横浜地裁へ傍聴に行きましたというお話
なぜ傍聴しようと思ったのか
お疲れ様です。ツイッター(現エックス)の方でお世話になっている、「変なキノコ食っておかしくなった魔理沙」と申します。
普段は旅行先で撮った写真や、散歩中に見つけた面白いものをアップロードしているだけの存在です。
私は法律とは一切関係のないキャリアを送ってきて、裁判傍聴というものを何となく知っているぐらいのレベルでした。(主に阿曽山大噴火さん経由で。)
しかしつい最近、とある相続財産が未登記だったという事実が判明し、紆余曲折あり、私が自分で登記申請のための書類集めをすることなりました。(これはまた別に書くかもしれません)
それにあたり、法務局の方と申請を前提とした打ち合わせをしたのですが、何というか……ものすごくクセの強い人だったのです。思えば公的な書類をもらってくるという経験をしたのは、役所と免許センターぐらいのものだったので、それらはお堅い職業のなかでもわりと接客(?)慣れした窓口だったわけです。
普通の人であれば「もう二度と行くこともないし」という話で終わると思います。しかし、法律を運用する仕事というのは、そこまでパーソナリティに影響を与えるものなのでしょうか?
それとも、「元からそういう性格の人」が、そういう仕事に就くだけなのでしょうか?
私にとって(また、多くの人にとって)閉じられたようにも見える法律の世界ですが、実のところその門戸は、誰にでも開かれています。
それが裁判傍聴です。
行って分かったのですが、お金はかかりませんし、必要な準備もありません。(危険物を持って行かないことぐらい)
法務局の職員にならなくても、裁判官にならなくても、法律を運用する現場を見ることは、簡単にできるのです。
ということで、行ってみました。
事件の概要
選んだ裁判は、傷害致死の裁判員裁判です。
傍聴待ちの列ができており、かなり注目度の高い裁判のようでした。
今回は、精神鑑定にあたった精神科医の証人喚問でした。
まずは被告人の過去が語られます。
被告の経歴は社会的に優れていると言えるものでした。
(東京工科大学卒後、日商岩井に入社しワシントン出向。エア・アジア設立に関わる等)
ただし、東麻布の土地で地面師詐欺にあったため、数千万円を詐取され生活は苦しかったようです。
さらに父親へ1000万を貸して、その後のトラブルの遠因になったようです。
直近のキャリアとしては、会社員の傍ら、週末は伊豆の修善寺へ飛び飲食店の経営もするという忙しい毎日。
ゲストハウスも開業準備中だったとのこと。
自然、資金繰りも大変で、例の東麻布のマンションをリフォームしてから誰かに貸し、賃料を得ようと考えたようです。
そのための資材を購入し、父の住む実家に置かせてもらっていた。
しかし横浜の自宅に帰った際、父がマンションリフォーム用の資材や家財道具を捨ててしまったことが判明。
そこで衝動的に暴行に及び、頭部を殴打。救急車等を呼ぶこともなく帰宅し、父はその後亡くなってしまったとのこと。
今回の審理で罪状認否はなかったのですが、被告人は「頭部を殴打したが、それ以外はわからない」との主張。
検察側は「脊椎・肋骨などの骨折も被告人の暴行によるもの」として争っているようです。
素人目には、「殺人罪ではないのか」とも思えますが……犯行には計画性もなく、殺意があったとは断定できないのはそうかもしれません。
鑑定の結果
鑑定の結果、自己愛性パーソナリティ障害と診断。ただし自閉症、統合失調症は認められない。
発達障害は診断にまで及ばずとのことでした。
鑑定人は最終的に、事理弁識能力があると判断。
つまり「責任能力あり」ということで、精神状態を理由に減刑されるという線はなくなりました。
質問
その後は鑑定人への質問タイムです。
弁護士「自己愛性パーソナリティ障害は治療できるのか?」
鑑定人「治療法はいくつかある」(治るとは言ってない)
検察官「自己愛性パーソナリティ障害は性格であって、病気ではないですよね?」
鑑定人「はい」
裁判員の質問もありました。
裁判員「自己愛性パーソナリティ障害は生まれつきのものですか?」
鑑定人「生まれもった資質と、生育環境の両方が関係する。」
被告人質問
ここまでは鑑定人と、法曹三者(弁護士、検察、裁判官と裁判員)のやりとりですが、とうとう被告人自身が話す時間になります。
刑務官が手錠を外す瞬間は、静かな緊張感がありました。
弁護士「自己愛性パーソナリティ障害と診断されたが?」
被告人「ショックだった、自覚して人間性を変えたい」
弁護士「地面師事件があったあとから怒りっぽくなった?」
被告人「はい」
弁護士「あなたのやっていた飲食店は何ですか」
被告人「餅屋で、地元の子供たちとの触れ合いや外国人観光客とのやりとりもあって・・・」(話が長くなり弁護士が一回さえぎる)
弁護士「なのでアンガーコントロールは客商売でも必要ですよね」
(アンガーマネジメントのこと?)
