社会にとって必要な仕事がなぜ評価されないのかについて個人的見解
エッセンシャルワークとは何か?
エッセンシャルワーク(不可欠労働)とは、医療・介護、保育、公共サービスなど、日常生活の維持に不可欠な仕事を指します。
これらの仕事は、特にパンデミックなどの緊急時にその重要性が顕著となり、社会を機能させるうえで欠かせない存在です。しかし、こうした職業に従事する人々の多くは、過酷な労働環境や低賃金に苦しんでいます。
エッセンシャルワークの代表例として挙げられる介護や保育の仕事では、長時間の労働や高い精神的・肉体的負担がある一方で、賃金は他の業種と比較して低く抑えられがちです。
さらに、これらの仕事の多くは非正規雇用が多く、社会的な評価や支援も不十分です。
これは、エッセンシャルワークが「誰でもできる」といった誤解や、歴史的な性別役割分業の影響も大きく反映しています。
エッセンシャルワークの価値と社会的評価のギャップ
エッセンシャルワークは「なくてはならない仕事」であるにもかかわらず、社会的な評価が低い理由は何でしょうか。
グレーバーの著書『ブルシット・ジョブ』では、このような現象に「逆説」があると指摘しています。
彼の見解によれば、社会的価値が高い職業ほど経済的には評価されず、逆に社会的な影響力が低い職業に高い報酬が支払われることが多いといいます。
特に、社会的に意義のある仕事には報酬が低くてよいとする価値観や、労働そのものに価値があるとする考え方が根強く残っています。
たとえば、教育や介護、保育といった「ケア」の側面が強い労働は、女性に任される仕事とされてきた歴史があり、そのために「女性の献身」として低賃金が容認されがちです。
このような背景により、エッセンシャルワークには「重要であるが、その重要性の割には報われない」というギャップが生じているのです。
エッセンシャルワークが抱える構造的問題
エッセンシャルワークが評価されない要因は、社会の構造や制度にも原因があります。
日本の介護保険制度では、制度の抑制が優先されることで、現場の労働環境が厳しい状況に置かれています。
たとえば、訪問介護の現場では移動時間や待機時間が賃金に反映されないことが多く、介護労働者の賃金が実際の労働時間に見合わないケースが見られます。
また、介護報酬の引き下げや、医療や介護現場におけるコスト削減が続くことで、現場の人手不足が深刻化し、労働者にさらなる負担がのしかかっています。
一方で、保育士も同様に厳しい状況に直面しています。保育士は社会的に重要な役割を果たしているにもかかわらず、給与は他の産業と比べて低水準にとどまっています。
コロナ禍では、保育士の感染リスクが高まったものの、十分なサポートや保障は行われませんでした。
このように、エッセンシャルワークが社会的に評価されるどころか、制度の枠組みや経済政策の影響でさらに厳しい労働環境に追いやられているのです。
エッセンシャルワークを支える仕組みの改善
エッセンシャルワークを取り巻く問題を解決するためには、社会や制度の仕組みを見直す必要があります。
まず、賃金の改善が重要です。多くの介護・保育労働者が賃金の低さから離職を選び、労働力が不足する悪循環に陥っています。
このため、政府や自治体はエッセンシャルワーカーの賃金を他の職業と同水準に引き上げ、労働者が安心して働ける環境を整えることが求められます。
また、非正規雇用が多い職場での雇用の安定化を図り、社会保障を充実させることも重要です。
さらに、公共サービスとしてのエッセンシャルワークの位置づけを再評価することも必要です。
たとえば、自治体が直接雇用する形で介護や保育のサービスを提供することにより、安定した雇用環境が提供される可能性があります。
また、これにより市民への質の高いサービスが保証され、エッセンシャルワーカーが安心して職務に専念できる環境が整備されるでしょう。
社会全体の意識改革と新たな価値観の創造
最後に、社会全体でエッセンシャルワークの重要性を再認識することが必要です。これまで、経済活動における「生産性」を重視してきた結果、ケア労働やメンテナンスといった活動は「非生産的」とされてきました。しかし、これらの仕事は人間社会を支える根幹であり、コロナ禍で改めてその重要性が浮き彫りになりました。
エッセンシャルワークの社会的評価を高めるためには、経済成長や効率性だけでなく、人間の幸福や生活の質を重視する新しい価値観を社会に浸透させる必要があります。教育現場でもエッセンシャルワークの価値を教え、次世代にこの重要な仕事の意義を理解してもらうことも大切です。また、企業や政府がエッセンシャルワークに従事する人々への支援を公に表明し、その重要性を強調することで、社会全体での評価向上が期待できます。
まとめ
エッセンシャルワークは、社会を支える柱であるにもかかわらず、長年にわたり軽視されてきました。これからの社会において、エッセンシャルワークの価値を適切に評価し、労働者が安心して働ける環境を整備することは急務です。社会全体で価値観の変革が求められており、一人ひとりがエッセンシャルワークの意義を再確認することが、持続可能な社会の実現につながるでしょう。