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第7回(全7回) 気候変動の原因と対策を、科学的手法の知識をもとに整理して、すとんっと腑に落ちるようにしたい

 書籍やネットで情報は見つけられるけれど、もうちょっと掘り下げたことが知りたいなぁだったり、嘘か本当かわからないものだったり、出典が英語のため読む気力が失せたりします。
 自分なりに知ったことをここで皆さんと共有したいと思います。


21.GDP削減とは何を意味しているのか

 前項の内容を読んで「いやいやそんな単純な話ではない。GDPは国民全員の生活に直結し、減れば貧しくなるのだ。」「経済成長は人々の幸福のために必要だ。」「こいつは経済をわかっていない。」という感想が出そうです。

(1) 資本主義は当然視するものなのか

 上記のような感想は資本主義社会を当然視する立場で考えているからかもしれません。
 ではなぜ資本主義社会は当然だと見做されているのか。その理由を調べることはひとつの科学的手法になると思います。

 少なくとも現在の金融資本主義社会については「イデオロギー的かつ疑似宗教的な性質を帯びた、富の物神崇拝」という分析がされています。モノを神として崇拝しているということです。*1)

 これは資本主義社会にその必然性を示す根拠がない、とか根拠の検証が不十分とか、資本主義が必然であるという理論に穴があることを意味していると解釈できます。

 ちなみにここで「宗教的」とありますが、無批判に信じることを要求する場合、それは宗教ではなくカルトや原理主義ではないかと思います。したがって宗教的という表現に妥当性があるかどうかは疑問です。

(2) 二酸化炭素排出量を決める3要素と資本主義システム

 資本主義社会は経済成長を必ず要求するシステムです。経済成長とはより多くの資源を使ってより多くの財を作り出すことです。

 前回述べたように物質的豊かさは二酸化炭素の排出量を決める一つの要素です。

 ということは資本主義社会の元では、二酸化炭素の削減は十分できないという結論になります。

 このように、二酸化炭素の排出量を決める3要素(人口、技術、豊かさ)と、資本主義の唯一の目的が際限のない財の蓄積だということを知ると、気候変動の解決と資本主義社会が両立しえないことが明らかになります。

 そうすると霧のようにかすんでよくわからなかった気候変動の解決策が、かなりクリアに見通せるようになります。

(3) 気候変動問題の根本的な解決

 風邪をひいた時、鼻水を抑える薬を飲んでもそれは対処療法であって、根本的に治すのは寝るしかない、というのと同じく気候変動問題の根本的治療は、資本主義社会から別の社会システムへの移行、ということになります。

 資本主義は気候変動の社会歴史的な原動力であるので、それを解体しない限り気候変動は食い止められないのです。*2)

(4) 新しい社会システムとは何を指すかを伝えることは難しい

 仮に資本主義システムをやめるとして、じゃあどうすればいいのかという課題があります。
 この課題について記述することは、かなり慎重に考えねばなりません。なぜならイデオロギーや政治性を感じて拒否反応を示すケースが多いと推測するからです。

 しかし気候変動対策の進展を阻害する要因が物質的豊かさで、その際限のない増殖システムが資本主義特有の現象であることを踏まえれば、資本主義社会という政治的かつイデオロギー的な分野に入り込まざるを得ません

(5) とはいえ動く必要がある

 むしろ科学的手法で気候変動を語るだけでは、単なる評論家でしょう。
 将来世代に対する責任を果たすためには、気候変動について主体的に働きかけ取り組む必要があると考えます。

 取り組みとはなにか、と考えてみます。
 その最初のステップは、科学的手法で検証された事実を知ることです。この7回の記事ではそこに寄与したいと思いました。

 次のステップはおそらく、私たち人間はなんのために生きるのか、そのためには社会はどうあるべきか、そのためにはどうすれば良いのか、について社会的なコンセンサスを形成することです。

 3つ目のステップは、目指す社会のゴールを設定することだと思います。

 これらは国内外の政治・行政による具体的なアクションの前段階だと思います。

 この大きな枠組みについて議論することは、ある意味政治的と言えます。しかし人間社会はお互いを知り、折り合いをつけることの積み重ねです。それはそもそも政治的なものです。
 その延長線上に、気候変動の解決につながる社会システムについて議論する、というテーマがあると思っています。

