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【ぼく遺書vol.4】AV女優は社会貢献の夢を見るか?~入信編②~

こんにちは。元塾講師のストームです。僕は東大経済学部出身の30代。大学を卒業後に就職した学習塾を退職して,今はフリーの身です。

「僕が遺書を書いて学習塾を辞めた理由」略して「ぼく遺書」

このブログでは以前勤めていたブラック学習塾での経験を執筆していきます。自己紹介はこちら。ありがたいことに多くの方が読んでくださっていて書く励みになっています。

ブログの内容は当時書いていた日記に基づいています。基本的には毎週土曜日に更新。

今回は「~入信編②~」です。1話読み切りのスタイルなので,この記事から読んでいただいて大丈夫です!

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「ストームくん,社長さんの塾に行くの?」

僕は学部で一番の美人だった佐藤さんとカフェでお茶をしていた。僕が佐藤さんとカフェに行けるのは僕がイケメンだからではない。佐藤さんは美人にもかかわらずとにかく優しい人で,社長にヘッドハンティングされたと思ってハイテンションだった僕の身分をわきまえないお誘いに乗ってくれたのだった。

佐藤さんとカフェに行くのはこれが初めてで,同級生にばったり遭遇するものなら冷やかされること間違いなしだ。
僕はずっとドキドキしていた。

僕「社長さんのこと覚えてたんだ!」

オープンラボの日,僕と一緒にゼミの様子を発表した佐藤さんは当然ながら僕と社長さんが話していたのを見ていたのだった。(詳しくは【ぼく遺書vol.1】参照)

僕「そうそう。インターンすることにしたよ。」

実際はただの塾での「アルバイト」なのに「インターン」という言葉を使うこと自体,見栄を張っていた証拠だ。この時の僕は社長に「ヘッドハンティング」された事実でお腹いっぱいだった。なんだかとてつもない武器を手に入れた気がしていた。

けれどもやっぱり「アルバイト」というとそのメッキが剥がれてしまう気がして,しつこく「インターン」を連呼していたんだと思う。それでも佐藤さんはそんな僕に愛想をつかすことなく,たいしたオチもない話を親身になって聞いてくれていた。

緊張のあまり1杯目のコーヒーをすぐに飲み干してしまいそうになった僕は,早速2杯目を注文するために店員さんを呼んだ。

「ストームくん,飲むの早くない?(笑)」

佐藤さんが何気ない一言を放った時,
自分でも予想外の言葉が口から出てきた。

「ねえ,佐藤さんも一緒にインターンしない?」

あーあ。なんてこと言ってしまったんだ。
こんな美人が僕と一緒にアルバイトなんかするわけないじゃないか。
「冗談だけどね(笑)」と急いで誤魔化そうとしたとき,
今度は佐藤さんの口から予想外の言葉が出てきた。

「それもいいかも!ちょうどアルバイト探しているところだったし。」

なーんと!ストームよ。これは人生初のモテキが到来したんじゃないか??
僕がそんな妄想をしているとはつゆ知らず,
佐藤さんは単にアルバイト先を探していただけだったようだ。
その証拠に,僕の虚勢を張った「インターン」が「アルバイト」だと見抜いていたし,
続けてこんなことを言ったのだった。

「お給料とかお休みのことをしっかりしてもらえるならね^^」

「じゃあ社長さんに聞いてみるよ!多分大丈夫だと思う。」
佐藤さんにそう答えてから僕はふと思った。
「そうだ...僕のお給料はどうなるんだろう...」

2日連続で社長の塾を見学することにした僕は
この日も意気揚々と向かったのだった。
なんといっても佐藤さんと一緒にバイトができるかもしれない。
「バイト=恋愛」というシンプルな等式で頭がいっぱいだった。

教室の扉を開けると社長が授業をしていた。

社長「ストームくん!よく来てくれた!」

この日も社長の授業は絶好調だった。
子どもたちに適切な声掛けをしながらどんどん乗せていく。その授業はまるで名人芸のようだった。子どもたちの顔が輝いている。

僕「社長さん,すごいですね。僕も社長さんみたいな授業がしたいです!!」
社長「当たり前だろ。俺は世界で一番授業が上手いからな。お前も早く追いつけよ(笑)」

一つ気になったのは社長の僕に対する口調が少しだけ強くなってきたことだった。例えば呼び方は「ストームくん」が「お前」になった。そして語尾は「だよね」が「だろ」になった。

社長に会うのはこれが5回目くらいだったし,慣れてきたらそんなもんかなと思った。でもよくよく考えてみると,きっとこの時から社長は僕を試していたんだと思う。

「こいつはどこまでなら俺の言いなりになりそうか」
名前の呼び方,話し方,受け答え...
それらを巧みに操りながら僕への距離感を測っていたのだった。

そんなことを知らない僕は,自信満々に社長への”プレゼント”を披露した。

僕「オープンラボの時に僕と一緒に発表していた佐藤さん覚えていますか?
もしかしたらあの子もこの塾でバイトしてくれるかもしれないです!」
社長「それ誰だよ。」
僕「少しだけ話したあの美人の子ですよ!経済学部で一番かわいいですよ。」
社長「あー。あのブスね。」
僕「えっ...?」

佐藤さんは紛れもなく美人だった。
にもかかわらず,そんな佐藤さんのことを「ブス」と言い切る社長のことを
僕は戸惑いの目で見つめた。

僕「佐藤さんもアルバイトしたいって言ってくれましたけど...どうしますか...?お給料とかをしっかり決めてもらえるならぜひって言ってましたけど...」
社長「給料とか言うやつと一緒に仕事したくないわ。却下。」

「まじかよ。」心の中でそう呟いた僕は,社長の豹変ぶりについていくことができなくなってきた。社長はさらにまくしたてた。

社長「お前は佐藤さんがかわいいっていうけどさ,あんなブス俺だったらイチコロだよ。もう方程式があるからさ。まず夢を語るだろ。そしたら俺の言うことって絶対に良いことだからそれでまず惚れるわけね。それから2回くらいご飯行って家に連れて行けば終わりよ。」

僕はモテるタイプじゃなかった。社長もそこまでイケメンではなかったけれど,自信満々に言われるといつの間にか煙に巻かれた気持ちになっていて,社長のいうことを信じてしまっていた。

僕「そうなんですか...!?羨ましいです。」

社長「まああんなブスには行くまでもないけどな。っていうか,美人ならAV女優になれよって話でしょ。美人の一番の社会貢献は脱ぐことだよ。

こんな女性蔑視の発言を初対面からそう時間のたたない相手にも吐き散らすド変態野郎が,小学生・中学生・高校生,さらには保護者の前に立って善人顔をし,偉そうに授業をしていたのだった。

それなのに当時の僕はそんなことは考えられないほど,社長のカリスマ性に惚れ込んで,この人と同じ高いところから一緒の景色を見たくてたまらなかった。判断力が鈍っていた。

「AV女優は社会貢献の夢を見るか?」当時の僕にとってはそれが問題だった。

気づけば社長はさっきまで切れ長だった目を丸くして,初めて会った時のような優しい顔をしていた。それを見て少しほっとした僕の安堵が伝わったのだろうか。社長は間髪入れずにこう言ったのだった。

「ストームくん,うちに来てくれてありがとう!最初は全て時給1,000円からだけど、大丈夫かな??」

僕が断れなかったのは言うまでもない。

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