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マグレ①

桜の花びらが水面に落ちはじめた頃、静かな夜の川辺で大きな破裂音を聞いた。

「あれはデカいぞ...。」

そう独り呟く。


この音は、河川の対岸寄りに位置する瀬に着いた鱸の捕食音だ。昨年の冬入りから今まで、メバル釣りをメインにしていたが、この日を境に鱸釣りへとシフトすることにした。

この時期の鱸釣りといえば、ハクパターンが思い浮かぶ。春から初夏にかけて多く見られるボラの稚魚(ハク)を捕食する鱸を狙う釣りだ。この河川も例に漏れず、至る所にハクが群れている。


しかし、捕食音に怯え逃げ惑うベイトの水音は、明らかにハクのそれより大きい。どうやらイナッコを捕食しているようだ。

捕食音を聞いた日から、時間があればそこに通うことにした。だが、時々聞こえてくる捕食音とは裏腹に、一向に口を使わない。その代わり、活性の高いヒラセイゴが執拗にルアーを襲う。おそらくハクを捕食しに河川に入ってきているのだろう。

しばらく通ったものの思うような釣果を出せず、他の河川を見に行こうかとも思ったが、GWが終わりに差し掛かったその日も同じ河川へと足を運ぶことにした。どうにかしてあの鱸に口を使わせたい。

釣り場へ持っていくルアーを自宅で選んでいる最中、ふとスネコン90Sが目に留まった。ずいぶん前に買って少し使ったきり、飛距離が出ないのが気に食わずタックルボックスの肥やしになっていた。

本当になんとなくだが、呼ばれたような気がした。鱸1尾すら釣ったことのないルアーだが、今日はコイツを連れて行こう。ほとんどメンバーの決まっていたルアーボックスの中に、スネコンを放り込んだ。

ハスラーに乗り込み、40分ほどでポイントへ到着。今は満潮で、もうすぐ下げが始まる。例の瀬は潮が満ちていなければ干上がってしまうため、必然的に時合いは潮位の高いタイミングになる。

川辺でしばらく耳を澄ますが、捕食音は聞こえてこない。今日は居ないのだろうか...。と思いながら少し上流にある堰まわりでヒラセイゴを数本釣り、瀬の場所へと戻る。やはり捕食音は聞こえない。

今日もダメかもしれないな。と思いつつ、下流をチェックしに行く。この河川には鱸の遡上できる範囲内に6本の橋があり、その周辺をメインに釣り下る。

しかし、釣れるのはヒラセイゴばかりで、ついに上流から数えて5本目の橋まで辿り着いた。以前はこの橋の明暗部にメーターに絡むような大鱸がよく着いていたが、最近はめっきり見なくなってしまった。

ここでもしばらく釣りをしたが、鱸からの反応は得られず、引き返すことにした。最下流の橋にも鱸は着くのだが、釣れた試しがない。

気付けば随分潮位が低くなっていた。

今日もダメか...。と肩を落としながら上流へ引き返し、橋を1本、2本、と通り過ぎて3本目の橋へ近づいたときだった。明暗付近がザワつき、水面が爆ぜているのが見える。

この橋にはちょうど真ん中あたりに橋脚が一本あり、そこから左岸側が流芯、右岸側が駆け上がって流れの緩やかなシャローになっている。

急いで向かうと、膝下ほどの水深になった右岸側で鱸が暗がりから飛び出してイナッコの群れに突っ込んでいる。イナッコは怯えきって群れは渦を巻いていた。上流にいた鱸たちが降りてきて、水が干上がる前に下流へ向かうイナッコの群れを明暗で待ち構えているのだろう。

こんな時合いがあったのか...。何年も通っている河川であるにもかかわらず、気付けなかった自分の視野の狭さに少し落胆したが、そんなことをしている場合ではない。

急いでバッグからルアーボックスを取り出す。立ち位置から水面までは約6メートル。鱸がイナッコを捕食しているのは足元付近だ。この高い足場で足元までキッチリ引けるルアーを探していると、スネコンと目が合った。これだ。

イナッコを捕食している鱸はおそらく2〜3尾。数が少ないだけにミスは許されない。スネコンをスナップに繋ぎ、タイミングを見計らってキャスト。

1投目で私の操るスネコンに暗がりから70クラスの鱸が飛びかかった。間髪入れずにアワセを叩き込む。しかし、張り詰めたラインは直後のエラ洗いでテンションを失った。

このバラシをきっかけに一気に鱸たちの活性が下がる。チャンスを無駄にしてしまった。



マグレ②へ続く

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