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第3回(全7回) 気候変動の原因と対策を、科学的手法の知識をもとに整理して、すとんっと腑に落ちるようにしたい

 書籍やネットで情報は見つけられるけれど、もうちょっと掘り下げたことが知りたいなぁだったり、嘘か本当かわからないものだったり、出典が英語のため読む気力が失せたりします。
 自分なりに知ったことをここで皆さんと共有したいと思います。


11.なぜ世間は深刻に捉えて行動しないのか

 気温1.5℃以下の上昇まで抑える対策を、6年後の2030年までに行うことがひとつの目標となっています。問題の大きさに対して6年は短いと感じます。

 個人的には、自分も将来世代も生存が難しく問題だから、常にマスコミや行政はこの情報を周知し、あらゆる場所で民衆は議論し解決の方向を探るような動きが出るべきだと思っています。
 でもそうはなっていません。なぜなのかを考え、まとめてみると8つありました。

(1) 差し迫っていることが認識できない仕組み

 気候変動は年を追ってその激しさをどんどん増していきます。指数関数的な増加です。*1)

 指数関数的増加とは増加率が一定なので、時間が進むと増加量はどんどん大きくなります。

 有名な話があります。殿様が家臣に褒美を取らせようとしました。家臣は、初日は米一粒、翌日はその2倍、3日目には前日の2倍を褒美に欲しいと言いました。

 何だそんなことでいいのか、と殿様は認めました。でも30日後には5億3687万粒になり、その藩は破産しました、という話です。30日後には30倍ではなく5億倍以上になっています。これが指数関数的増加です。


指数関数的な増加のイメージ。増加率が一定だと、増加量は膨れ上がる。

 指数関数的な増加は人々に、大丈夫でなくなるまで物事はうまくいく、と思わせる傾向があります。
 従って温暖化は自分が思っているよりもずっと破局に近いところにいる、と思うようにしたほうが良いです。*2)

(2) 自分とは無関係の別な世界の話

 特に先進国では、自然と人間との関わりが比較的薄くなっています。そうすると自然は自然の問題で、人間とは別な世界、と意識的・無意識的に思うようになります。

 つまり温暖化などの気候変動は自然の営みであって、人間生活とは関連性がないという考え方になります。場合によっては自然は人間の従属物だと考えるようになります。すると人類の技術で自分の生活はなんとでもなる、と楽観的に捉えてしまいます。*3)

(3)こわい

 温暖化を止めるには二酸化炭素を減らさなければならない、というところまではわかっている人は多いと思います。でもどうすれば二酸化炭素を減らせるのかわからない、とかそもそも不可能だと直感的に思っているかもしれません。

 計り知れない問題の深刻さを知ってしまったら、どのような心理的ストレスを受けるかという恐怖心から、一連の気候変動について距離をとっているのかもしれません。

 余命宣告をされて治療法がないならば、知らないまま死にたい、という気持ちに近いかもしれません。

(4) 話題にするのはトラブルの元だ

 内心心配だけど、このようなテーマは人間関係のトラブルの元になるに違いない。だから口に出さない。ということかもしれません。

 特に家族持ちだったりすると、悪目立ちして自分だけではなく家族まで奇異の目で見られるかもしれません。はだしのゲンのとうちゃんみたいですね。
 周りがザワつく行動をしそうになったら、家族の誰かにいさめられているのかもしれません。

 中高生は内申点をはじめ、将来の進学・就職に不利に働く懸念から、公の場で真剣に話題にすることは避けているかもしれません。

(5)数十年先の話を考える余裕がない

 日々の生活や仕事に振り回されて、自分が生きているか死んでいるかわからない将来を考える暇がないのかもしれません。
 仕事を忙しくしていると、本を読んでじっくり考えるのは難しいと思います。子供が小さければその世話や直近の将来について悩むのが優先されますし。

(6) 気候変動対策のネガティブな面に注目している

 気候変動対策は経済や生活が悪化するから、むしろ人間にとって有害である、という情報に影響されているケースです。
 これは「損失回避」とよばれます。人は良くなることを推奨されるより、悪化するものを心配するものだ、という心理状態です。*4),*5)

 気候変動対策をすることで経済的、社会的に大きな便益をもたらす可能性が高くても、その対策が経済に不利益をもたらす可能性がある、というネガティブな主張に人は惹かれるのです。

次に述べる気候変動懐疑論者・否定論者はその心理も利用しています。

(7)一緒に話し合う仲間がいない

 私がそうなのですが、普通の知り合いや友達に気候変動について話し出せば、乗ってこないです。むしろ引かれます。
 知った情報を共有し、話して、どうしようか考える、というようなことを一種の知的遊びと捉えて楽しんでくれる人は、なかなか見つかりません。

(8)気候変動懐疑論者・否定論者の活動

 誤った情報に含まれている考え方の間違い「誤謬ごびゅう」を意識的に拡散する、気候変動懐疑論者、より強い表現では気候変動否定論者による活動の影響です。*7)

 以上8点ほどを挙げました。多分もっとあると思います。
 
 気候変動はほぼ100%人間の活動が原因であることは明確になっています。
 自分の人生だけでなく、自分達の子供や孫世代は今と比べてより厳しい生存の危機に見舞われる、という見通しもほぼわかっています。

