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懐疑論者は危険
(注)旧記事では「全4回」としていましたが、その後、より理解が必要になったのでひとまず今回でおわらせることにしました。
気候変動懐疑論者はごく少数でありながら、気候変動対策の足を引っ張るのに十分な影響力を持っています。
それが社会に大きな損害を与えているということを共有したいと思います。
1.懐疑論者の使う誤謬
考え方の誤りから間違った結論になるのを誤謬(ごびゅう)と言います。*1)
気候変動懐疑論者のなかには、うっかり間違っているのではなく、人を騙そうとする意図で誤謬を用います。
(追記1始)気候変動懐疑論者に限らず(追記1終)懐疑論者がよく用いる誤謬は、「ニセの専門家」「誤った論理展開」「ありえない期待」「チェリーピッキング」「陰謀論」に分類されます。各分類はさらにいくつかのタイプに分類されています。*2)
*1)「世界一クールな気候変動入門」(ジョン・クック(著)、加納安彦(日本語版監訳)、縣秀彦、海部健三、鴈野重之、小西一也、小林玲子(訳)、河出書房新社)日本語版読者の方へ。
*2)同上
2.懐疑論者は結論ありき
懐疑論者は科学的説明などを尊重する気はありません。彼らの結論は決まっています。それは気候変動は起きていない、人為的な要因ではない、というものです。
この結論に沿う情報を都合よく抽出し、さも本当かのように声高に唱えます。
彼らは科学を装いながら実際は科学を尊重しません。政治的、金銭的なものが動機です。
気候変動懐疑論者懐疑論者はごく少数に過ぎないのですが、科学や専門家の信頼を損ね、大企業などの資本家を利することが目的なので、大騒ぎして悪目立ちするよう振る舞います。
政治は経済の従属変数に成り下がっているので資本家の意に沿う政策が決められ、懐疑論者を後押しします。*1)
(以下追記)一方で心から懐疑論を信じている人もいるはずです。心からその説を信じ、逆に懐疑論を馬鹿にする人たちの無知に同情し、転向するよう根気強く訴えている人たちです。
*1)「資本主義・デモクラシー・エコロジー」(千葉眞(著)、筑摩選書)。P.95
3.懐疑論者が危険である実例 (追記)
一説には自らのアイデンティティを揺るがす出来事が起きたり、社会から疎外されていると感じたことが、懐疑論を支持するようになった原因ではないか、との考察があります。*1)
東日本大震災の時の原発事故後の経験から、高い確率で正しいと思います。
当時、放射性物質の拡散により福島は人の住むところではないと確信した人々がいました。彼らはSNSを使い、福島からの避難を呼びかけました。加えて農漁業の再生は不可能だ、汚染された土地に二度と住むことはできない、子供をそこで育てるのは親として無責任だ、と繰り返しました。
それに加えて本当の情報を政府は隠している、と触れ回りました。
当時の政府が国民とのコミュニケーションを軽視していたことで、この言説に拍車をかけた面はありました。
もちろん被曝による健康被害の可能性が高い地域は避難する必要がありました。不安な心を落ち着けるために避難する人も、その動機を問題視する必要はありません。
問題は自らが信じたいことを事実であるかのように拡散し、科学的エビデンスを陰謀論と見做して信じないよう触れまわり、事実を歪めた人たちです。
彼らは善意の衣を被った懐疑論者で、デマを拡散した主体です。
彼らのほとんどは悪意はなかったと思います。むしろ社会的不正義がなんの落ち度もない人たちに一方的に降りかかっていることに同情し、怒っているようでした。
一方でその同情の根底には、自らの後ろめたさを隠したいという感情が存在しているようにも見えました。東電管内の関東は、なんのリスクも追わずに電気を使っていたことに気づいたからです。
いずれにしても彼らの同情に基づく行動は逆効果でした。
科学的根拠の前では過剰で不要な行動を呼びかけていたからです。彼らの悪意のない善意は風評被害を拡大させた一つの原因です。
彼らの行動は福島の人々の自尊心を傷つけ、復興の気概を折り曲げ、生きる気力を削ぎました。
当時、堀江貴文氏が彼らを批判していた本質的な課題認識は、上記によるものだと理解しています。
あの時は不明瞭なことが多かったから仕方なかった、という擁護も誤りです。科学的根拠は当時からわかっていて、専門家は何度も説明していたからです。
同じようなことが、コロナ禍でも起きました。
このように、懐疑論者は「間違っているだけでなく、危険でもある」のです。*2)
*1) 「エビデンスを嫌う人たち 科学否定論者は何を考え、どう説得できるのか?」(リー・マッキンタイア(著)、西尾義人(訳)、国書刊行会、P.53 - 54)
*2) 同上。P.75
次回は・・・
3. 懐疑論者は自由市場原理主義者
4.懐疑論者を無視するのは社会に有害
5.懐疑論(デマ)の実例
です。