曇りのち豆大福

朝7時、準特急の電車に揺られながら豆大福を求めて京都へ向かう。柔らかな春の匂いと陽射し、有線イヤホンから流れるサウンドトラック。文庫本、惜しむようにページをめくった。
駅を出てすぐ、風が前髪を崩した。左手で直しながら見上げると、一面グレーの曇り空。雲の隙間からさした鈍い光がレンガで舗装された道を水面のように揺れている。新しいスニーカーで京都御所前の細い道をまっすぐ。出町柳の商店街。朝の静けさのなか、ふわっとお餅のいい香りが満ちる。木箱とお餅の並ぶショーケースに身体に残った眠気がすっと消える。あともう少し。空いたお腹、ついあれもこれもと買ってしまった。帰り道、重たい手提げのビニール袋。誘惑に負けて、豆大福をひとつ。温かくてもちもちしている。豆の塩気が甘いあんこととても合う。優しい味に思わず顔がほころぶ。軽い靴音、晴れた空に、まだ青い桜の蕾。3年目の春がやってくる。

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