 厳しいかもしれませんが、それでもさまざまな理由を挙げてこの問題を避けたり、行動しないなら、いくらその人が子供や孫をはじめ下の世代にあたたかい眼差しを向けていても、その奥には利己心、無責任、傲慢が潜んでいるのではないでしょうか。
 このような情けない大人を、下の世代は見透かしているように思います。
 今自分がそのどうしようもなく怠惰な大人の一人になっている、ということを考えると、非常に残念な気持ちになります。

*1) 別途まとめる予定ですが簡単に。GDPと二酸化炭素排出量は関係があります。そのGDPはある一定割合で常に成長することが求められています。これが経済成長です。成長率が年々同じであれば福利効果によって、年間の二酸化炭素排出量はどんどん増え、結果として温暖化が激しくなるという理屈です。

*2)「現代気候変動入門」アンドリュー・E・デスラー著、神沢博監訳、石本美智訳、名古屋大学出版会。第10章, 10.3.3項

*3) 「資本主義の次に来る世界」ジェイソン・ヒッケル著、野中香方子役、東洋経済新報社。第1章 P.68

*4)みずほ証券 x 一橋大学 ファイナンス用語
  https://glossary.mizuho-sc.com/faq/show/1148?site_domain=default

*5) 日本生命 新社会人のための経済コラム 第152回 損失は利得より約2倍大きく感じる?!ー損失回避性とは。2022年10月11日付。岩崎敬子。 
  https://www.nissay.co.jp/enjoy/keizai/152.html

*6) 「現代気候変動入門」アンドリュー・E・デスラー著、神沢博監訳、石本美智訳、名古屋大学出版会。第13章, 13.3項

*7) 「世界一クールな気候変動入門 情報を正しく判断するために」ジョン・クック著、加納安彦監訳、縣秀彦、海部健三、鴈野重之、小西一也、小林玲子訳。河出書房新社

12.気候変動懐疑論者、否定論者

 いま最も必要なことは、科学的手法で確立された確かな情報を、多くの人と共有することだと思っています。
 それがあれば目指すゴールは明確になり、そのゴールに一緒に向かう人も増えると思うからです。
 そこでやっかいなのが、気候変動懐疑論者・否定論者です。
 気候変動のコンセンサスに異議を唱え続け、しかもその正当な理由を提示できない科学者を、気候懐疑論者または気候否定論者と呼びます。

 彼らは科学的真実となったものに疑念を抱かせようとします。その戦略は1960年代のタバコ戦略1970年代のフロンガス戦略および酸性雨戦略と、歴史的に何度も採られたものです。

 その基本的戦略は、規制しないことを正当化するために、科学的手法で導かれた真実に不確実性と疑念を生じさせることです。科学が相手側にある場合、科学者の信用を落とし、相手側の科学的優位性を相対的に打ち消そうとするのです。

 気候変動懐疑論者、否定論者の用いる誤謬ごびゅうは大きくわけて「ニセの専門家」「誤った論理展開」「ありえない期待」「チェリーピッキング」「陰謀論」の5つの種類に分けられます。*1)

 ここでは、気候変動問題におけるチェリー・ピッキングについての概要のみを述べます。
 これは自身の意図に沿うよう作為的にある期間のみを切り出し、気候変動への人間の関与に疑問を投げかけたり、否定するために利用することです。

 彼らのバックには、世の中が気候変動問題にしっかり取り組むと不利益を受ける存在が控えています。彼らは一生懸命に気候変動の認知や理解促進を妨げ、次の行動に向かう意志を挫けさせようとします。

 不利益を受ける存在とは、大企業や投資家などの資本家です。
 これは歴史的、経済的、政治的、社会的にみて間違いない事実と考えてよいと思います。

 ※なおここでの資本家という用語は、共産主義的な意味合いなど何かしらのイデオロギーが付随してくる言葉ではなく、単なる経済用語として扱っています。 
 (「左翼」とレッテルを貼りたがる人が出てきそうですが、立ち位置が違います)

本項目の全般は
*)「現代気候変動入門」アンドリュー・E・デスラー著、神沢博監訳、石本美智訳、名古屋大学出版会。第1章, 1.4.1項、第13章, 13.2, 13.3項、補足2.1

**) 「1965年連邦紙巻きタバコ表示広告法」の成立過程とタバコ業界の戦略 <論文>、岡本勝。広島大学 学術情報リポジトリより2024年11月入手。https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp
を参照。

***) 「気候変動についての「思い込み」を検証する」国際連合広報センター。https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/climate_change_un/mythbusters/

****) 「いまさら温暖化論争? 温暖化はウソだと思っている方へ」江守正多、2015/12/2(水) 19:38記事
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/5f5df85f609bb6b5a6e9d2ee55ddcf0c8641d71e

また懐疑論者のもちいる手法の種類分けについては、
*1) 「世界一クールな気候変動入門 情報を正しく判断するために」ジョン・クック著、加納安彦監訳、縣秀彦、海部健三、鴈野重之、小西一也、小林玲子訳。河出書房新社。P.4

13.まとめ

 気候変動問題は、表立った話題にはなかなかなっていません。
 しかしいま生きている私たち(社会的立場がそれなりに確立されている30〜50代を想定しています)が後世に対して責任を自覚し、取り組む必要があります。

 一方で自己の内面や外的要因で、誰もが話題にできる状況にはなっていないと認識しています。

つづく・・・

次回は
14.気候変動への対応
の予定です。 

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