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読み直すと思い出す、別の本のことー6番目の本の話

 コージー・ミステリは、気に入ったらどこへも持ち歩いて、安心毛布のようになります。コージー・コーナーのミステリは何回読んでもいつでもちゃんと常識的に解決するので(当たり前だ)、安心するんです。今は『ケンブリッジ大学の途切れた原稿の謎』など。これがシリーズ2作目であと2作、翻訳出版の予定ありとのことですから、4作揃う(そして読む)までは手放せません。手放しません。本を手放すとかなり寂しいことが身に染みてきたので、まだシリーズが終わりじゃないからと自分に言い訳できることで、ホッとします。
 でさらに、本作の本質的な謎は、キルトと幾何学の関係なのですが、このキルトが、なんとルーシー・M. ボストンさんを連れてきてくれたのです。『ケンブリッジ大学の・・・』の文中で、主人公の〈キルト愛好会〉の仲間が「ルーシー・ボストンのキルトを見に、ヘミングフォード・グレイに車を出せるか」聞いていて、ここだけでは事情が分からないのですが、古山裕樹さんの解説で、詳しく説明されています。翻訳者の猪俣美江子さんがキルトを調べていると、著者ジル・ペイトン・ウォルシュが、あの『グリーン・ノウの物語』の作者であるボストン夫人と親交があり、ボストンさんは「パッチワークの名手」としても知られていたという話がでてくるんです(確かにグリーン・ノウの話の中でも、キルト、というかキルトに使われた古裂がとても印象的な活躍をしていますし)。
 グリーン・ノウは実在するイギリスの1120年頃のマナーハウス(荘園主の館)をモデルとして描かれているけれど、ボストンさんはまさにこのモデルのマナーハウスThe Manor, Hemingford Greyに住んで、1990年に97歳でかなたに旅立たれたとのことですが、ここには日本人作家・国文学者の林望さんが、いっとき、そのAnnexeに寄宿なさっていた(確か1984年頃?)という、まあ、奇跡のような挿話があるんですね。ボストン夫人、と解説などでは書かれていますが、あのボストン夫人の書いたグリーン・ノウの館が実在していて(ヘミングフォード・グレイとして)、そこに林さんが部屋を借りていたと! 奇跡のような邂逅だと思いました。しかも林さんが、当初はボストン夫人もグリーン・ノウも、専門違いで全くご存じなかったとは。奇跡はこういう人にこそ恵まれるのだな。
 というわけで、私は林望さんの本を実家を離れる時に片づけてしまっていたけれど、慌てて図書館で検索して貸出予約中です。ウォルシュの本は減ってない。でも林さんの本は、今回借りるだけだから、増えないから。うん、林望の本を買いなおしたりしないから。うん、たぶん。グリーン・ノウ・シリーズは減らせないけど。
 あれぇ、グリーン・ノウシリーズ、今amazonで見たら、新シリーズが2008年に出てるじゃないですか。 えっ訳者は? 亀井俊介さん? じゃ新訳じゃないよね。あ、でもイラストがピーター・ボストン? いや、増えないから。いやいや。うん、たぶん。悩みつつ、本を減らすという断捨離、もとい減捨離の方針はどうなっていくのだろう。ゆくへも知らぬこひの道かな~。本に恋してる(keiさんの「まるいかたち」をお借りしました。由良の戸を渡る舟人とも関係ないんですが、なんかもう、一目ぼれで)。 

 * 追記です。検索をしていると、林望さんの個人サイトで、ボストン夫人との出会いとマナーハウスでの暮らしをそう長くなく、しかし余韻に満ちて書かれたエッセイが公開されていました。ご紹介(してもいいと思うので。会員制などではないので)しますね。URLと記事タイトルはこちらです。


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