誰だったの?
不思議な話を思い出したので、書いておく。
それは、父が亡くなって、通夜をした。
うちは、父の友だちが何人かと、母と私だけだった。
父の親戚とは仲が悪くなっていたので、連絡しなかった。
友人だけを呼んだ。
みんなよい人で、私は父の結構年取った時の子どもだったので、
父の友だちから見たら私は、孫みたいなものだった。
母が、お寿司やお酒を用意して、
みんなで父の話をしていた。
女所帯だったので、徹夜をするのは、私たちだけで、
おじさんたちは、夜電車のあるうちに、気を利かせて帰って行った。
あたしが片付けして、母が、外までみんなを送り出していた。
残ったもの、捨てて洗い物をしてたら、ひと気がして振り向くと
部屋の隅におじさんがまだ立っていた。
「あれ?こんな人いた?」結構濃い顔でそんなに年取っていない。
「あ、もうみなさん、お帰りになりましたよ」と言った
すると、2,3枚の紙を渡しに来た。
「私はこういうものです」
見ると、そのおじさんの生い立ちから、めくると若いころの写真、
学生の時の写真、今の写真が写っている。
「?・・・父とは、どこでお知り合いになったのですか?」
ちょっと怖くなって聞いてみた。
すると、その返事はせず、
「あの、今日、行くところがないのです、ここに泊めていただけませんか」という。
誰この人・・え?
「あ、それは、申し訳ないですが、出来ないんです。母と私だけなので」
というと、玄関のあく音がして母が帰ってきた。
玄関まで走って迎えに行きながら、
母に「これ見て、今日泊まりたいって言ってるんだけど、警察に電話するね」とこっそりおじさんには聞こえないように言った。
「ごめんなさい、うちには泊まれません。警察に電話しますね」と部屋に戻っておじさんに言ったら、少し悲しそうな顔をしていた。
母は、書類を読んでいた。
私は電話で警察に電話した。おじさんの動きを見ながら。おじさんは、ずっとかなしそうに見ている。悪い人ではないだろうけれど、知らない人を泊めたことなんかないから、怖すぎる。
警察がでた「もしもし、」というと、警察で電話に出た人が10人ぐらいの声。「はいもしもし」「事件ですか?」10人ぐらいの声がいっぺんに話しかけてくる。
なにこれ、「あの、混線しているんですけど、1人の人で対応してください」こんなことってあるの?きっと、いっぺんにみんなが電話を取るとこうなるの??こんな時に混線してるってどういうこと?
「あの、すぐにうちに来てほしいんです。知らない人がいて・・」
5人ぐらいが「はい、わたくしともう一人で伺います。住所は?」とわいわい聞いてくるから、何人でも来い、と思って
「世田谷区、○○の、、」番地を言おうとしたら、まったく出てこない。
実家の住所を忘れてしまった。この時はもう結婚してたので、実家の住所がパッと出てこないのか?と思って驚いた、なんで?なんだっけ??
「ええと、ちょっと母に変わります」といって、母に
「住所いって、警察の人呼んで」と受話器を渡したら、
「なんで?」という、「なんでもいいから、早く」と言いながら、部屋を見ると、おじさんがいない。
あれ?おじさんは?その書類の、と母に聞くと、
「何言ってんの、誰もいないわよ、これなに?」と
書類はそのままのさっき渡されたおじさんのわけのわからない生い立ちを書いてあるものだった。
「逃げたのかも、いいから、住所教えて来てもらって」と言った。
母は、変な顔しながら住所を伝えて、来てください、と言った。
電話混線してたでしょ?って聞くと「ううん、何が?」と聞いてくる。
母は、もともと、天然だ。ぼーっとしている、働いたことがない。
世間知らずだ。
なんでも真剣に考えているのを見たことがない。
もしかして混線がわからないのか?
まぁ、いいや、
「わたし、さっきの人探してくる」といって、家中と、近所をぐるぐる回って、探したが、いなかった。
帰って、母に、家に帰ってきたとき、知らない靴あった?
と聞いたが、「わかんないけど・・たくさんの人が来たからね」という。
その後警察が来て、その書類と、変なおじさんの話をして、
「通夜だったので、誰かが紛れ込んだのかもしれませんね、香典泥棒かもしれません、パトロール強化します」と。
私はおじさんの写真書類を渡して、誰かわかったら教えてください、
おいたちと写真だけで、名前も住所も書いてなかった。
「気持ち悪い、確信犯だったのかなぁ」とミステリー好きな私は言った。
母は、もう、違う話をしていた。興味がないといつもそうだ。
特に誰も父が亡くなっても泣くことなく、
「ママ怖いから一緒に寝ようよ」と言ったら、
「お通夜は、起きてるものよ」と母は言ったが、
「じゃあ、ここで布団敷いて寝るよ」といって、
その日は仏壇の部屋と父の棺桶の隣で布団を敷いて寝た。
最後に、母が、「そのおじさんって、どっから帰ったのかしら」と言った。
そう、母は廊下に立っていたので、そこを通るしかないのに。
え?急にぞっとした、
電話の混線も、あのおじさんも、いなかったのか?
あたしだけに見えてたのかなぁ、やだぁ。
と思ったが、もういいや、と思ってねた。
これは、今でもはっきりとおじさんの顔を覚えている。
泊めてもいいかな?と思ったくらいの優しい顔した人だった。
まさか、幽霊だったのか。
少し幽霊を見ることがあるが、あんなにはっきり見たことは無い。
幽霊なら、幽霊ですと、申告してくれ。
と怖がるのも疲れて、ぐっすり寝た。
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