あともう少しが届かない。
あ、あそこだ。
なんだ。あそこじゃないか。
木々に囲まれた人気のないベンチ。
わたしの秘密基地。彼にも似合うんだろうなって。
わたしの秘密基地が、彼の秘密基地でもあったりしたら。なんて。
あと3ミリ。
あと1ミリ。
そこにはベンチに寝そべる彼がいて、ドキドキして。びっくりして。うれしくて。でも、どこか必然だったように受け入れられる。そうなるはず。
あの時感じた、そうなる気がする。が、そうなったあの時ように。
あと、0.1ミリ。
寝そべっている人がいた。
わたしの秘密基地に、誰かが寝そべっていた。
知らないおじさんが、わたしの秘密基地で寝そべっていた。
3ミリ。10センチ。50メートル。
彼の生きる世界は、この瞬間にびゅんっとすれ違って、どこか遠く遠くへ行ってしまったような気がした。
さっき飲みほした麦茶がそのまま染み出ているかのように流れる汗。
家に帰って鏡を見たら、浮腫が取れて、顔がシュッとしていた。
While Writing
『KANA-BOON/ぐらでーしょん』
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