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音の風景

私の今年の目標はQOLを高めていくことだ。
その第一歩として、2年前から付き合うことになった突発性難聴との関係を見つめ直してみた。

突発性難聴になって以来、私の音の風景は大きく変わった。
駅やホールでは、不協和音が空間を満たし、聴きたい声は霧のように消えていく。工事現場から漏れる轟音は、鋭い光のように脳を貫き、思わず耳を覆って身を縮めてしまう。そして常に私に寄り添う耳鳴りは、長時間の会議や対話の後、重い荷物のように疲労を背負わせる。
かつては当たり前すぎて意識すらしなかった日々の音が、私の聴く風景を少しずつ塗り替えている。
都会が以前より苦手になった。何かを聴かねばと意識する必要がない自然が心地良い。これは難聴の所為なのか、歳を取ったからなのか。多分両方なのだろう。

サハラでの「凪」の話をしよう。
風が完全に止み、空気の振動がパタリと消え去る瞬間がある。若かった頃、そんな世界の無音の中で、自分の心臓が押し出す血流の音を聴いた感動は今でも鮮明に覚えている。
しかし、難聴を得てから再び訪れた砂漠の凪は、異なる顔を見せた。完璧な静寂の中で、普段は生活音に埋もれている耳鳴りがはっきり浮かび上がってきた。かつての感動は、風が描き、風が消し去った風紋のように、もう戻ることはないと知った。けれど、あの美しさは確かに記憶に刻まれている。それもまた、砂漠が静かに教えてくれた真実だ。

とはいえ、このまま音の変化にただ身を委ねているわけにもいかない。そこで、いくつかの工夫を重ねてみることにした。

会議や会食では、できるだけ右端の席に座らせていただいている。これだけ右側の方に迷惑を掛けることがないのでストレスがまったく違う。

それから突発性難聴用の高性能な補聴器も使っている。価格に驚いたが必需品だと考えた。装着していると、確かに人の多い大きな空間でかなり楽になった。人との対話という、これまで空気のように感じていた日常のぬくもりをかなりのレベルまで取り戻してくれた。

Signiaの補聴器

そして、移動時間やカフェでの作業には、ノイズキャンセリングが付いたオーバーイヤーヘッドフォンの方がよい。より確実に周りの音を遮断してくれる。それに、補聴器よりずっと質の良い音で、音楽を楽しめる静寂の空間を作り出してくれる。

お気に入りのオーバーイヤーヘッドフォン外音

最近、AirPods Pro 2の補聴器機能も試してみた。まず大きな音を低減してくれるのがありがたい。会話を検知すると自動的にメディアの音量を下げ、周囲の雑音を低減して目の前の人の声を際立たせてくれるのも素晴らしい。ただし、自分から話し始めないと機能しないのが惜しい。

AirPods Pro 2での今日の結果

これからも年を重ねていけば、聴覚に限らず、さまざまな身体の変化が訪れるだろう。しかし一つひとつの変化に向き合い工夫を重ねることで、むしろより豊かな日々を紡いでいけるのではないだろうか。そう考えながら、静かに歩みを進めていこう。

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