(6) とりあえずのゴールは生態学的社会主義

 ひとまずのゴールは、資本主義社会に代わる何かしらの社会システムを構築することです。

 昨今の社会問題は気候変動だけでなく、人種差別、性的マイノリティ、貧困、戦争、教育格差、インフラの劣化、政治不信などあります。
 これらは資本主義の矛盾によって生じている現象であると論じられています。*4)

 素人ながらその課題についてさまざまな資料をあたっていくと、もっともよさそうなのが社会主義社会への移行です。
 ただここでいう社会主義は、最近の研究や実践をふまえてアップデートされた社会主義です。
 人によってはこれを生態学的社会主義と呼んでいます。*3)

 社会主義という言葉は、日本ではおそらくイメージが悪いです。
 国内外の歴史的出来事で失望しただとか、資本家による長年のネガティブキャンペーンがそう思わせている、などいろいろ原因はあると思います。

 現在の金融資本主義社会は、政治が経済の下僕、あるいは経済のたんなる従属変数になっています。*5)
 世の中は少数の資本家による寡頭制の支配のもと動いていますので、*6) 資本主義は本質的に反民主主義です。*7)

 思えば会社員は上司の指示に従わねばならず、逸脱すれば罰が与えられ、場合によっては首を切られます。
 上司の上司の上司・・・とたどっていくと必ず資本家に行きつきます。
 以上より、資本主義社会に民主主義は存在しないという理屈になります。

 民衆の意向と政治的決定が乖離し政治不信が生じる背景は、このような非民主的な制度のもとで世の中が運営されているからだと推定できます。

 一方で社会主義社会については、経済学者のヨーゼフ・シューペンターが1942年に発表した「資本主義・社会主義・民主主義」のなかで、「社会主義と民主主義との間に不整合はなく、両立可能である」と述べています。*8)

 社会主義社会に移行することで民主主義社会を構築し、気候変動問題に取り組むことが世の中の過半数を占めれば気候変動問題の根本的な解決に向けて物事は前に進むはずです。

(7) 成功する可能性があるのに何もしない理由がない

 いつかは綱が切れる資本主義の空中ブランコにいつまでもぶら下がり、綱が切れるのに身を任せるのか、命綱をつけて比較的安全に生態学的社会主義社会の空中ブランコに飛び移るのか、という決断がいま求められているのです。

 *1) 「資本主義・デモクラシー・エコロジー」千葉眞著、筑摩選書。P.301。「脱成長」(2020年邦訳)セルジュ・ラトゥーシュからの引用
 *2) 「資本主義はなぜ私たちを幸せにしないのかナンシー・フレイザー著、江口泰子訳、ちくま新書。P.139
 *3) 同P.195
 *4) 同書の全般を通して
 *5) 「資本主義・デモクラシー・エコロジー」千葉眞著、筑摩選書。P.95
 *6) 同P.220
 *7) 「資本主義はなぜ私たちを幸せにしないのか」ナンシー・フレイザー著、江口泰子訳、ちくま新書。P.208
 *8) 「資本主義・デモクラシー・エコロジー」千葉眞著、筑摩選書。P.326

22.全体のまとめ

 科学的手法がとられた情報が信頼できるものである根拠をまとめました。

 気候変動懐疑論者の存在と目的、その手段についてまとめました。

 両者を合わせ、何が信じられる情報かを見分ける方法をまとめました。

 気候変動問題をどの程度深刻に捉えるべきものか、にもかかわらずそうなっていない現状の認識をまとめました。

 気候変動問題には気候変化そのものを回避する緩和対策をとるのが現実的であることをまとめました。
 緩和対策は人口、技術、物質的豊かさの3要素で構成されており、豊かさを調整するのが現実的であることをまとめました。

 物質的豊かさの調整は想像よりずっと日常生活に影響がなく、実現可能であることをまとめました。

 物質的豊かさを調整するとはGDPを減らすことで、資本主義システムをやめて別な社会システム、つまりアップデートされた社会主義(生態学的社会主義)に移行することが、気候変動問題の根本的解決につながる、ということをかなり大まかに共有しました。

