【神聖かまってちゃん】予定調和をぶち壊すバンドが用意した最初で最後の予定調和。
「終わらせねぇぞ!!」と叫ぶの子。ライブの最後の最後にの子の本音が溢れたように感じた。何としてもこの瞬間を終わらせまいとするの子さんの姿にこみ上げてくるものがあった。
幕を閉じた第1章
神聖かまってちゃんの第1章が先日1月13日に行われた「メランコリー×メランコリー」Tour Final Zepp DiverCity Tokyo にて幕を閉じた。会場に足を運び、実際に共有した空間のなかで感じたことを書き記したい。
“神聖かまってちゃん”との出会い
神聖かまってちゃんとの出会いは10年前、2010年だったと記憶している。Album「友達を殺してまで」を聴いて、神聖かまってちゃんに心を掴まれた。今まで聴いてきたどのバンドとも違う何かを感じたが、それを言葉にすることは出来なかった。ただ、確かな閉塞感を感じていた学生時代に人生の先が見えた気がして絶望していた。“予定調和”な人生がこの先もずっと続いていくんだと静かに絶望していた。いま振り返ると、そんな予定調和をぶっ壊してくれる存在が、“彼ら”だったように思う。
終わりと始まり
開演時間を回り、5分ほど遅れて舞台の幕があがった。「メランコリー×メランコリー」TourのFinalであり、この4人での最後のライブであり、新章の始まりでもあった。
Vo.の子はステージに登場すると、「いつだって終わりはくる。人生でもなんでも。今日は神聖かまってちゃんとして1つの終わりが来る。だからお前ら、その終わりの終わりまで、叫べ、動け! 衝動をくれよ、俺に。別に歌わなくたっていい。垂直立ちでも、体育座りでもなんでもいい。その衝動をくれ! 全部感じ取ってやるから」と叫んだ。それに客席も呼応するように熱を上げて、最後の瞬間へのカウントダウンが始まった。
この日のオープニングナンバーは『怒鳴る夢』だった。バンドの始まりの曲であるエピソードを話してくれた。
怒鳴るゆめはどこまでもあの海を越えてくから
悲しい顔もたまにゃ隠すさ
そう誰よりも何よりも叫ぶVolはフルで
なめられないように歌ってやるのだ
こんなに『夕暮れの鳥』が悲しくも暖かく感じることは今までには一度もなかった。
夕暮れの空の下
一人きりでも歌うんだ
僕がいるなら
君もそこにいるから
『るるちゃんの自殺配信』神聖かまってちゃんの真骨頂のような楽曲。ポップなメロディに現代を風刺するような皮肉に満ちた歌詞を乗せている。この歌詞は、の子さんにしか書けないと感じる。
中央線に飛びこんで
傍迷惑な奴だと言われて
いつだってそこにいたんだ
少女はさっさと死んじゃった
FBIに聞いたって分かんない
彼女のメッセージ
いつだって叫んでたんだって
『夕暮れメモライザ』大好きな1曲。この日はより一層叙情的な曲に化けていた。
「諦めない」 やな言葉だ
少し寂しいからやってみるよここからさ
動いてもだ
まともなスタートラインが見つからないんだ
生きることはなんか苦しいから
エロビデオ見せてくれ
夕暮れの空が綺麗だ 諦めないよ
僕はきっと もっと寂しい自分が何してもいるよ
川辺のねこ にゃーっと寝っころがった
「諦めてもいいんだよ」
少し優しいんだよこの時間が僕には
夕暮れメモライザ
鳴り止まない「ちばぎん」コール
「ちばぎん」コールが響くなか、ちばぎんは何を思っていたのだろう。どんなことを考えていたのだろう。の子は、monoくんは、みさこさんはどう感じていたのだろう。そんなことを考えていると再び4人がステージに立った。の子はマイクを手にすると、 「主人公は俺だぁ!!ちばぎんではない。主人公は俺だぁ!!」と一言。会場は笑いに包まれる。
この一言は今までのライブなら言葉通り、素直に受け取れたのかもしれない。だが、この日だけは、言葉の裏に見え隠れするものを感じずにはいられなかった。悲しみや名残惜しさといった表現では陳腐になってしまうのだが、あの一言には様々な思いが透けて見えた気がした。
