【夕やけ】
望郷
空にさえずる小鳥でさえも
夕は我が家と
「嗟!!」
満州国での、夏から秋にかけての夕やけの景色は実に美しい。
地平線の彼方に沈む太陽は、一きわ大きく感じていた。
北朝鮮に移動してからは、収容所より見える夕やけ空に、朝鮮烏がねぐらに帰るのをよく見ていた。
体の半分下の下腹部分のところが白いこの朝鮮烏は、日本の烏のような大集団では行動していないらしく、小集団で飛びかっていた。
その巣は、並木の高いポプラの上に多かった。
シベリヤでは、冬しか収容生活をしていないから分らないが、太陽が地平線に没するその前後の光景には、壮厳ささえ感じたことを覚えているが、もう二度とあの夕やけに接することはなかろう。
黙って立ち並んで夕やけを眺めている兵達の瞳の奥にあるものは何だったろうか。
故郷に妻子を残している者、学業半ばで出征した者、職人としての修業中に入隊した兵など、人それぞれに、入隊前の経歴は千差万別、だが、共通している点、それは、何人たりとも禁じ得ない望郷の念。