中干し

私の家は、台所が二階にある。
西側に面した台所の窓から、眼下に広がる田んぼが一望出来る。
 毎日必ず立つ台所から見える田んぼと、その先にある林と、北へと連なる山々は、四季折々、姿を変え、色を変える。

 白い雲が立ち込める梅雨の朝。
ついこの間は台所の湯気が懐かしく嬉しかったのに、蒸し暑さを感じて窓を開ける。
 青田を渡ってきた風が快い。

田に水が張られ、田植えがあり。
見る度に育っている青い稲の群れが、渡る風の動きを見せる。

 ずっと来ていた白サギと鴨の夫婦が姿を見せず、ムクドリが群れを成して田んぼの畦に降りている。
 それを見て気が付いた。
今年も、中干し(ナカボシ)が始まっている。

 中干しとは、
6月の下旬頃に2、3本で田植えされた苗がブンケツして20本程に増えたところで田んぼの水を一時抜き、田んぼを干すことだ。
その理由は
一、去年の切り株の残りが腐って発酵して出たガスを抜くため。
二、稲に一時、水を与えないことによってしっかりと根を張らせる。
そうすると丈夫で倒れにくい稲になり、そこに付く稲穂も良いものが出来る。
三、水を抜かずに置くとブンケツがどんどん進んで稲の数ばかりが増え、そうなると米の実の数は少なくなり、実の入りも悪くなる。
だから、一時水を切らすことによって、ブンケツを20本位で止める。
※ 水を抜き田んぼの水を干す期間の目安は、稲の葉の先が微かに黄色くなったところ中干しは終了する。
そこで、キレイな水をたっぷりと与えると、稲は根を張り丈夫にグングン育つ。
そして、しっかりとした良い実をつけるのだ。

何時、どれだけ、それを行うか。
日にちが決まっている訳ではない。それを行う形としてのマニュアルはない。
それは、毎回、その時の稲を見て、稲と会話しながら決めて行う。
いつもの時期が来ても、その年の稲が育っていなければ待つ。
ブンケツが早ければ、早めに行う。
稲は生き物だ。天候だって毎年毎回違う。
中干しの止め時も、やり過ぎてもいけないし、足りなくてもいけない。
目の前にある稲を見て、稲に教わるのだ。
稲と会話出来ない者は、良い米を作れない。と言う。

以前に初めてこの話を聞いた時、矢鱈と感激した。納得した。
教育、子育て、自分を育てるのも、人を育てるのも同じだと思った。

 麦踏みというのが、ある。
大分前のことだが、私は麦をしっかり根付かせるためにするというこの麦踏みを、麦の両脇を踏んでいくのだと思っていた。
そしたら、何と麦の真上から踏みつけていくというではないか!
ビックリした。それで大丈夫なのか!と思った。

麦踏みは、麦が柔らかい若いうちでないと出来ない。大きくなって硬くなってからでは折れてしまうのだ。

でも、真上から踏むと知った時は、びっくりして納得したっけ。


私は、よくビックリする人間だ。
でも、ビックリするのが好きなのだ。
自然は、自然と人間の付き合いは、知れば知るほどビックリさせてくれる。


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