【無情】
母国を遥か幾千里
無情の嵐
吹き猛り
墓標に空し
星明り
異国の地故殊に基標はひとしお無情の風を肌で感じさせる。
北鮮の古茂山、富坪の近郊の日本兵の墓標には、氏名のほかに兵科、階級、出身県まで書いてあるのが多かった。
これら、清津港に近い地点での墓標は、日ソ戦の開戦と同時に、ソ連軍が上陸作戦を展開してきたための儀性者らしかった。
特別に新らしい基標はなくて、皆、大体同じような色あいに色あせていた。
帰国のため、興南の港に集結し、旧日本窒素の社員住宅に入った時、そこでの炊事用の燃料をとりに、港の上の山に入ったことがあるが、その時、至るところで日本兵の古い墓標に接した。
生還の日は目前に迫っている兵と、異国の雪の下に埋もれている兵。
生者と死者の対比、有と無の対比か。
墓標は、やがて朽ちていくことだが、そのあとを見てくれる人とてあろうはずもない。遺族にしてみれば、思うただけでも断腸の想いがするだろうが、これもまた、どうしようもない、無情の現実。