レモンサワーで乾杯をしたら、バイト仲間を再構築したくなった話。
「元気にしてますかー?」ってメッセージを見たとき。
びっくりしたのと、嬉しさで心臓がバクバクした。驚きのあまり、キッチンにいた母親に報告しにいったもん。
「〇〇でバイトしてたときのスタッフから連絡来た!」いうて。
まず、LINEが繋がってることにびっくりした。友達追加から8年近く経ってるのに、ずっと同じアイコンやから。てっきり新しいアカウントにしてはんのやろうなって。その話をしたら「変えるのめんどうで、こだわってないし」って。あー、そういうところお姉さんらしいなって。
約束の日までの1ヶ月も、ずっと緊張しっぱなしやった。
会うのは3年ぶり、ふたりだけは4年ぶりとか。
久々やからっていうのもそうやけど、やっぱり"あの頃"の自分を知ってる人に会うってことは、今の自分からすると、ちょっとだけ勇気が要った。
*
人見知りをなおしたくて始めたバイトは、アパレルのわりになんか地味なお店で。スタッフ同士の仲もそんな良くないし。でも、当時、芋中の芋っ子だったわたしには、背伸びしなくていい雰囲気が楽だった。
飲んでたときも言ったけど、初めて会ったときのことはいまでも鮮明に覚えてる。
「光野さん、新人さん紹介するね」
店頭で商品整理してるときに、店長に声かけられて。
振り向いた瞬間、腰抜かすかと思った。
だって、見たことないくらいの美人さんが立ってるんやもん。くりくりの大きな目に、さらさらのロングヘア。ちんちくりんのわたしとは真逆でシュッとしてて。
「よろしくお願いします」って笑った顔は、店内の照明、ぜんぶこっちに向けたんか?てくらいに眩しかった。ちなみに自分がちゃんと挨拶できたかは定かじゃない。人見知り発動して、穴があったら入りたかったのだけは、かろうじて覚えてるけど。
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地方から出てきて、ひとり暮らしをする大学生。
歳はひとつしか変わらんけど、そういう面でも、実家住みのわたしにとっては、随分と大人に感じた。
スポーツ専攻なだけあっていつも爽やかで。あとから続けて入ってきた数人の学生スタッフともすぐに打ち解けていて、すごいなぁというか。ちょっと、いや、めっちゃ羨ましかった。自分にはできひんことやなぁって。
当時のわたしは、同世代と距離を置くクセがあった。
あの頃はまだ、ライターという職業に出会ってなかったから。夢も目標もないただのフリーターと、将来に向けて勉強に励むみんなとでは、住む世界が違うとさえも思ってた。就活やテストや、部活に恋愛。みんなの悩みが自分にはないお揃いのものに見えていえ、傷付くのが怖くて、予防線を貼るように勝手に壁を作った。
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チェーン店にしては、捨てメニューがないくらいに美味しい居酒屋。
2杯目のレモンサワーがとどいたとき、思い切って打ち明けた。アルコールに頼るよくない癖は、今も昔もかわっていない。
「実はあの頃、みんなに対してめっちゃ劣等感があったんですよね。ただのフリーターと、きらきらした学生。なんか自分とみんなは違うって勝手に壁作ってたんです。そんなこと、いまだに思い出して後悔してたりするんですよね〜」
自分よがりなのは分かってたけど。なんとかしてあの頃のシコリを取り除きたかった。
「いまだから言える話ですけどね、」なんて付け加えて。
「バイト終わりに駐輪場で話してたの覚えてますー?あの時間、結構好きだったんですよ。好きというか、救われてたんですよね、いつも。当時は気軽に人に吐けない悩みも多かったから。」
閉店後、原付を取りに地下の駐輪場に行く。
「寒いですね」「おなか減ったなぁ」なんて言いながら、お店でのこととか、愚痴とか、将来のこととか。いつまでも、いつまでも、だらだらと。
「覚えてますよ!いつやったか、喋ってる途中にお母さんから電話きて、テストのことで叱られた日ありましたよね。隣で聞いてたの、めっちゃ覚えてますわ(笑)」
「そうそう、よく覚えてますね(笑)光野さん、年下やのにテキパキ仕事こなしてて。フリーターさんも、社員さんも、同世代なのにしっかりなのにしっかりした人ばっかりで。わたしは就活も上手くいかないし、テストで躓いて親に叱られるしで。だから劣等感持ってたのは、一緒なのかも。きっとお互い様なんですよ。」
今日4回目の乾杯は、やっぱりレモンサワーだった。
「学生時代、いろいろバイトしましたけど。バイト仲間ってよべるの、あのお店の子らだけです。このまま、今の彼氏と結婚することなったら、絶対結婚来て欲しいレベルです。」
困ったように笑いながら話すお姉さんの笑顔を見ておもった。
レモンサワーが好きなところ
辛いラーメンにハマってるところ
餃子にニンニクをもりもり追加するところ
バイト仲間なのに知らなかった。
壁を取っ払ったいまだかこそ、そんな共通点にも気がついた。
「こんど、あの頃の仲間で集まりましょ。積もる話も沢山あるやろうし」
夢も、目標も、見つけられた今ならば。
自信を持って、堂々と、みんなと対等に話せるはず。
"あの頃"作った壁をぶち壊して、バイト仲間の続きを築こう。そんなことを心に決めた、ほろ酔いの夜でした。
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