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サハラの小さな敵
砂漠の風が吹き抜けるタッシリナジェール。その壮大な岩山と砂の風景の中には、実はさまざまな生命が息づいている。
昨年の10月、その教訓を痛いほど学んだ。雨期を過ぎたばかりのサハラは、一般的なイメージとは異なり、ゲルタと呼ばれる岩盤の窪みには水が溜まり、低地には湿った土と新芽が顔を覗かせる。その命の営みの中で、目に見えぬ敵もまた繁殖期を迎えていた。
夜になると襲いかかってくる激しい痒み。蚊とは明らかに異なる何かが、露出した私の肌を執拗に攻撃した。その苦しみは帰国後も私を追いかけ、しばらくの間、その存在を思い出させた。
今年こそはと、私は完璧な対策を練った。当初考えていた数万円の防虫ネット付きテントという重装備案を見直し、より賢明な選択をした。雨の心配がない砂漠での野営に必要なのは、シンプルな防御だ。Amazonで見つけた自立式の蚊帳は軽量で、瞬時に展開し、かつコンパクトに収納できる優れものだった。虫除けスプレーと痒み止め軟膏と合わせても、2000円程度の投資で十分だった。
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しかし油断は大敵。
真夜中のジャネット到着時、疲れから虫除けスプレーを怠った私は、ガイドの友人宅で5箇所の戦傷を負うことになった。
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それでも、その小さな砦の中から見上げた満天の星は、この上ない贅沢だった。まるで宇宙に浮かぶ安全地帯から、サハラの夜を独り占めしているような感覚。
ある日の明け方、私は敵の正体を目撃することになった。蚊帳の外側にへばりついた小さな姿。サシチョウバエ、別名サンドフライ。小さな夜の狩人の姿がそこにあった。
タマハック語ではビスビスというらしい。
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最後にひとつ付け加えると、蚊帳の出入り時には素早さが求められ、毛布に紛れ込んだ敵兵の持ち込みにも注意が必要だった。
この経験は、私たちがいかに小さな生き物たちと共存しているかを教えてくれた。サハラの壮大な景観の中で、時に私たちを悩ませる彼らもまた、この地の歴史の証人なのだ。