被告人「(少し怒り気味に)それはわかっているし、これまでもやってきた」
弁護士「お父様の面倒を見ていらしたのですよね?」
被告人「父は銀行員だったので休みが少なくて(中略)これからは養おうと思った」
弁護士「お兄様が嘆願書を書いてくれましたが」
被告人「(親族間のいさかいについて話をしたあと)迷惑をかけた、感謝している」
弁護士「社会復帰後は?」
被告人「飲食店の経営に戻りたい。航空業界のコンサルティングもやりたい。」
だいぶ端折りましたが、話が脱線することが多かったです。
また怒気を含んで話すことも。
対して、検察の質問はシンプルでした。
検察官「これまでの審理を経ても、あなたの主張に変化はないか?」
被告人「叩いたのは頭部で、肋骨や脊椎の骨折は私のせいではない。むしろその点に関しては、絶対にやっていない確信を得たという意味では、変わった」
検察官、呆れながら質問終了。
弁護士が、すかさず質問を追加して
弁護士「この場はあなたの情状のためにあるので、罪状認否の場ではない、お父様と喧嘩別れになったという事実についてあなたの心情は?」
被告人「残念無念といったところ。」
その後、裁判長が休憩を告げました。一時間ほどでした。
裁判官の追求
再開後、被告人がまっすぐ挙手します。
裁判長が供述を求めると、またも「暴行したのは頭部」という主張。
この点に関しては「わかってますから」という感じで、軽く流して、すぐ裁判官の質問に入りました。
裁判官「お父様が荷物を処分した理由は?」
被告人「自分への腹いせと、認知症の両方」
裁判官「父の足腰が衰えていたのは事実か」
(家の中で転倒して死亡したという線を疑っての発言?)
被告人「旅行のとき、雨でもないのに傘を持って杖にしていた」
裁判官「隣人の証言によると散歩はしていたようだが?」
被告人「雨の日以外、してはいた」
ここから裁判長。
裁判長「絶縁するという旨のメールがあった日から犯行まで、父との連絡はなかったのか?」
被告人「なかったが、家にいるかいないかの電話はしたかもしれない」
裁判長「父目線で考えれば、一方的に荷物が送られてきたうえに連絡もなかったと。荷物を捨てたいと思うのは当然では?」
被告人「私に連絡が欲しかったが、目障りだったろうとは思う」
裁判長「これからはどこに住むのですか?」
被告人「修善寺に住みたいが、商店街から立ち退きを要求されている。東麻布のマンションは売り、実家は担保に取られるので別の持ち家に住むことになるかも」
(別の持ち家がなんなのかはわかりませんでした)
その後
審理は終わり、次は日程の調整だと思ったのですが、裁判員裁判はどうやらスケジュールが全て完璧に抑えられているのか、行われないようです。
検察官が提出した書類の誤字(松→末など)を読み合わせていました。
そして最後に被告人が証人喚問を請求。
内容は、外傷の鑑定をした医師を再度呼びたいとのこと。
(被告人は裁判長に向かって、祈るように手を合わせていました)
裁判長が却下すると、弁護士が「異議を申し立てます」と発言。
この言葉は、逆転裁判以外で聞いたことがありません。
弁護士「証言が不明確であったため、再度の証人喚問を請求します」
しかしまたも却下。
ともあれ、被告人の「傷害致死の罪状認否で徹底的に争う」という姿勢が垣間見えました。
終わりに
これは有罪か無罪かという裁判ではないのですが、罪状認否の点で激しく争っているという印象でした。
初めての裁判傍聴で、法律の運用の世界を肌で感じることができ、とても嬉しいです。
当初の疑問は解けないままですが、法律が、より臨場感のあるものに感じられたことは間違いないです。
あと気になった点をいくつか。
・検察官がマル獄シリーズのバッグを使っていました。
自分もこのシリーズが好きなのですが、検察官が持つとまた違った意味を感じます。
・弁護士が使っているノートパソコンがうちのと同じでした。
・裁判所がとても立派。
裁判員裁判をこなすだけあって、すごい建物です。
以上です。
今後、追記するかもしれません。
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