アンコールの1曲目は『天文学的なその数から』。個人的には、ちばぎんと言えばこの曲。
そして満を持して演奏された『ロックンロールは鳴り止まないっ』でフロアの熱は最高潮に達する。平成生まれの自分にとって、平成で発表された曲のなかでベストな1曲を選ぶとすれば、間違いなくこの曲を選ぶだろうと思う。個人的には人生で最も衝撃を受けた曲だ。
会場全体の熱を維持したまま、畳み掛けるように『フロントメモリー』へ。
鳴り止まない2度目の「ちばぎん」コール
別れを惜しむかのような最後の「ちばぎん」コール。ダブルアンコールに応えて姿を現したメンバー。の子は「ちばぎんみたいに金がないけど幸せを手に入れた人。monoくんみたいに離婚して地獄に落ちた人もいる。でも、どんだけ成功しても失敗しても、死は平等にやってくるから。お客さんの中で、本当は今日いたはずの人もいたと思う。俺もファンの中で死んだやつを何人か知っているけど、人生はすぐ終わるんだよ。だから衝動とか魂みたいなものをバーストさせるんだよ! 死ぬ前に『あれをやっておけばよかった』とかって絶対に絶対に思うんだよ。悔いが少しでも残るから、だから今やるんだよ!!」と話す。
そして、ちばぎんのタイトルコールによって始まった最後の一曲。『23歳の夏休み』
ギアをあげて今を過ごしています
ひどすぎる夏休み走り出す
君が僕にくれたあのキラカード
その背中に貼り付けてやるよ
今すぐに
ちばぎんの誕生日会でビンゴをしていたとき、1人抜け出してちばぎんの部屋に潜り込んだの子。「演奏が続くなか叫ぶようにして話す。「俺は家で探したよ。幼稚園の頃に、ちばぎん家でやったお誕生日会でパクったキラカード。確かパクったのは『キングガンダムⅠ世』のキラカード。でも、なかったー!! だけど、もう1枚が見つかりましたー!! 『ギガサラマンダー』のキラカード。あと、『キングガンダムⅠ世』のカードは見つからなかったから、『バーサル騎士ガンダム』でどうだ? こっちの方がレアだから」と約30年越しにキラカードをステージ上で返却。
『23才の夏休み』の歌詞通り、当時とは異なる大きく、背負うものも増えたちばぎんの背中に、の子がキラカードを貼り付ける。そして、の子は「今、ちばぎんの背中に、俺が昔ちばぎんから授かった熱い魂を返した!!」と大声で叫んだ。
涙を堪えきれないちばぎんは、腕で目を覆う。「泣いてんじゃねぇよ。ダイブしろ!」との子。ちばぎんはメガネをフロアに投げ飛ばし、フロアにダイブ。の子もフロアに飛び込み、歌詞の伏線を回収し、最初で最後の『23才の夏休み』が終わった。
最後の曲が終わり、涙を流す人が数え切れないほど見られた。感動的な空間のなか、の子がギターを掻き鳴らしながら「終わらせねぇぞ!!」と叫び、怒鳴る夢を歌うように促した。そこにドラム、ベース、キーボードが加わっていく。
私の世界の救世主
音が鳴り止むと、の子は「思い出ってのはいつもキレイでずりぃな」と漏らした。4人が歩んできた道程に想いを馳せ、4人が紡いできた物語をリアルタイムで感じることができたことを素直に嬉しく思った。
2020年1月13日、Zepp DiverCity Tokyoが埋まったけれど、決して売れているバンドとはお世辞にも言えない。閉塞感や疎外感を特に感じていた当時、周りの人たちが売れている音楽を聴いていたり、ヒットチャートの上から聴いているようなときに、自分も周りについていこうとして、みんなが聴いている曲を聴いてみたりもした。だけど、どの曲もしっくりこなかった。何も感じられなかった。同時に4人の鳴らす音は特別なのだと悟った。人知れず、“神聖かまってちゃん”は私を救ってくれた。そして、いまでも救ってくれている。
“神聖かまってちゃん”には売れてほしいと思っているけれど、ただ消費されるバンドにはなってほしくないと思う。
