〜創作〜 まだ私の彼氏じゃない
やだなぁ、またやっちゃった。
慌てるとすぐミスっちゃうんだよなアタシ…
ぜんぜん来ないエレベーターに見切りをつけて、
階段を駆け下りながら自分と反省会。
時間がないから「直接提出して下さい」って言われてたのに、社内郵便で書類出しちゃったよ。
今日に限って事務さんの回収早くて、
もう郵便室向かってるし、急げ急げ急げ〜!
普段は周りから落ち着いてるとか、
しっかりして見えるとか
綺麗な包装紙で包んでお返ししたいようなことを
言ってもらえるけど、中身は全然違うんだよね。
本人が言うんだから間違いないと思うけど。
「今日定時退社日だから、時間空いてる人で
ボーリング行こうってなったんだけど、どう?」
同じフロアの同期が昼休みに声をかけてきた。
メンバー確認とグループ決めのくじ引きを
同時にしているらしい。
急に決まったイベかな?
なんかこのまま部屋に帰ってもいい事なさそうだし、行こうかな。
「うん、行くよ。
凄い久しぶりだから楽しみ!
声かけてくれてありがとう!」
今日、動きやすいフレアスカートと
コットンのカットソーで来てて良かった〜
グループは、知ってる人もいたし、顔は知ってるけど 初めましての人もいた。
ウチのフロアって広いからな。
グループが10個もあるし。
あ、眼鏡さんだ。
この眼鏡さん、優しそうなんだよね。
フロア全体にポツポツ置いてある
観葉植物の『水やり当番』で、
彼の席の後ろの鉢に水をあげた。
大きめな葉っぱの埃をティッシュで拭き終わった時、ジーッと見られてた気がした。
声をかけられた訳じゃないんだよね。
でも気になって、
離れて見てたんだけど、私が居なくなってから
葉っぱをそっと撫でてたの!
両手で上と下から挟んで、
そ〜っと そ〜っと!
見てるのバレたらまずいからすぐやめたけど、その顔がとても優しそうで、ちょっといいなぁって思ったんだよね。
眼鏡さん、指が長くて綺麗だなぁ…あっ!今日ネイルサッぼってまずいことになってる!
指が隠しとこかな…
久しぶりのボーリングは楽しくて、いつもよりはしゃいじゃう。ホント、楽しいかも。
今朝のバタバタは、このためにあったんだと
許してあげよう。
でもストライク出ないな…なんか凱旋門の下みたいに残っちゃった、どうしよう…
「アレ、どうやったら倒せると思いますか?」
眼鏡さん上手そうだから、聞いてみたんだ。
「ま、とりあえずさ、ギリ左に立って 左のピンのギリ右狙って 右のギリ左狙ってみたらどう?」
理解できなかったよ…
「ギリ」いっぱいあるんだもん。ギリってギリギリだから1ギリなんでしょ?
「…ごめんなさい、
もう一回言ってもらっていい?」
「え?あ、えーと、
左倒してから右倒せばいいんじゃね?」
……今度は随分と省略パターン。
よーし見ててよね、
アドバイスは素直に聞くタイプなんだから
「ありがとう、やってみるね!
もし倒せたら、なにか1つお願い聞いてくれる?」
「いいよ、なんでも聞いてあげるよ」
言ったな〜
意外とアタシ、やる時はやるんだから!
運命ねじ曲げちゃうもんね!
今日のラッキーカラーは青だ
よし!ボール君 頼んだよ!
(倒せたら、キットなにか始まって
なにか起こるから
倒せますようにっ…‼︎)
「ヤッタ〜ッ!凄い私〜!」
(眼鏡さん。あのね お願い聞いてくれる?
今度私が慌ててる時には、そっと両手で包んで
『大丈夫だよ』って言ってくれる?)
((……それから、上書きしてしまいたい
思い出があるんだ……))