金森くん
私が小学校1年生の時だ。
ほとんど記憶はない。姉と一緒に学校へ行っていた。
クラスの子も、先生の名前も興味が無くて覚えてなかった。
母が教えてくれなかったからだ。学校ってなんだ?ぐらいだった。
ぼーっとしていた。いつも。
ただひとつ、覚えているのが、私を好きになってくれた男の子がいた。
毎日、一度は私の近くにやってきて、「何が好き?」とか、いろいろ
質問してくる。誰だかわからない、席も遠かった。だから、自閉症気味の私は、「???」という顔をしていた。
「もう、帰るの?」「目が大きいね」など。とても優しい男の子。
なんだろう、とも思わず、誰だろう、と思っていた。
「だれ?」ときいたら、「僕の名前覚えてないの?金森だよ」といったので、「なんであたしのこと知ってるの?」と聞いた気がする。
1年生の頃、友達など、いらないと思っていた。大勢が苦手だった。
夏休み明けに、学校へ行ったら、金森くんが、私の周りをくるくる回って
「髪の毛切ったの?すごく切ったね、可愛いね」と言った。
たしかに、髪の毛は切ったけれど、なんで前の髪型を覚えているのだろう、
だから、うん、ではなく「いつからのはなし?」と聞いた。
聞くと、逃げて行った。あれ????
そして、1年生の終わりの終業式の日、春休みの前の日だ。
式だけで終わるので、早く帰ろうとしたら、金森くんが、
「ねぇ、ちょっとまってて」と言ってきた。
「なあに?」と聞いたら
「一緒に帰ろうよ」
「うん、いいよ」と言ったが、校門を出たら、お互いの家が反対方向だった。
私は、右で、金森くんは左らしい。
「うちは、あっち。かなもりくんは?」と聞くと
「あっち」といって反対を指したから、
「じゃあ、ばいばい」と言って歩いていたら、
「きょうはこっちから、かえるよ」といって付いてきた。
ふぅ~ん、って思ってとぼとぼ歩いていた。何も話さない。
私は、子どもの時自閉症ぎみだったのでまったく話さないのが普通の状態。
で、私の家の前に着いて、「ここ」っていったら、
「うん、じゃあね、ばいばい」といって金森くんはニコッと笑って帰っていった。
その笑顔をとても覚えている。すごく優しい雰囲気の男の子。
「ただいまーー」って帰って、玄関を開けたら、母が、
「今日ね、金森くんのお母さんが家に来たのよ、」という、
意味も分からず、ぽかんとしていると、こっちにおいで、と居間にはいると
テーブルの上に、たくさんのプレゼントが置いてあった。
絵本10冊ぐらい、犬の大きなぬいぐるみ、ペンダント、お花、ケーキ、お菓子 がたくさんある
そりゃもう、なにごと?と思うようなプレゼントの山。
私は「金森くんっていうこ、うちのクラスにもいるよ」と言った。まさか母が金森くんのお母さんの話をしているとは思わなかったからだ。
「さっき、一緒に帰ってきた」と言ったら、
「その、金森くんのおかあさんがいらしたのよ、これ持って、あなたにプレゼントだって」
頭は「??????」でいっぱいだった。そのころの私は、誰のことも好きになったことなどなかったから。クラスの子の誰のことも覚えていなかった。先生の名前も。自閉症は今は自力で治したが、人を覚えられない。興味がある人しか覚えられないのだ。
母はすごく喜んでいる、可愛いぬいぐるみね~とか、本もこんなにたくさん、姉は、お姫様みたいなお花~🎵と言って喜んでいる。
なんで?
だから、意味も分からず、怖くて触れない。じーっとしていると、母が、
金森くんに、お礼の電話を掛けましょう。と言った。
へ?なんで? 小1の私は、別に欲しくなかったからだ、(今から思うと冷たいこどもだ)喜怒哀楽があまりない、自閉症の症状だ、嬉しいとも思わない。ってこと。
「いらない」の一点張り。母は困っていたが、ここは、電話しないといけません、と言い張った。結構私を納得させるのは至難の業だったのだ。
で、わたしは、電話をすることになった、母が電話して、私に代わる、という感じで。
「はい、金森くんよ」
わたしは、何を言えばわからなかったけれど「プレゼント、ありがとう」と言った。
そしたら、金森くんが「ぼく、引っ越すんだ。手紙書いてもいい?」と言ってきた。
引っ越し、、手紙???プレゼントとは全く違う答えが返ってきた、これが苦手なのだ。自閉症の人はわかってくれると思う。
事前に言っておいてくれないと、困るだけで、何も言えなくなる。
「そう」といって、母に電話を渡した。
で、うまい具合に母が仲良く取り持って、電話を切ったと思う。
引っ越しって、何の話?
そう、彼は転校したのだ。
金森くんは、あなたを好きだったんじゃない?と母に言われても
まさか。と思っただけ。でも、よく話しかけてきたなぁって。
2年生になって手紙が来た。でも、返事を書かなかった。
優しい子だった。本当に。プレゼントの多さの衝撃も覚えている。
もっと仲良くなってたら、好きになったかもしれない。
まだ物心の付かない私、小1の私は、ふぅん。だった。
今から思うと、金森くん、かわいいな、と思うけど。あれっきり。
わたしが人を好きになるのは、まだまだ先、中学に入ってからだった。
まじで、ぼーっとしていた子供だった。
金森くんは、とても大人だったんだな。ありがとう