 やらなければ失敗、やれば成功するかもしれない、ならばやってみるのが良いのではないか、というごく単純な見解を述べました。

23.参照した書籍などについて

 気候変動問題を科学的に見ていたはずなのに、最後は社会システムの話に移っています。
 科学的コンセンサスを得た知見で気候変動を理解すると、本質的な原因、つまり人間の営みを決めている社会システムについての理解ができる、ということがわかりました。
 偶然知った本から多少手を広げたら、そのようなつながりがあることを知り、面白かったです。

 気候変動対策として個別具体的な施策が考案され、行動に移されています。それ自体は否定するものではありません。
 一方で本質的な原因を解決しない限り、対処療法的で抜本的な解決はできないことも明らかです。

 全7回の記事は以下の書籍を参照し、さらにそれらの出典も必要に応じて参照しました。研究者から見れば極々少ない点数でしょうが、目的は科学的手法で検証された情報を共有することなので、この程度でも許していただけたらと思います。

気候変動問題を、科学、政治、社会など全般的に網羅して理解するためには、本シリーズで頻繁に引用した「現代気候変動入門」(アンドリュー・E・デスラー著、神沢博監訳、石本美智訳、名古屋大学出版会)が理解しやすいです。

 最後に触れた資本主義と気候変動との関連性については「資本主義の次に来る世界」(ジェイソン・ヒッケル著、野中香方子役、東洋経済新報社)がわかりやすいです。

 温暖化のみならず、資源の浪費による人間生存の危機についても言及され、人類がいかに地球を改変し、自らの首を絞めているか、そしてその解決方法は様々ある、という希望も見える内容です。

 なにより気候変動の根本的原因が資本主義社会にあることをわかりやすく説明しています。

 「資本主義はなぜ私たちを幸せにしないのか」(ナンシー・フレイザー著、江口泰子訳、ちくま新書)はより広く社会問題全般と資本主義との関係性を大変わかりやすく分析しています。

 本書で社会的・経済的格差、グローバル・サウス、戦争、人種・性別による差別、資源の浪費による自然環境の破壊と生物多様性の喪失などの、あらゆる問題の根本原因が資本主義社会にあることが理解できました。

 特に資本主義を経済システムと捉えるのではなく、資本主義社会という社会システムに拡張して考えることを提案し、驚きの視点を提供してくれます。

 本書は気候変動問題だけに焦点を絞って資本主義を語ることに否定的です。もっと広くみなければ誰もが真の幸福に近づくことはできない、と言っています。

 私は期限が短く割ける人員も有限である以上、優先順位をつけざるを得ないと考えています。そして最優先するのは気候変動対策だと考えています。なぜなら間違いなく人類存亡に関わる問題であり時間がないからです。

 上記ジェイソン・ヒッケル、ナンシー・フレイザーの主張に重なる部分もありながら、さらに日本社会とのつながりを視野に入れているのが、「資本主義・デモクラシー・エコロジー」(千葉眞著、筑摩選書)です。

 欧米の著者は実例がどうしても欧米などに偏ります。それに対して本書は日本の実例も挙げていますので、より身近な問題であることを認識できます。

 本書では資本主義、民主主義、エコロジーの関係性について、古今東西のさまざまな政治・経済・社会の視点を取り入れて考察しています。科研費を獲得して行われた研究の成果物でもあるので、専門家のコンセンサスを得た内容だとみてよいと判断しています。
 気候変動を含めた現在の社会システム全般の理解と課題について理解を深め、日本という社会に当てはめて理解することができました。

あとがき

 全7回を通し、気候変動の課題と本質的な原因、つまり急所について多くの人と共有したいと思って取り組みました。
 それはたまたま手に取った上記に挙げた数冊の本でわかったからです。

 それまではリサイクルや太陽光発電で、なにか良いことをしているようにイメージしていましたが、気候変動の本質的な意味については理解していませんでした。

 これからも関連した記事が書けたらいいな、と思っています。

 最後に、長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。


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