「ビル・カニンガム&ニューヨーク」を観た
※2014.06.01 03:49
NYタイムズ紙で社交界やストリートファッションを撮り続け、ファッションコラムも執筆する大御所老カメラマンのドキュメント
ファッションなぞ爪先ほども興味ないので、芸術家肌の気難しい老人の栄光の歴史なんて、と思いながら見始めたらこの老人の明朗さに引きこまれてしまった
俺にとってファッションは、自身の社会性の結合と発展を僅かながら助長する泡沫要素でしかない
だが老人にはそれが全てだ
何故ならこの男には魂が無い、と思った
悪い意味ではない
自己の確立が不十分な、未成熟な精神性を感じたのだ
だがいわゆる子供っぽい我儘さや感情の激しさなどは全くない、それどころかスタッフ皆に愛され、被写体の少女に「勝手に撮るんじゃねえ、カメラぶっ壊すぞ」と罵られても笑ってやり過ごす
そういう意味での「子供っぽさ」とは異なる、なにか「大人の要素」が抜け落ちた印象を受ける
老人は未だかつて恋愛したことが無いと断言する
そこで確信したのだ
恋愛には自己愛が必須だ
相手を愛する「自分」を愛してもらわなければならない
相手の心に投射して相手に欲求される自分自身、それを確定させねばならない
彼にはそれが無い
老人がフィルムに収めるのは人々の形容だ
彼等はそこに本質が顕れる、それがファッションだと云うだろう
だが人の本質の発露はファッションが全てではない
彼は人の本質を掴むつもりは無いのだ、ただその生臭い肉の奥から表層にたち登ってくる殻のかたちのみに、人間の魅力の全てを求める
彼が云う、
ファッションは鎧なんだ
日々を生き抜くための
手放せは文明を捨てたも同然だ
その通り
だが文明を捨てて成立するものこそ「人」だろう
老人は常人の精神の成熟点には至らず、その結果非常に幸福に仕事をし人生を送った
貴賎や人種ではなく形容でのみ人を差別し、その表現を記録し続け、多くの尊敬を得た
こんな幸運な人生は、そうは無い
羨ましい限りだ
つーかこんな感想の深刻な映画ではない、感想にもなっていないが、そう心に残ったので記しておく。
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