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Vol.10 イスタンブールの地下宮殿

静謐。静謐にならざるを得ない。
歩くたびに響く足音。一歩間違えれば水の中に落ちてしまいそうな石道の上をそろりと歩く。
そっと息を吐くと、ひんやりとした大気が一瞬温められる気がするが、すぐにその熱は奪われ、足元から冷え冷えとした空気が滲みあがってくる。
赤くライトアップされた地下宮殿ほど幻想的で荘厳な場所もそうそうない。

https://www.flickr.com/photos/22490717@N02/11314715065

イスタンブールは世界遺産登録された街の中でも見どころにあふれた街だ。
イスタンブールに来れば大概の感情は体験できる、と思う程だ。

この地下宮殿もその一つだ。
あんなに人が溢れていた街なのに一歩地下に入れば、背筋が伸びるような不気味さと静けさを持った異世界が広がっている。
異世界転生ものが流行っているけど、異世界に行きたいならここに来ればいい。突然異世界召喚された主人公の気持ちもわかるだろう。

この地下宮殿は貯水池であり、オスマン帝国時代から使われていたらしい。
立ち並ぶ大理石の柱が貯水池ではなく地下宮殿と言わしめているのだろうか。

薄暗く足元もよく見えないのに、私はわざと目を閉じる。
暗闇をより感じる。ちゃぷちゃぷと、それほど大きくない水の音が響く。
地下空間なので小さな音でもよく響くのだ。
次第に自分の足元が不安定になってくる。私は地に足をつけていただろうか・・・?

この感覚は世界広しといえどなかなか味わうことが出来ない。
西洋とイスラムと歴史が相混じったこの街だからこそ味わえる異空間に私は身体の芯から痺れている。

イスタンブールの歴史地区
トルコ
登録基準: ①、②、③、④
登録年: 1985年


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