【ソ連製のD.D.T.】
ソビエト?近代科学の?
シラミ駆除の?薬
「オーイ、助けてくれシラミが餌と間違えて集ってくるぞ」
?配給された
復員後初めて接(?)したD.D.T.
?い臭気を有するも
?効果?
ヒイロク市1936病院より、日本海側のポセット、(後年、シベリヤよりの日本兵の出国港となったナホトカ港の近くの港)に向かう途中でソ連側より支給された薬品である。
『しらみ駆除の薬』ということだったから、この薬を取り出し、しらみを1匹とってその白い粉薬の中へ入れた。しらみはごそごそと粉の中からはい出たが、見ている間には、とても死にそうにもないようなふうだった。
皆は、「やはり、言葉のとおり、駆除だね。どんどん逃げているよ。」と、笑っていた。
1人について、2~3袋配られたように思うが、誰も本気で使用はしなかった。そうじゃまになるだけの大きな品物でもないから、そのまま荷物の中にしまっておいて、復員の際に持ち帰った。
佐世保港に上陸した時、倉庫のような家の中で、アメリカ兵が1人1人の背の中に白い粉薬のようなものを吹きこんでくれた。
その時は何という薬を、何のためにしたのか、何も知らなかったが、宿舎に着くまでには、しらみ退治のため「D.D.T.」という特効薬をかけているのだということを知らされた。
せっかく日本に帰ったと思ったのに、日本でもしらみが大発生していると聞かされ驚いた。
(日本国中のしらみ退治に一役かっていたこのD.D.T.は後年、発癌性の疑いが濃厚になり、製造中止となった)
私には、ロッシャ語が読めないから分らないが、この袋入りの白い粉薬も、どうやらD.D.T.ではないかと思う。
ソ達の軍備力には驚嘆させられていた。ソ連の病院に入した時に、ソ連の医薬品、医療用機械器具などに接することも多くなってきたが、この方面は、軍事面とは正反対に、その質のあまりの低さにはあきれていた。
ソ連軍の特校のマダムやその子供が、蓄のう症とか、中耳炎などの手術は、日本の軍医にしてもらっていた。
そのくらいだから、ソ連の医学はたいしたことはあるまいと思いこんでいた。
誰も、その先入観でその配布された薬を手にしているから、薬の中よりしらみがはい出しても、言葉のとおり、駆除したね、と笑っていたのも無理のないことだったように思う。