*フィクション* 「 辞める時はさぁ、…。 」
【 シ ド ロ モ ド ロ 】って こういう事か…。
私:「店長ぉココ辞める時って 本部に連絡入れればいいんですよね。締め日の1ヶ月前くらいとかで いいですか?それとも もっと短くてもいいんですか?」
近隣の県で 幾つかチェーン店がある喫茶店。ソレが私のバイト先だ。
平日でも開店早々から結構混んでいて 主婦やお年寄りたちが のんびりとコーヒーを飲んでいる。
休日はカップルや学生さん達で賑わう このお店。 値段はちょっと高いけど フードメニューも手を抜いていないから ふらりと入ったのをキッカケに 『いつの間にかリピーターになってしまったよ 』なんていってくれる人も結構いて ちょっと嬉しい。
私は今ここで 3年目のバイト生活に入ろうとしていた。
店長:『……。』
__アレ?店長 今 後ろでパソコンの作業してなかったっけ?聞こえなかったかな_
私は 食洗機で洗い上げたコーヒーカップを拭き上げる手を止めて 振り返った。
私:「やだなぁ店長 いるじゃないですか〜。独り言言っちゃったかと思いましたよ。…あ 細かいこと 入力してたんですね…すみません。」
店長の顔がいつものように穏やかではなくて どこか 怒った様に見えたので 私は慌てて謝ってしまった。
店長:「辞めるって言ってもさ ホラ シフト組む都合とかもあるしさ。キミが本部に連絡するとさ 直ぐに俺んとこにも『欠員出るぞぉ!』って連絡が来るんだよ。」
__アレ?なんか質問と答えが噛み合っていない気がするけど…。
店長は直接本人からの『辞めます』宣言は聞きたくないのかなぁ__
私:「あのね店長。 店長には直接『辞めます』って言わないほうが良いの?本部経由で聞いた方がいいってことなの?」
さっきから私と店長は まるで友達のような言葉づかいだけれど ちゃんと歳は離れている。職場にいる以上は『店長ぉ〜』って呼んでるけど 私の心の中では もう 『店長』では無いんだけどな。
『名前で呼べない』さみしさと 自分だけの『大切な人』にできない もどかしさを 『店長ぉ〜』に置き換えられるのは とてもありがたいこと。
でも それがツラ過ぎで 苦し過ぎで 限界で
私はもう ココを辞めようと思っているのだから。
店長:「……俺は直接 聞きたいね。」
__(ちょっと待って店長。急にしんみりしないでよ。さっきまで 怒ったみたいな顔 してたよね?。どういう感情の急変なの? まだ 『 辞める時はさぁ 』って言う 仮定の話しをしているだけなんだけどなぁ。 でも 直接 聞きたいんだ…。)
私:「…あ はい。じゃぁ 直接 言いますね。」
店長:「…うん。」
__だからぁ!今すぐにお別れをいう訳じゃ無いから!
『サヨナラ』を受け止める様な姿勢をとらないでくださいっ!__
私:「まだ 言いませんよ店長!まだ辞めません!」
店長:「ぅ…うん…。そぅ…なんだ…。」
___ナニ⁈この微妙な空気感。ここはお店の裏方ですけど⁈店内では ボサノバが流れてるしコーヒーのいい香りはいつも通りだし 観葉植物の葉っぱも ホコリもなくて綺麗スッキリ!なのに どうしてココだけ こんな どんよりしてるの?私が変なタイミングで 変な話題を切り出しちゃったってこと?
店長:「昨日さ 突然1人 バイト君が辞めるって言ってきたんだよ。フードも作れるし 動きも良くて期待してたんだけどさ。ガッカリしてて…それで君が今日またそんなこと言うからさ…」
店長の言葉が 床にぽろっと落ちて止まった。
そっか。あの男の子 辞めるんだ…。そんな事があった次の日に また私が『辞める時はさぁ 』なんて言い出したからか…。最悪なタイミング。
私:「まだ辞めないってば!聞いただけ 大丈夫!
(もう少しだけ)店長の側に居てあげるよ 。しょうがないなぁ もう!」
___何が大丈夫か分からないけれど こういう時は
大丈夫って言わないと いけない気がする!
私:「オーダー取ってきます。店長 裏あと頼んでもいいですか?拭き上げるだけなんで 大丈夫ですよね?じゃ お願いします!」
店長:「うん…分かったよ。表はお願いね。」
その日以来 『辞める時はさぁ …』の続きは 話したことがないよね。
何人も新しいバイトさんが入ったり辞めたりしたけれど 私は結局 辞めずにココにいる。
「……俺は 直接聞きたいね」
って言ったくせに。
「辞める時はさぁ…」
って言ったら また
【 × × × × × × 】
になっちゃうから。
店長 × × × × 。
*フィクション* 「 辞める時はさぁ、…。 」