決して演奏が上手いわけではないし、歌が上手いわけではない。彼らより演奏技術の高いバンド、歌が上手いボーカリストは山ほどいる。いや、ほとんどがそうかもしへない。それでも、の子は1番のフロントマンだと思っているし、“神聖かまってちゃん”は唯一無二の最強のバンドだと思っている。異論は認めない。笑
彼らは万人を救うバンドではない。しかし、多くの人を救ってきた。私も救われた一人だ。かまってちゃんと出会った当時に抱えていた閉塞感や疎外感はいまも消え去ってはいない。それでも歩みを進めていられるのは、その歩んできた道程には常に4人の存在や音楽があったからだ。
終わりの終わり
最後までステージを去ろうとしないの子をちばぎんが肩に乗せて退こうとしている。の子は最後の瞬間まで想いをステージに残すように抗いながらも、4人はステージを後にした。
神聖かまってちゃんの第1章が多くの笑いと多くの感動、多くの涙と共に幕を下ろした。
個人的にはちばぎんの脱退が発表されてから、ライブを迎えるまでの間、感傷に浸ることもなかったし、悲しみに暮れることも正直なかった。だが、ライブ中は何度も涙が溢れてきた。堪えなければ止まらなかっただろうと思うくらい、何度も何度も涙が流れてきた。そして、その度に堪えていた。
実に4人らしい第1章の終わりだったように思う。の子にやられっぱなしのちばぎん、ちばぎんの喋りを遮るの子さん、空気が読めないみさこさん、何を言ってるかわからないmonoくん、4人が好き勝手にやっていて、笑ってしまうくらい噛み合わない感じも、この4人の神聖かまってちゃんが最後だということ以外、何も変わらない、いつも通りだった。
この10年で様々なアーティストの楽曲を聴くようになった。それでも、帰ってこれる場所がある。私にとって“神聖かまってちゃん”とはそんな存在だ。
神聖かまってちゃんの第2幕も共に歩みたい。様々な変化を経て、バンドはどこへと向かうのか。終わりの終わりまで行ってやろうじゃねぇか。
まだ、怒鳴る夢の大合唱が鳴り響いているような気がする。
るーるらーらー
約3時間の公演だった。一音も聴き漏らさないように、一言も聞き逃さないように、全てを感じて、受け取った。そして、この4人で最後のライブを心から楽しんだ。
この4人での神聖かまってちゃんに心からありがとう。
ちばぎん、本当にお疲れ様でした。
新たな神聖かまってちゃん、よろしくお願いします。
一つの時代が終わり、また新たな時代が始まっていく。
始まりがあれば、終わりがある。
終わりがあって、始まりがある。
これは逃れられない現実。
4人がこれまで確かに積み重ねてきたモノが感じられる3時間だった。
会場の皆の笑顔や涙が4人の確かな軌跡を物語っている気がする。
4人が紡いできた物語がZepp DiverCity Tokyoでフィナーレを迎えた。
そして同時に第2章の幕があがった。
SET LIST 〈2020.01.13 Zepp DiverCity Tokyo〉
01. 怒鳴るゆめ
02. るるちゃんの自殺配信
03. ゆーれいみマン
04. 日々カルチャア
05. 夕暮れの鳥
06. 映画
07. 夕暮れメモライザ
08. 毎日がニュース
09. レッツゴー武道館っ!
10. 肉魔法
11. おやすみ
12. 夜空の虫とどこまでも
13. Girl2
14. バグったのーみそ
15. 塔を登るネコ
16. ぺんてる
17. 2年
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18. 天文学的なその数から
19. ロックンロールは鳴り止まないっ
20. フロントメモリー
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21. 23才の夏休み
##.怒鳴るゆめ
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