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【ぼく遺書vol.3】「誰かがなるはずだった、その誰かに自分がなりたかった」~入信編①~

こんにちは。元塾講師のストームです。僕は東大経済学部出身の30代。大学を卒業後に就職した学習塾を退職して,今はフリーの身です。

「僕が遺書を書いて学習塾を辞めた理由」略して「ぼく遺書」

このブログでは以前勤めていたブラック学習塾での経験を告発していきます。自己紹介はこちら。ありがたいことに多くの方が読んでくださっていて書く励みになっています。

ここでの告発は当時書いていた日記に基づいています。基本的には毎週土曜日に更新。

今回は「~入信編①~」です。1話読み切りのスタイルなので,この記事から読んでいただいて大丈夫です!

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ある日僕は,「塾のない社会」という壮大な理想を語り,しかも実際に「塾をなくすための塾」を起業した社長と出会った。

社長「ストーム(僕)くん。君がいれば塾のない社会を5年で創れる。俺の右腕となって働いてくれ。」

東大に入学したものの何をすればよいのかわからず,惰性で毎日を送っていた僕にとって,それは神様が目の前に垂らしてくれた一筋の糸のようだった。しかもその糸は選ばれた者にしか見えず,選ばれた者しか掴むことを許されていない。

社長「俺はつまらないヤツには声なんかかけない。時間の無駄だからね。大学のラウンジで高校生の延長ごっこみたいなことしてる学生とか何のために大学に来てんだよって感じ。あんなヤツらに染まったら人生終わりだぞ。あいつらはなんとなく東大に入って,なんとなく就職して,なんとなく死んでいくんだろうね。でもストームくんは一目見た時から違った。こんなダイヤモンドの原石みたいな子がまだいたんだって嬉しくなったよ。」

立志編で見たように社長のカリスマ性にすっかり魅了されてしまった僕は,「こんなすごい社長が自分のことを認めてくれた」という事実に舞い上がると同時に,大学の同級生への軽蔑のまなざしを,社長の言葉とともに作りかけていた。

「お前の研究室の学生はクソだ」「大学にいたって自分の価値は1ミリも上がらないぞ」「同級生と話して何が楽しいんだよ。うちに来ればもっと楽しい世界が見えるよ」気が付けば社長は僕の同級生のことをたくさんディスっていた。

なぜ社長はあれほど僕の同級生をディスる必要があったのだろうか。その答えはいまだにわからない。でも一つ確かなことがある。

社長は僕の同級生をディスることで僕が「腐ったコミュニティ」にいるような感覚を植え付けた。そして,その腐ったコミュニティから僕を見捨てずに引き上げようと手を差し伸べてくれていること,しかもそのタイミングは「今」しかないことを強く印象付けることに成功したのだった。

大げさかもしれないけれど,僕には次第に同級生も教授もその「腐ったコミュニティの構成員」にしか見えないようになっていった。そして社長の創った学習塾は創業期の「Google」や「Apple」のように,将来だれもが羨ましく思う「創業メンバー」の一員として僕を迎え入れてくれる方舟のような存在になっていったのだった。

社長「正直オープンラボにわざわざ行くなんて時間の無駄かなって思ってたんだよ。俺仕事超忙しいしね。社員も俺がオープンラボ行くなら会社に還元できる何かを持って来いって思っていたはずなんだよね。だからストームくんを仲間に向かえることができて,彼らも喜ぶと思うよ。君は神だね!」

僕「ありがとうございます!いえいえ!社長さんこそ神ですよ!」

僕と出会ったとき,なぜか社長は僕のことを「神」とよく形容した。僕からしたら社長の方が「神様」だったから,「神」と形容されて嬉しくないわけがない。そして僕をそんな気持ちにしてくれる社長のことをいつしか僕も「神」と形容するようになっていったのだった

その日の夜,興奮冷めやらぬ僕は社長とチャットでこんなやり取りをした。

僕「本日はお忙しい中ありがとうございました!本当に有意義な時間でもっとたくさんお話ししたかったです。ご飯もごちそうさまでした。とってもおいしかったです!自分が本当に興味があってやりたいことがいままでわからなかったのですが、社長さんのおかげでようやく見つけられました。最後に社長さんのビジョンをお聞きしたとき、感動して泣きそうでした笑。」
社長「神!」
僕「社長さんの方が神ですよー!!」
社長「うける!」
僕「いっぱいお話ししたいです!」
社長「うちでバイトして!」
僕「ぜひぜひ!」
社長「インターンも大募集!」
僕「やったー!!!ありがとうございます!」
社長「また明日会社を見に来てね!俺はまだ会社ですw」
僕「では、明日楽しみにしてます!お疲れ様です><」

どんなに有名な会社でも創業期は必ずある。その小さな会社の将来性を見抜き,会社という方舟に乗ることに成功した者のことを,時代は「創業メンバー」として評価する。

誰かが創業メンバーになるはずだった。その誰かに当時の僕はなりたくてたまらなかった。こうして次の日のゼミが終わった後,僕は意気揚々と学習塾に足を運んだのだった。

社長が創った学習塾は昭和感が少し漂うビルにあった。1階のカフェの隣の階段を上っていくと,子どもたちの明るい声が聞こえてきた。「どんな塾なのかなぁ」と期待とともに扉を開けた僕を,社長がすぐに迎えてくれた。

社長「ストームくん!よく来てくれたね。君の仲間を紹介するよ!」
僕「ありがとうございます!」

「これ普通の塾じゃん」そう呟いた心の声にはそっと蓋をした。

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