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*フィクション* 溜息のキミを 私は 笑顔で見守るよ。


「  …ふぅ〜(ん)… 。」


キミの
ねたような 
我慢しているような
ちょっと子どもっぽくて  
だからそっと 抱きしめてあげたく なるような  

でも それが できないのなら
せめて どうしようもなく 甘やかしたくなるような  

そんな溜息ためいき


ホテルのロビーに併設されたカフェの床は 人の声も 足音も 今こぼれ落ちた キミの溜息までも吸収してしまいそうな 絨毯じゅうたんで覆われている。


チェックアウトからインまでの 中途半端な時間。
我々以外  客はいない。


テーブルの上には コーヒーが二つ。
いつもは紅茶を頼むキミが 今日は珍しく

「 私も 飲んでみる。」
と言って頼んだコーヒー。

手付かずのまま 冷めてゆく。


弱音は吐くけれど 強気なキミ。
一見 大人しそうだけれど とても負けず嫌いなキミ。「私には できません」と言う言葉は  しょうに合わないらしい。
一生懸命に取り組む姿は 微笑ましくもあり 頼もしくもあり 私からすれば 愛くるしい一面も あるのだよ。


「  …ふぅ〜(ん)… 。」

目の前にコーヒーが置かれてから 
何度目かの 溜息を聞いた。

今抱えている 君の内側にある問題に対して どうやら私は 直接手を貸して助ける事はできないらしい。

キミ自身も それを望んではいないだろう。


ただ『 悩んでいる状態を 助けて欲しい 』
もしくは『この気持ちを 理解して欲しい』
という種類の 手の差し伸べ方を して欲しいのだね。

私もだいぶ前に  同じような気持ちになり そんな風に過ごした時期があったのを 思い出したよ。


私と並んで座っていても キミが今 溜息だけついている この時間は 決して嫌いではないし 無駄だとも 思わない。
一緒にいられるだけで  十分なくらいさ。


不機嫌な顔を素直に見せられる相手が 「私」だという事だろう?

嬉しい話じゃないか。


キミは 気づいていないのだろうね。

大切な人を守るというのは とても素朴で単純で
でも 難題で そして嬉しいことなんだよ。


だから 私は今 溜息ばかりついているキミを
「大丈夫だよ」なんて安っぽい言葉の代わりに
笑顔で見守ることにするよ。


それはね とても幸せで
私にしかできなくて
私ができる キミへの
最高の 心の示し方なのだよ。


 

*フィクション*  溜息のキミを 私は 笑顔で見守るよ。





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